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36 準決勝前 二人で贈る、勝利のおまじない




 昼の小休止が終わりを告げ、再び闘技場は満員に。

 Bブロック二回戦第一試合、ランキング一位『フォートレス』対ランキング二位『グラップラー』の一戦の開始が告げられた。


 事実上の決勝戦と言われているこのカード、試合開始早々、会場のボルテージは最高潮に達している。

 そんな中、最前列の選手席でリノは浮かない顔。


「リノ、どうかした? もしかして緊張してる?」


「そ、それとも、わたしがいっぱい食べちゃったせいでお腹が空いてるとかですか……?」


「そ、そういう訳じゃないよ。ごめんね二人とも、心配かけて」


 彼女が考えていたのは、ミカのことだ。

 もしもミカの目標がリノの考えている通りなら、自分が勝ってしまえば、彼女をその目標から遠ざけることになってしまう。


(でも、私だって勝たなきゃいけない。悩む余地なんか、最初っから無いんだよね)


 気持ちを切り替えて、まずは目の前で繰り広げられている激戦に集中。


「さあ、グラップラー代表のジャッカル選手! ナックルダスターを装備した拳で猛攻を仕掛ける!」


 開始直後から怒涛の攻めを見せる相手に対し、オルゴは物理攻撃を弾く結界を張り、じっと耐え続ける。

 拳の連打はことごとく防壁に弾かれるが、それでも攻め手は緩めない。


「どうした……。今年こそ俺を倒すんじゃなかったのか……。この程度の攻めで、俺の防壁を破れぬことは知っているはず……」


「承知の上さ、そんなことは!」


 息もつかせぬ連撃にも、オルゴは微動だにせず。

 受け止め続けた攻撃の衝撃が結界に蓄積され続け、その臨界を超えた瞬間。


「ハッ!」


 気合の掛け声と共に結界が弾け飛び、解放された衝撃波がジャッカルを襲う。

 受け止めた衝撃を全て結集し、結界の破砕と引き換えに相手に叩き付ける、オルゴ必殺の一撃。


「迂闊……だな……。前回と、同じ結末だ……」


「そいつは……、どうかなっ!」


 衝撃波をまともに喰らって吹き飛んだかに思われたジャッカル。

 彼は吹き飛ばされるどころか、攻撃を耐え切ってオルゴの懐に飛び込んだ。


「肉を斬らせて骨を断つ! お前の結界が破れるこの瞬間を、待っていた!」


 己の両拳に生命エネルギーを注ぎ込み、光る拳を連続で叩き込む。

 オルゴの巨体に雨あられと浴びせられる、全力の乱打。

 たっぷり三十秒間、体力の続く限りにラッシュを浴びせ続けたジャッカルは、ようやく手を止めた。


「ハァ、ハァ、……どうだ! 去年の俺とは、違うんだよ!!」


 反撃を耐え抜き、叩き込んだ起死回生の乱撃。

 勝ちを確信したジャッカルの笑みは、しかし次の瞬間には凍りついた。


「む……、見事だな……」


「な、んで、倒れない……!」


「俺の結界の強度が……、俺の肉体よりも硬いと誰が言った……?」


「は、ハハっ、化け物かよ……」


 戦意を挫かれた相手に大斧が振りかぶられ、


 ブオンッ!


 薙ぎ払われる一撃。

 刃を寝かせて叩きつけられた側面に殴り抜けられ、ジャッカルは吹き飛ぶ最中に失神。

 意識を失ったまま場外に叩き出された。


「決着ーーーッ! やはり強い、圧倒的な強さで勝負を制したのは、『フォートレス』オルゴ!!」


「「ウオオオオオォォォッ!」」


 大歓声に包まれる場内。

 この時誰もがフォートレスの、オルゴの四連覇を確信しただろう。

 選手席の一角に陣取った、二組のクランを除いては。


「……強いね、オルゴさん。やっぱり、ぞっとするくらい強い」


「そんなことはずっと前から分かってた。一緒に旅をしたんだから。リノ、やれる?」


「やるよ。たとえ勝ち目がなくっても、勝つつもりでぶつかってみる。……その前に、ミカちゃんだけどね」


 きっとミカの闘志も、微塵も揺らいではいないはず。

 必ずミカに勝って、決勝でオルゴと戦う。

 リノは改めて決意を固めた。



 ▽▽



 クランランキング七位『ラッキーパンチ』と『ジョン・ドゥ』の戦いは、またも盛り上がりに欠ける展開でジョン・ドゥが勝利。

 こうしてベスト4が出揃い、いよいよ準決勝が始まる。


「よし! じゃあ行ってくるね」


「ちょっと待って。リノはそのまま座ってて。勝利を呼ぶおまじない、かけてあげる」


「おまじない?」


 リノを呼び止めたアリエスは、ちょいちょい、とランを手招きする。

 鉄仮面を外させて彼女に耳打ちすると、ランは瞬時に顔を赤くした。


「あ、あの……、アリエスさん、それはいくらなんでも……」


「これはリノのため。そして私たちの今後のため、でもある。きっと」


 一体何をするつもりなのか。

 疑問に思いながらもじっと待つ。


「覚悟は出来た?」


「は、はい……! もうどうにでもなれです……!」


 リノが座っているのは、二人の間の席。

 ランが元の座席に戻ると、彼女たちは揃ってリノの方を向いた。


「あ、あの……、ランちゃん? アリエスちゃん?」


「正面向いてじっとしてて」


「あうぅぅ……」


 言われるがまま、正面を向いてじっと待つ。

 すると、二人の顔が近づいてくる気配が。


「ちょ、二人ともなにを——」


 ちゅっ。


 両頬に感じる、二つの柔らかな感触。

 触れた温もりはすぐに離れていく。


「……えっ? えっ? 今もしかして、二人とも……。えぇっ!?」


「……おまじない、だから」


「は、恥ずかしいですぅ……」


 目深に魔女帽を被って顔を隠すアリエスと、即座に鉄仮面を装備するラン。

 二人の表情は窺い知れないが、何をされたのかは理解出来た。


「今、ほっぺに、ちゅって……」


「……嫌だった?」


 魔女帽の影からチラリと片目を覗かせ、リノの表情をそっと窺う。


「全然嫌じゃないよ! で、でも、こんなところでいきなりなんて……」


「誰も見てないから平気。それよりリノ、今度こそいってらっしゃい」


「か、必ず勝ってくださいね! ここまでしたんですから!」


 二人の激励の言葉で、リノは頭から吹き飛んでいた準決勝のことを思い出した。


「そ、そうだね! 早く行かなくちゃ! じゃ、じゃあ行ってくる!」


 顔を真っ赤にしながら走り去っていくリノ。

 残されたランは鉄仮面を被りながら頭を抱え、そしてアリエスは。


(ランがリノにキスしても、あんまり嫌じゃなかった……。私も一緒にキスしたから……? ライナのあの提案、私は受け入れられるの……?)


 自分の気持ちと向き合い、答えを探していた。




 武舞台へと続く通路の中、リノは呼吸を整え、浮ついた気持ちを落ち着ける。

 ドキドキと鳴る心臓。

 気持ちを見透かしたかのように、相棒が軽口を叩いてきた。


『よお、美少女、モテモテじゃん』


「茶化さないでよ! そんなんじゃないって、きっと! ただの励まし!」


『な訳ないだろー』


「もう、黙ってて。集中するから」


 体を張って緊張感を吹き飛ばしてくれた二人のためにも、今向き合うべきは自分自身。

 そして、対戦相手であるミカだ。

 深呼吸して気持ちを落ち着け、リノは彼女を負かす覚悟を決めた。


「……よし。行ってくる。ライナは特等席で見てて」


『あいよ。頑張んなー』




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