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35 小休止 高飛車少女の抱えるもの




 武舞台の補修が終わり、第二試合はランキング二位『グラップラー』の圧勝に終わる。

 続く第三試合では、『ブルーム』と同じく予選を勝ち上がったクラン、『ジョン・ドゥ』が登場。

 しかし会場内の反応は、冷ややかなものだった。


「あいつ、予選で塩試合かましたヤツじゃん」

「開始早々からずっと逃げ回って、連戦でクタクタになった最後の一人を不意打ちみたいに倒したヤツな。あれは盛り下がったわ……」

「あれも作戦なんだろうけどさ、これ実力を見る大会なんだから……、なぁ」


 周囲の冒険者たちから聞こえてくる話題も、このような内容。

 誰もが一回戦で消えると思っていた。


「なんか、評判悪いね。私たちは予選見てないけど、そんなに動き悪かったのかな」


「本戦に出れなかった輩の妬みも含まれてる。この目で見なきゃ分からない」


「それもそうだ」


 アリエスの言う通り。

 オルゴがいる以上、当たることはあり得ないが、どの程度の実力かはリノも興味があった。

 なおこの間、ランはずっとリノのお腹に顔を埋めて甘えている。


 そして試合が開始。

 アハトと紹介された全身鎧の男と、ランキング十四位『クラッシュ』のリーダー、ギャランの戦いは、お互い攻め手を欠いたまま約十分が経過。

 何度も剣を合わせ、集中力の途切れたギャランの一瞬の隙を突いたアハトが、相手の剣を弾き飛ばした。


 勝利が宣告されても、歓声はまばら。

 あくびをしている者もいる始末。


「……なんていうか、弱くはないけど、地味な戦い方だね。良く言えば堅実なんだろうけど」


『最後に見せたあの剣技……』


「ん? ライナ、どうかした?」


『いやさ。古流剣術……になるのかな、この時代では。あたしの時代に使われてた剣技に、ちょっと似てたかなーって。まあ、気のせいかもしんないけどねー』


「ふーん……」



 ▽▽



 Aブロック二回戦第一試合。

 クルセイドからはウリエが出場し、ハンマーで相手を壁まで吹き飛ばして瞬殺。

 続く第二試合はリノが危なげなく勝利。

 Aブロックの二回戦が終了したところで、一時間半の休憩となった。


 時刻は昼過ぎ、闘技場前の通りに並ぶ飲食店は、昼食をとる観客や冒険者で溢れ返っている。

 どこも満員満席。

 出遅れてしまったリノたちは、空いている店を探して彷徨っていた。


「ごめんなさい……。わたしが寝ちゃったから……」


「起こさなかった私も悪いんだし、おかげでランちゃんの可愛い寝顔も見れたんだから。そんなに気にしないでよ」


「その通り。中々眼福だった」


「あぅぅ……」


 膝の上で甘え続けた末に、安心感から眠ってしまったラン。

 リノの試合が始まる直前、膝枕をアリエスにバトンタッチして鉄仮面を被せてきたのだが、試合が終わった後も彼女は眠ったまま。

 あまりにも気持ちよさそうに眠っていたため、二人は起こせずにいたのだった。


「とは言っても、どこか探さないといけないよね……」


 周囲を見回したリノは、とあるカフェのテラス席に空席を発見。


「お、あった! 二人とも、急ごう!」


 ランの手を引いて急ぎ入店。

 店の中は満席、空席は通りに突き出たテラスの一区画のみ。

 リノは素早く駆け込み、席を確保するために手を伸ばす。


「取った!」


「ですわ〜!」


 リノが椅子の背もたれを掴むと同時、横から伸びてきた手が同じ場所を掴んだ。


「「……ん?」」


 隣に顔を向けると、同じくこちらを見ているミカと視線がかち合った。


「……離しなさいな、リノ・ブルームウィンド」


「嫌だよ、私が先だったし」


「いいえ、わたくしが先でした!」


「ぬぬぬ……。アリエスちゃん、私が先だったよね!」


「お姉さま、わたくしですわよね!」


 幼馴染と姉に援護を求めた二人。

 同時に振り向くと、頼みの二人はポートやウリエ、ランと談笑しており、残念ながらこちらを見てはいなかった。



 その後、ポートの提案によって店から三つの椅子を借りたリノたち。

 七人で同席し、テーブルを囲んで昼食を堪能する中、不意にミカがため息とともに愚痴をこぼす。


「まったく……、なんであなた達なんかと昼食を共にしなければ……」


「それはこっちのセリフ」


「なっ……、なんですって! アリエス・エアリーズ!」


「一々フルネームで呼ばないで。鬱陶しい」


「うっとぉしいぃ……!? も、もう勘弁なりませんわ! 表に出なさい、ボッコボコにして差し上げます!」


「上等。リノが手を下すまでもない。私が再起不能にしてあげる」


 ガタリと席を立ち、睨みあう両者。

 一触即発の空気の中、リノが仲裁に入る。


「まあまあ、二人とも。ほら、他のお客さんの迷惑にもなるし、ここは控えて、ね?」


「む……、リノがそう言うのなら……」


「ミカ姉もさー、なんか小物臭いぞー。もっとどっしり構えてこーぜ」


「し、失礼ですわよ、ウリエ! もう、興が削がれましたわ……」


 それぞれに宥められた二人は、渋々ながらも大人しく着席し、ひっそりと視線をぶつけて火花を散らす。

 そんな彼女たちの様子に、リノとポートは苦笑いを浮かべた。


「ごめんなさい、リノさん。ウチのミカが失礼なことを……」


「いえ、ポートさんが謝ることじゃないですよ」


「そうですわ~。ミカちゃんが短気なのがいけないんですから~」


「短気じゃありませんわ!」


 ガブリエラの発言に突っかかるミカ。

 つい大声を張り上げてしまい、周囲を見回した後、ハッとした表情を浮かべる。

 気まずそうにうつむいた彼女は、絞り出すような声で呟いた。


「わたくしは、ただわたくしは……」


 食卓に訪れる沈黙。

 一人黙々と食べ続ける幸せそうなラン。

 重苦しい空気を払拭するため、リノは話題の転換を図る。


「あ、あの。ポートさんってミカちゃんたちの師匠なんですよね! どんな経緯で弟子にとったんですか?」


「あぁ、言っちゃってもいいかな」


 三姉妹の顔を見回すポートだが、特に異論は出ない。

 彼は頷くと、三人の身の上話から始めた。


「彼女たちは、実は血の繋がった姉妹じゃないんですよ。教会は孤児院同様に孤児を受け入れているのはご存じですか?」


「聞いたことはあります」


「この子たちも、そんな親のいない子供なんです。僕がまだ冒険者と神官を両立していた頃、僕の活動を耳にした彼女たちが、自分も冒険者になりたいと言い出しましてね。あまり危険なことはして欲しくなかったのですが……」


「言いだしっぺはミカちゃんだったわよねぇ」


「懐かしいな。ミカ姉のヤツ、あたいらを半ば無理やり巻き込んでさ」


「う、うっさいですわ! 二人も嫌がってたのは最初だけじゃない!」


「僕は三人を鍛えあげ、同時に四人だけのクランを立ち上げました。それが『クルセイド』。彼女たちだけで依頼に行かせるのが心配で、付いていく口実のために作っただけなんですけどね」


 そこまでを懐かしそうに語り、最後に。


「そして、彼女たちが一人前になった頃、僕は冒険者を引退しました。Sランクに上り詰めて、弟子を三人も育てて、なんと言うか、燃え尽きてしまったんです」


「そうだったんですか。ポートさん、まだ全然やれるのに勿体ないなぁ……」


「もう本当に、全部やりつくしましたから」


 晴れやかな笑みを浮かべるポートとは対照的に、ミカの表情はより一層曇っていく。


「でもさ、師匠が引退した頃からなんだよな。ミカ姉が短気になったのって」


「だから短気なんかじゃ……、もう!」


 ウリエに突っかかるミカ。

 アリエスの乏しい表情を観察する中で、他人の感情に敏感になっていたリノは、彼女から怒りとは違うものを感じ取った。


(ミカちゃん、もしかして……)


 確証は無いが、今までの言動と合わせると辻褄が合う。

 だとしたら、彼女の心を軽くしてあげられるかもしれない。

 リノも力を得るまでは、アリエスに対して似たような感情を抱いていたのだから。




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