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33 本戦開始 高飛車少女の実力は




 決勝トーナメントでは、鳴きガエルの風船は使われない。

 どちらかが降参するか戦闘不能になる、または審判員が危険と判断するまで続く、過酷なルールとなっている。

 なお、万一対戦相手を殺害してしまったとしても、故意でない限り罪には問われない。

 もっとも、この数年、大会中に死者は出ていないのだが。


 ミカと対戦相手が武舞台に上がり、第一試合の準備が整った。

 戦いを前にミカは、闘技場最前列に座るアリエスに挑戦的な視線を送る。


「うわぁ……。どうするのさ、アリエスちゃん。意識されまくってるよ」


「そうだね。リノが出るって知ったらどんな反応するのか、ちょっと楽しみになってきた」


「アリエスさん、もしかして悪い顔してます?」


 アリエスの右隣にリノ、そのまた隣に座ったランが、体を前に倒して覗きこみながら尋ねる。


「うん、してる。ほくそ笑んでる」


 とっても楽しそうなアリエスとは裏腹に、リノの気は重かった。


 ミカだけじゃない。

 会場中がアリエスの登場を待ちわびているのだ。

 そんな空気の中、自分が出ていったらどうなるのか、考えただけでぞっとする。


「さぁ〜、準備は整いました!」


 場内に司会の声が響き、リノは思考を一時中断する。

 彼女の実力がどれほどか、勝てる見込みのある相手なのか。

 この目に焼き付けておかなければ。


「ランキング三位『クルセイド』、代表はミカ選手! 対するランキング十一位『ランサーズ』、代表はロッソ選手! 今審判が台上に上がって……」


 審判員が高々と手旗を掲げ、振り下ろす。


「試合スタートです!」


 合図と同時に、両者手にした武器を構える。

 ロッソの得物は長柄の槍、対するミカの武器は、トゲの付いたメイス。

 構えをとったまま、お互いに間合いを計り、相手の出方を見る。


「さぁ、どうしたのかしら。かかってらっしゃい」


 挑発的な笑みを浮かべながら、手招きするミカ。


「それとも、格上に挑みかかるのが怖いのかしら。だったら怪我しないうちに、尻尾を巻いて降参しなさいな」


「調子に乗るな、小娘がっ!」


 まんまと挑発に乗り、槍を構えて突進するロッソ。

 ミカはクスリと笑い、勝利を確信した。


「……クイック」


 一瞬の魔力チャージの後、彼女は補助魔法を発動した。

 ミカのユニークスキルは【サポート】。

 補助系の魔法を自在に操ることが出来る。


 主にパーティーメンバーにかけるサポート魔法だが、もちろん自分にもかけられる。

 今彼女が使用した魔法は、素早さを二倍にまで上昇させる魔法。

 突き出された槍の穂先がミカを貫く寸前、彼女の姿が消えた。


「なっ……、どこに……!」


「ブースト」


「そこか——」


 左の耳に届いた、呪文の短縮詠唱。

 ロッソは素早く左を向き、槍の柄で攻撃を受け止めようとする。


 バキィッ……!


「バカ、な……!」


 しかし、振り下ろされたメイスの一撃は彼の槍をいとも容易くへし折った。

 筋力を増強させる補助魔法『ブースト』。

 この効果により、彼女の攻撃力は大幅に上がっていたのだ。


 武器破壊を確認した瞬間、審判員は素早く手旗を上げる。


「け、決着ーーーッ!! なんと、一瞬の交錯によるスピード決着! ミカ選手のクラン『クルセイド』が、圧倒的な力を見せつけて二回戦進出です!」


 地鳴りのような大歓声を受けながら、ミカは武舞台を後にする。

 彼女の戦いを目にしたリノは、呼吸をすることすら忘れていた。


「……ねえ、ライナ」


『お、どうした。人のいる場所であたしに話を振るなんて』


「私、あの子に勝てると思う?」


『……んー、どうだろうね。でも、いい勝負は出来ると思うよ』


「いい勝負、か……」


 左隣に目を向ける。

 アリエスの表情から、いたずらっぽい笑みは消えていた。


「……リノ。やれる?」


「正直、分かんない。でも、やれるだけやってみるよ。オルゴさんはあの娘より、もっともっと強いんだし、ね」


 アリエスと同格のAランク冒険者、そしてクランランキング三位。

 ミカの人柄と雰囲気に流されて、どこかでナメていたのかもしれない。

 オルゴの前に越えるべき壁として、リノはこの戦いを深く心に刻んだ。



 ▽▽



 第二、第三試合が終わり、いよいよ第四試合。

 リノ率いる『ブルーム』の出番がやってきた。


「リノ、初戦の相手はたかがランキング十三位。気楽にやって華々しく勝利を飾ってきて」


「気楽に言ってくれるね。それでも大分格上だよ?」


「お、応援、して、してますから、が、頑張ってくだくだくださいねっ!」


「あ、ありがとう。ランちゃんもあんまり緊張しないでね……」


 アリエスとランの二人に激励を受けたリノ。

 バクバクと踊る心臓の鼓動を感じながら、席を立ち、通路を抜けて。


「……ふぅー」


 選手用の通用口から、闘技場に出る直前、深く深呼吸をして気持ちを整える。


『おうおうどうした美少女。一丁前に緊張しちゃってさ』


「うっさいな。するに決まってんでしょ」


『するだけ損損。だーれもあんたに期待してないんだから。出てった瞬間、負けて当然だと誰もが思うだろうねー』


「……いや、あんたさ」


『そんなギャラリーに瞬殺劇を見せてやる。みんな度肝を抜くだろうね。どう? ゾクゾクしてこない?』


「ライナ……。ふふっ、そうだね。そう考えるとちょっと楽しみかも。ありがと」


『お礼なら要らないよ、相手を華麗にやっつけてくれればさ。じゃ、あんたのデビュー、特等席で見せて貰うからね』


「よっし! 行くよ、ライナ!」



 第四試合の選手入場を目前にして、闘技場内の観客の目が『ブルーム』側に注がれる。

 予選で鮮烈な無双を見せたアリエスの活躍を、誰もが期待して、待ち望んでいた。


「リノまだかな。早く出てこないかな」


 そのアリエスが、観客席最前列に座ってウキウキでリノの出番を待っているとも知らずに。


「さあ、お待たせしました! 選手入場です!」


「「ウオオォォォォォォッ!!」」


 司会の声に、会場は湧きあがる。


「まずはクランランキング十三位! 『マッドドッグ』の、ルガール選手!」


 大振りのバスタードソードを手に、姿を見せた剣士の男。

 彼に送られる歓声は、あまり大きくはない。


「そして、クランランキング七十九位! クラン『ブルーム』の——」


 闘技場のボルテージは最高潮にまで上がる。

 が、次の瞬間。

 熱狂は困惑に変わった。


「リノ選手ー! ……って、あれ?」


 武舞台に姿を現したのは、アリエスではなく無名の少女。

 歓声がざわめきに変わり、対戦相手のルガールも二度、三度と目をこする。


「あわわわわ、この空気は……。アリエスさん、どうしましょう……」


「慌てないで。ここまでは想定内」


 右往左往するランとは対照的に、落ち着き払ったアリエス。

 舞台上のリノも、非常に冷静な様子。

 と、その時。

 ズドドドドド、と、けたたましい足音を鳴らしながら、ミカがこちらに突っ走ってきた。


「ちょっと! アリエス・エアリーズ!! 一体これは!!! どういうことですのッ!!!!」


「どうもこうも、見てたら分かる。きっとあなたも驚くから」


 開いたリノの座席をポンポン、と叩き、ここに座れのジェスチャー。

 ミカは納得いかないながらも腰を下ろす。


「許しませんわよ、この舐めきった選出! わたくしとの勝負から逃げた、これはそう受け取ってしまって構いませんわね!」


「構わない。だって、リノは私より強いから」


「……ふん! あなたがそこまで言うのなら、見せて貰いましょう。ですが! 期待外れでしたら許しませんわよ!」


「えー、コホン」


 ざわめきが収まらない場内が、司会の咳払いで落ち着きを取り戻す。


「そ、それではAブロック第四試合です! 審判、お願いします!」


 審判員が舞台上へと進み出て、掲げた手旗を振り下ろす。

 無名の冒険者リノが、その名を世に知らしめることになる、その最初の試合が今、始まった。




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