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30 大会当日 ライバルによる宣戦布告




 朝の日差しが差し込む中、体を起こしたリノは、うーんと背伸びをする。

 隣には静かに寝息を立てるランの、可愛らしい寝顔。

 そして胸元には、ライナの赤い首飾り。


「……結局昨夜はなんだったのさ、ライナ」


『ちょっと体をお借りして、若人わこうどのお悩み相談してあげただけ。リノは気にすんな』


「悩みって、もしかしてアリエスちゃんの? 私に聞かれたくなさそうだったから?」


『鋭すぎるね。やっぱハーレム作る素質あるよ。お姉さんが保証するわー』


「まーた訳の分からんことを……」


 時々ライナが口にする、ハーレム。

 言葉の意味は知っているが、誰と誰でハーレムを作れというのか。

 そもそもハーレムなんて、相手に失礼じゃないのか。


「んぅぅ、リノさん……?」


 寝ぼけ眼を擦りながら、もぞもぞとベッドから這い出して来たラン。

 彼女はそのままリノのお腹に飛び付き、顔を埋める。


「おはよう、ランちゃん。ごめんね、騒がしくしちゃって」


「いいんです……。ふぁぁ、寝起きのリノさんいい匂い……」


「ちょっ、さすがに恥ずかしいから!」



 朝食の準備を終えたところで、アリエスがいつも通り少し遅めに起きてきた。


「アリエスちゃん、おはよう」


「……お、おはよう、リノ」


 目が合った途端、頬を赤らめながら視線を逸らされる。

 アリエスの妙な反応にリノは早速、胸元にいる疑わしい存在へとジト目を向けた。


「おい、アリエスちゃんに何吹き込んだ」


『吹き込んだなんて人聞きの悪い。あたしはただ、悩める若人をだね……』


「さっきも聞いたし」


 もう一度、アリエスにこっそりと視線を送った。

 ランの髪を梳き始めた彼女の表情は、どこかすっきりとしているようにも見える。

 悩みの相談に乗った、というのもまんざら嘘じゃないのだろう、きっと。



 ▽▽



 王都北区画の中心に存在する、巨大な円形闘技場。

 クリーンなスポーツから、血塗られた奴隷闘士の決闘まで、幅広い用途に使用されているこの場所に今日、多くの冒険者たちが詰めかけていた。


「うわ、強そうな人がいっぱいいる……」


「国中から名だたる冒険者たちが集まってるんですよね。ほ、本当に大丈夫なんでしょうか……」


「心配ない。全員オルゴさん以下の有象無象の雑草共」


「そりゃアリエスちゃんならそう言える資格あるかもだけどさぁ」


 闘技場前の広場に集まった三人。

 リノは緊張でガチガチになり、ランはおろおろ、堂々としているのはアリエスだけ。


「せっかくの晴れの舞台。リノの実力を今日こそ、天下万民に知らしめてやる」


「え? 決勝まではアリエスちゃんが代表で出てくれるんじゃないの?」


 予選・本戦共に、クランのメンバーから一人を選び、一対一で試合を行う。

 試合ごとに出場選手を変えられるため、クランの層の厚さがものを言う、のだが。


「私も出る。予選の雑魚散らしは任せて。でも本戦は、リノに大活躍してもらうから」


「うわー……」


 どうやらアリエスは、リノ一人に本戦全試合を任せるつもりらしい。

 思わず天を仰いだリノだが、アリエスは確信している。

 リノならやれる、と。


 とうとう訪れた、クラン対抗戦の当日。

 下馬評は完全に『フォートレス』一強。


 アリエスがクランに入ったことは多少注目されているものの、他のメンバーが無名のBランクと、見るからにひ弱なEランクの子供。

 アリエスのワンマンチームでは、予選突破が関の山だろうと見られている。


「……だって。優勝は一位の『フォートレス』と、二位の『グラップラー』に絞られる、か」


「なんだこの新聞記事。その腐った目を見開かせて、思いっきり目を覚まさせてやる」


 リノが【収納】で取り出した、今朝届いた記事。

 アリエスはそれをひったくり、怒りに任せてファイアボールで焼き払う。


「ちょ、ちょっとアリエスちゃん、新聞勿体ない! 後で色々使えるんだから!」


「ごめんなさい、ちょっとはしゃぎ過ぎた」


 周囲の注目もしっかりと集めてしまった。

 アリエスの姿を見つけた冒険者たちが、各々遠巻きに観察する。


「あれがアリエス・エアリーズ。龍殺しのパーティーの一員か……」

「見た感じ、普通の女の子って感じだな」

「バカ、甘く見るんじゃねぇよ。後の二人はどうでもいいが、アリエスだけは要注意だ」

「何だあの鉄仮面」


「あ、あわわ。わたしたち、目立っちゃってますぅ」


 巻き添えで注目の的となったランは、ただひたすらにあわあわしていた。


「やあ、しっかり目立ってますね」


 そんな中、冒険者たちの輪の中から出て来た一人の男が、彼女たちに声をかける。

 神官服に身を包んだ、眼鏡の男性。

 彼の姿を目にした冒険者たちは、いっそうざわめきを強くする。


「あれ、ポートさん。もしかして応援ですか?」


「私たちの応援? ならしっかり目に焼き付けると良い。リノがオルゴさんを破り、優勝の栄冠に輝くまでを」


「いやいや。今日の僕は、あの子たちの応援なんですよ。残念ながら敵同士、ということになりますね」


 彼の背後から顔を出した、金髪縦ロールの少女。

 アリエスの顔を見るや否や、キッと睨みつけ、ズビシッと人差し指を突きつける。


「アリエス・エアリーズ! 精々今の内に目立っておくことね! 本戦ではこのわたくしが、ギタギタにしてあげるから!」


「……リノ。あれ誰だっけ」


「忘れちゃったの? ミカちゃんだよ、ポートさんのお弟子さんの」


「あぁ、そんなのもいた気がする」


「……ぐぬぬぬぬ! こんの——」


 今思いだした、と言わんばかりの態度に、肩を震わせるミカ。

 青筋を立てながら更に突っかかろうとしたところ、彼女は背後から抱きしめられた。


「はいはい、そこまでよぉ。あんまり怒っちゃお肌に良くないわぁ」


「そうだぞミカ姉。あんまりかっかしてっと将来小じわが増えるぜ」


「ガブお姉さま、お放しになって! っていうかウリエ! 小じわって何よ!」


 暴れるミカの後頭部に豊満な胸を押し当て、朗らかに笑う薄紫色の髪の女性。

 その後ろから顔を出す、サイドテールに結んだオレンジ髪の少女。

 二人はミカの前に進み出て、ペコリとお辞儀する。


「妹が失礼致しました〜。私はガブリエラ、あの子の姉をやっております〜」


「あたいはウリエ。ミカ姉は昔っからああだから、あんまり気にしないでやってくれよな」


「ご丁寧にどうも。私はリノ。アリエスちゃんのクランの代表やってます、一応……」


「あわわ、わたしはランですっ。一応クランの一員ですっ」


 お辞儀を返すリノと、それにならって頭を下げるラン。

 勢い良く頭を振ったために鉄仮面が落ちそうになってしまい、慌てて両手で押さえる。


「お二人もやっぱり、ミカちゃんと同じ……?」


「その通り。私たち三姉妹で、クラン『クルセイド』をやってますぅ」


「あたいら全員、ポート師匠の弟子なんだ。ミカ姉って普段はこんなだけど、舐めてかかったら意外と苦戦するかもよ?」


「ちょっと! 意外とってどういうことよ! とにかくアリエス・エアリーズ! そのすまし顔、冷や汗ダラダラに変えてあげるんだから!!」


「はいは〜い、そろそろ行きますよ〜」


 ガブリエラとウリエに引きずられ、ミカはわめきながら去っていった。

 そんな弟子たちを、ポートは苦笑いで見送る。


「ごめんね、アリエスさん。僕と君が同じ龍殺しのパーティーとして同格に扱われることが、ミカには気に入らないみたいなんです」


「問題ない。格の違いを思い知らせればきっと黙る。だからリノ、頑張って」


「……あ、あれ? 出るのって、リノさんなんですか? それは……、ミカが文句を言いそうだなぁ……」


 弟子の反応を思い浮かべ、ポートが頭を痛めたその時。

 周囲の冒険者たちが一斉にざわめいた。


 その原因は、並の冒険者とは纏う雰囲気から違う、堂々たる体格の二十二人の男たち。

 そして、彼らを引き連れて進む身長二メートル強の大男、オルゴ・ギャスドレイ。

 彼は人だかりの中心に目を向け、その歩みを止めた。


「野郎共……、少しだけ待っていろ……」


「どうしたんですかい、兄貴」


「顔見知りが三人、いたのでな……。挨拶をしてくるだけだ……」




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