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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Jinjer

作者: Morbid

どこかの国、現代。

要らないモノはなるべく書いていません。


BGMはLacuna CoilのOne Cold Dayで

   暗い中目が覚めると自分の部屋だった。

 どうにか部屋までは戻ってきたようだ、途中から記憶が曖昧だ。

 全身が痛い、何とか体を起こすと左腕に激痛が走った、覚えが無い、青くなり少し腫れている、ひびぐらいは入っているかもしれない、これぐらいで済んで幸運だったか。


 いつ買ったか判らない痛み止めを飲んでから包帯を探していたら部屋のドアが開いた。

 ふわりとした長い明るめの茶髪柔らかい顔に派手な化粧、暖かそうで高価そうなコート、彼女の名前はジンジャーだ。


 「あっ帰ってたのぉ?」


 相変わらず頭に響く高く少し間延びした声。

 俺の様子を確認すると不機嫌そうに見ている。


 「また揉め事ぉ?」


 無視して包帯を探す、ここになかったら買いに行くしかない。


 「…なぁに探してるのよ」

 「包帯、まだ有ったよな…」

 「…包帯ならこっち」


 彼女はベッドの下からダンボールを出しその中から新しい包帯を取り出した。

 受け取ろうと手を伸ばすと引っ込め。


 「で、どうしたのよぉ」


 口調が少し柔らかくなった。


 「腕が…」

 「うん」

 「痛い…」

 「訊ぃてるのはぁその怪我の原因なんだけど」

 「……」


 黙り、立ち尽くしていると、呆れた様な顔で俺の左手を手に取り。


 「…どぉしたのこれ?折れてるの?」

 「ヒビぐらいかな、折れてはいないと思う」

 「当て木か何か要るんじゃなぁい?」

 「その辺に鉄定規があったはずなんだが…」

 「てつのじょぉじぃ~そんな物もってたのぉ?」


 彼女は割れたTVの下の棚を漁り2cmぐらいの巾の40cmぐらいの鉄の板を探し出した。


 「これぇ?」

 「ああ、それだ」


 彼女は不機嫌そうな表情を崩さず俺をベッドに座らせ、俺の前に跪いて包帯を巻き始めた。

 定規を腕に当て、器用に巻いて行った。


 「ありがとう、上手いな…」

 「上手くもなるわよ…まったく」


 ちょっと包帯がキツイ。


 「どうせまたアノ女がらみのトラブルなんでしょぉ?」

 「……」

 「アンタが何も言わない時はいつもそうだもの…」


 彼女を見おろすと、はだけたコートの前から濃い赤いドレスが見えた。


 「もう結婚したんだよね?あの人」

 「ああ」

 「いい加減諦めたら良いのにぃ……アタシ、何時まで待てば良いのよぉ…」

 「…??」


 あっという間に巻き終わった、いくらか痛みはマシだ。


 「何驚いた顔してるの?家族でも金蔓でもないアンタに親切でにこんな事してると思ってたの?」


 ジンジャーは2年程前道端で倒れてる俺をこの部屋まで運んでくれた、それから週に何度か様子を見に来たり食料や酒を置いていく、酒を飲むのはいつも彼女だが。


 「プライベートだともう2年もセックスもキスもお預けなんだからね?」


 そう言えば俺はコイツの名前しか知らない、しかも明らかにに偽名だ。


 「そうか…そうだよな……」

 

 目が合うと睨まれた。


 「あ、ありがとうな…」

 「え、なによぉ、いきなり……冗談よぉ、本気にしないでよぉ…」


 彼女は目を逸らし俯いた。

 俺はベッドを降り彼女の横に跪き。


 「…すまなかった、俺オマエに甘えたな」

 「ちょっちょっとぉ、何…」

 「アイツの事はコレが済めば終りにする、これっ切りだ、…あ…、あ、…愛してるジンジャー」

 「ふぇぇ、あ、え?、ちょっ…イキナリなによぉ」


 明らかに動揺している、可愛いな。

 正直言って愛してるとか言うつもりは無かった、なんだ、その、勢いは怖い。

 だが実際この揉め事を終わらせれば、アノ女の望むものは全て手に入るはずだ、そうすれば俺は用無し、ヤツが俺に振り向くことなんて一切無くなるだろう。


 「明日…いや、明後日の夜ここで待っていてくれ、全て片付けて戻ってくる」


 俺を見つめる目が潤んでいる。


 「そうしたら、アレだ……キスしてくれ…」


 彼女は飛びつくように俺に抱きついた、あぁ誰かに抱き締められるは何年ぶりだ?


 「わかったぁわかったよぉぉ、でもでも、キスだけじゃ済ませないからねぇ」

 「ああ、オマエの好きなようにしろ、気が済むまで付き合う…」

 「待ってる、待ってるからぁぁ、ぅあぁん」

 「なんだ?泣いてるのか?」

 「泣いてない、泣いてないよぉ、なんでアンタの為に泣かなきゃいけないのよぉぉ」

 「そうだな、ありがとうな…愛してる……」

 「うえぇぇぇ」


 


 


 


 「これで良いのか?」

 「とりあえずそれで良いわ、仕上げは私が…」


 深夜の街外れの路地、こんな時間にこんな所に居るのは、訳ありの連中ばかりだ。

 目の前には場違いに高そうな服を着た老人。

 くぐもった破裂音、目の前の男は後頭部から血を撒き散らし崩れ落ちた、振り返るとサムは銃を構えていた。

 その銃口が今度は俺に向く。


 「ありがとう…、ふんっ、ほんとアナタは私の思った通りに動いてくれるわね」


 長い黒髪赤い口紅、キツイ顔つきの派手な顔の美女、もう20年以上の付き合いになる。

 俺が幾ら願っても、心は手に入らなかった女サマンサ…。


 「これでアナタが死んでくれれば全て計画通り…」


 俺は両手を広げ言った。


 「だろうな…」

 「…アナタ気付いてたの?」

 「気付かないと思ったのか?どれだけお前の尻拭いをしてきたと思ってるんだ?」

 「……」

 「どれだけの時間一緒に居たと思ってるんだ?」

 「…そうね、でもそれもこれで終わり」 



 まだ俺がクソガキの頃だ、サムの一家が家の隣に引っ越してきた。

 背が小さく小枝のように細い、目を離すと空気に融けて消えてしまいそうな少女だった、暫くして俺に慣れるといつも俺の後ろをついて来た。

 14~5になった頃少女は急に女なった、美しくなりそれまでの儚げな印象は消えた。

 それからすぐサムの両親は離婚し一家は俺の目の前から消えた。

 俺は3ヶ月かけ彼女を見つけ、父親の元から救い出し、数年一緒に暮らした。

 今思えば俺はあの頃が一番幸せだったんだろう、二人ともまだガキで思いやりも無くよくぶつかったが、何の打算も無くただ愛していた。

 でも結局彼女はまた消えた。



 「痛いのはもううんざりだ、一発で決めてくれ頭か胸だ」


 一歩踏み出すとサムは一歩下がった。


 「…来ないでっ」

 「外さないならそこで良い」

 「……」

 「避けないよ、……愛してた…、いや、ここまでされて、情けないけどまだ愛してる、サマンサ」

 「……言わないでっ」

 「ああ、これで終わりだ、あいして…」


 音が聞こえるより早く腹に衝撃を受けた、その後すぐもう一発身体のどこかに当たった。

 膝が崩れ落ち仰向けに倒れた、目の前には狭い夜空が見えた、天気は良い筈なのにやっぱり星は見えない。

 視界にサムが入った。


 「銃を…貸せ、俺の指紋が要るんだろう…」

 「いやっ、死なないでっ」


 寒いな、この上着こんなに寒かったかな?


 「泣くなよ、俺が死なないと、終わらないだろ」

 「アンタが死んだら私どうしたら良いのよっ」


 オマエはいつもそうだ、やってから後悔する、想像力が足らない。


 「…あぁ悪い、他に好きな女ができた、オマエの面倒は、…もうみれない…」


 色が消え、音が消える、耳鳴りだけがまだうるさい。

 ジンジャーすまない明日の夜は行けそうに無い。

 オマエの癇に障る声もう一度聴きたかったな……。


主人公は多分幸せです。


エンディングはJINJERのPiscesで


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