はじめに 作者より
――はじめに 作者より――
本編への導入として、当物語の初歩的な情報を記す。読み飛ばしても支障はない。
=世界観=
この物語はどこかの世界が舞台である。この世界には神が明確に存在する。創造主であり世の秩序を統制する者として神は存在し、天より裁きと恩恵をあたえている。
下界には大きく分けて二つの人類が存在する。「人間」と「半人種」である。半人種は、平たくいえば半分人間のような生き物である。半人種には複数の種族が存在する。鳥人族、人魚族、巨人族、妖精族など。(半人種には「懐生」という正式名称があるが、本作では「半人種」の呼び名で呼ばれることが圧倒的に多い)
=禁忌と天罰=
古くから人間は西大陸に住んできた。半人種は東大陸に住んできた。はっきりと境界線を築いて暮らしてきた。だがあるとき、人間の男と半人種の女が一線を越えた。恋をして交わってしまったのだ。
人間と半人種の交わりは決してゆるされない。この大変な禁忌に対して神は天罰を下した。
人間の男とその領地の者は皆、半人種に変えられてしまった。新しい種族である「化体族」になった。
化体族は、基本的には人間と同じである。しかし、もう一つ別の姿(=化体)を持っているのが特徴的だ。もう一つの姿(化体)のパターンとしては、異性かあるいは動物の二パターンに分かれる。男が女になったり、女が男になったり、またある者は馬になったり、ある者は猫になったり、豚や猿の化体もいる。彼らは好き勝手に変身できるわけではない。一定の時刻(0時)に皆自動的に姿形が切り替わる。化体族は、本来の姿である「本体」ともう一つの姿である「化体」を一日ごとに繰り返しながら生きている――レイル島という絶海の孤島で。化体族に変えられた者たちは人間社会では生きていけなくなり、西大陸を出、無人島へと逃げ込んだのだ。レイル島と名付けたその島を開拓し、子孫を残し化体族のみで暮らしつづけて今日に至る。
なお、禁忌を犯した半人種の女の側にも同じ罰が科せられている。彼女の一族は人間となった。その子孫は現在は西大陸のとある地域で人間として生活している。
=主人公・ハヤテ=
本作の主人公について書こう。
主人公は、レイル島に住むハヤテ。十七歳の少年である。彼と仲間が冒険に出んところから本編は始まる。
冒険といっても遊びの旅ではない。「化体族が人間に戻るよう、神に請願しにいく」という使命を果たす目的がある。
この世界には、どんな罪悪も百年のあいだひたすらに懺悔しつづければ神にゆるしを請えるという通念が存在する。例の禁忌の件から百年。化体族は動き出せる時期を迎えた。化体族はずっと人間への回帰を望んでいたのだ。
一族としての意志以外にも、ハヤテは個人的な理由からも強く人間になることを望んでいる。というのも、ほかの者は皆一日ごとに姿形いわば外見が変化するのだが、ハヤテだけは外見はそのままで一日ごとに性格いわば内面が変わるのだ。ある日は穏やかで礼儀正しく、ある日はぶっきらぼうで気性が荒いところがある人格になる。どちらが「本体」すなわち本当の自分なのかハヤテにはわからない。彼は、人間になって「化体」を消すことで、本当の自分をはっきりさせようとしている。すべては本当の自分を知るためである。
旅は自分を見つけてくれるものといわれる。ハヤテは、神のもとまでの遠征を通して、本当の自分を見つける旅に出る。かくしてハヤテは山あり谷ありの起伏に富んだ旅へと出、何かを失い何かを得て、化体族が0時に転換するかのように原点の「0《ゼロ》」へと向かって進んでいくのである。
=終わりに=
以前、本作のキャッチコピーを考えたことがあった。次のような文言だ。
『忘れなさい。平穏に生きるために』
この文言が何を意味するのか。読後にその答えが見えるだろう。
ハヤテと仲間たちの遠征の旅を一緒に味わってもらえたら幸いである。それでは、本編へいざ参らん。
(作者)