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4 呼ばれてないけどジャジャジャジャン!

 スケッチブックにクレヨンで描かれた魔方陣の上に、うつ伏せで横たわるお高そうなテディベア。

 その前で、バナナは一人、楽しそうに苦悩していた。

「くっ、何てことだ。魔法少女としてこの町の平和を守るために、天使か妖精を呼び出すつもりだったのに。寄りにもよって、悪魔を召喚してしまうとは!」

「えっとぉ。この子は、悪いくまさんなの?」

「だー、もう! くま天使か、くま妖精ってことにしとけばいいでしょ!」

 ふふ、と楽しそうに首を傾げるメロンと、今にもキレそう――いや、半分キレかけて叫ぶイチゴ。

「……………………」

 バナナは光の粒子に包まれてキラキラ可憐にイチゴを見つめ、それから満開の笑みを浮かべた。

「それもそうだな! よし、今日からおまえは、くま天使だ! そうと決まったら、早速、祀らないとな」

「出来れば、元々の置き場所へ戻して欲しいんだけど。てゆーか、そこで祀って、頼むから」

「お、リボンがほどけかけてるな」

 イチゴはそう言いながら立ち上がって棚の隙間を探すが、バナナはまったく聞いていない。

 最近流行の魔法少女アニメの主題歌を口ずさみながら、くまを抱き起して魔方陣の上に座らせると、首に結ばれた赤いリボンを結び直す。

「これからよろしくな、くま天使」

 綺麗な蝶々結びに満足そうに頷くと、ぽんとくまのあたまに手を乗せる。


 すると。


「おい、こら! だーれが、くま天使だ! 勝手に妙な名前をつけてるんじゃねーよ!?」

 くまが立ちあがって両手を振り回し始めた。

 そして、おっさんの声だった。


「うお!?」

「きゃっ!?」

「ええっ!?」


 どうやら怒っているらしいくまを、三人揃ってまじまじと見つめた後、一斉に叫んだ。


「くまが動いてる!?」

「くまが喋ってる!?」

「くまが動いて喋ってる!?」


「くま天使! おれを魔法少女にしてくれ!」

 最初に動いたのはバナナだった。

 がしっとくまの脇の下を両手で掴んで、目の高さまで持ち上げる。

 喜びのあまり、瞳だけではなく全身がキラキラと輝いているように見えた。蔵の照明など、必要ないと言わんばかりに。

 くまは、円らな瞳でバナナのキラキラと眩しい視線を受け止める。

 しばし見つめ合った後、くまは突然高笑いを始めた。

「…………ふはははははは! 願いを叶えて欲しくば、おまえの一番大切なものを差し出すがいい!?」

「よし、分かった! お供えならちゃんと用意してあるぞ! これを受け取ってくれ!」

「むぐっ」

 バナナはお供えのバナナを片手で掴むと、皮付きのまま、くまの口に無理やり押し込む。

 どんな魔法かカラクリか、バナナはくまの中へずぶずぶと入り込んでいった。反対側の頭から突き抜けることもなく。

 皮付きのバナナが丸々一本、くまの体内に難なく収まった。


「よし! 早速、変身だ!」


 あまりの急展開についていけず、のほほん・ぽかんとしているメロン・イチゴを置いてきぼりに、バナナは立ち上がってポーズを決める。


 左手は腰へ。そして、右手の人差し指を天に向ける。

「世界を照らす、お日様となれ! 可憐にボーイッシュ、プリズム・バナナ!」

 ボーイッシュも何も、そもそもバナナはボーイそのものなのだが。恐らく意味が分かっていないのだろう。

 セリフに合わせて、バナナの体が光ったような、光らなかったような気がした。


「えっと、今。バナナ君、一瞬だけ、光った?」

「いや、目の錯覚、じゃない?」


 元々魔法少女風の服を着ているせいで、変身が成功したのかどうかは見ても分からなかった。


 メロンとイチゴは顔を見合わせる。それから、魔方陣の上に転がされているくまに視線を落とす。

 二人は無言のまま、お供えに手を伸ばした。

 メロンは、夕張メロンキャラメル。

 イチゴは、イチゴミルク味の飴。

 それぞれ、箱と袋を開封して中から一粒ずつ取り出すと、くまをつかみ、その口へと押し込む。

「むぐっ、おい、ちょっ、やめろ……」

 バナナ同様、キャラメルと飴もくまの中に吸い込まれていった。

 二人は無言のまま頷き合い、立ちあがる。

 そして、それぞれが考えた、きゃるっと可愛い変身ポーズを決める。


「いつも心にエコロジー。エコロジカル・メロン!」


「女の子はミステリー。ミステリアス・イチゴ!」


 びしっとポーズは決まったが、特に何かが光ったりはしなかった。


「やっぱり、気のせいだったのかな?」

「ま、そりゃ、そうよね。くまが動いたり喋ったりしてるから、ちょこっと一瞬だけ期待しちゃったけど」

 蔵の中には他に誰もいないし、バナナに付き合わされての変身ごっこはいつものことなので、二人ともとくに照れたり恥ずかしがったりはしなかった。


「エコロジカル・メロンって、カッコいいよな! どういう意味なんだ?」

「さあ~? 何かカッコいいから、これにしてみた!」

「まあ、語呂はいいような?」

「カッコよければ、何でもいいよな! さて、三人とも無事に変身できたことだし、次に必要なのは…………敵?」

 バナナがスケッチブックの上に転がっているくまをチラリと見下ろす。

「え? くま天使、やっつけちゃうの?」

「ちょっ、蔵の備品を勝手に壊すの禁止だから!」

「いや、くま天使はやっつけたら駄目だろ! そうじゃなくてさ……」

 バナナはしゃがみ込んでくまを座らせる。


「くま天使! おれたちが、魔法少女として蔵の平和を守れるように、蔵の平和を乱す敵を出してくれ!」


 そして。

 曇りのない眼で、こんなお願いをした。


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