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18 ストロベリーべあエンジェルすいんぐ

 鶏が先か、卵が先か。

 アンテナが先か、信心が先か。


 赤岩様の力を受信するアンテナが折れている。

 兄のトマトにそう言われてしまったイチゴは、蔵の片隅で膝を抱えながら、むうと眉間に皺を寄せて一人考え込んでいた。


 アンテナが折れているから赤岩様への信心が薄いのか、信心が薄いからアンテナが機能していないのか?


 考えたところで答えが出る問題ではないのだが、そうと分かっていてもつい考え込んでしまう。

 不毛な疑問に頭を悩ませていられるのは、アンズ問題が一応の解決をみたおかげもあった。

 一度は魔法少女ごっこを断られたものの、バナナは諦めたわけではなかった。普通に仲良くなりつつも、魔法少女としての覚醒を促すために洗脳(?)をしていくつもりだった。そして、その為の作戦を考える会議を開いたところ、メロンの猛反対にあったのだ。

 もちろん、イチゴだって反対だった。

 アンズをメンバーに入れようものなら、一部の女子の反感を買うことは間違いない。出来れば、それは避けたかった。無用ないざこざは避けるに越したことはないのだ。それと、もう一つ。引っ越してきたばかりの“よそ者”を、蔵の中に入れるのだけは、断固反対せねばならなかった。バナナやメロンだけなら、バレても怒られるだけで済むかもしれないが、土地のものではないアンズを蔵に入れたら、怒られるだけではすまない気がした。

 だが。メロンが猛反対したのは、イチゴとは全く別の理由からだった。

「イチゴちゃんがまだ覚醒していないのに、別の子を仲間にするなんて、そんなのダメだよ!」

 それを聞いて、イチゴはピシリと固まった。

 バナナは。あっさりメロンに同意した。

「それもそうだな。ごめんな、イチゴ。おれの考えが足りなかったぜ。そうだよな、イチゴのん覚醒が先だよな!」

「う、うん……。ありが……とう?」

 二人の心遣いは、嬉しい。

 昔からの仲間であるイチゴが蔵の隅で膝を抱えているだけだというのに、新参者が二人と一緒に魔法少女として活躍なんて、それを見ているしかないなんて、そんなのつらすぎる。それは、確かに、そうなのだ。

 だから。二人の気持ちは、嬉しい。嬉しかった。でも。

 同時に。物凄く、やるせなくもあった。


「しかしよー。どれが既に札を剥がしたことのあるモノなんだか覚えてるわけでもねーみたいなのに、毎回ちゃんと、まだ中身が祓われていないヤツを選んできやがるよな」

 床に足を投げ出して座り込んでいるもモフモフがどうでもよさそうに呟いた。

 イチゴはそれを聞き流しかけて、そう言えばと思い直す。

 バナナはいつも何の迷いもなく、棚に陳列されている札付きアイテムの中の一つを選び取り、ためらいもなく札を剥がして、アイテムに封印されていた妖怪を呼び出しては倒していく。くま天使的には、封印されていた妖怪を祓っていく。

 既に、札を剥がして中身の妖怪を倒し済みのアイテムならば、何も起こらない……バナナ的にはハズレの状況になるはずだが、今まで一度も“ハズレ”に当たったことはない。

 いつも必ずお約束のように初めて見る妖怪が現れては、倒されていく。現れる妖怪も、強ぎず弱すぎない丁度いいレベルの妖怪ばかりの気がする。

 まるで、ナニカの手のひらで転がされているだけのようで、少し気持ちが悪い。

 ナニカとは何かといえば。まあ、赤岩様しかいないのだろうが。

 眉間の皺を深くして天井を見上げていると、バナナの悲鳴とイチゴの切羽詰まった声が聞こえてきた。

「うわっ。しまった!」

「きゃっ! イ、イチゴちゃん、逃げてー! ごめん、そっちに行っちゃったー!」

「へ?」

 視線を下すと、二人と戦っていたはずの、両手で抱えるほどもある巨大カエルが、イチゴのいる方に向かってジャンプしてくるのが見えた。

 倒していいのかつい躊躇ってしまう、金色の縁起のよさそうなカエルが。

「ぎゃ、ぎゃー!!」

 だが、いくら縁起がよさそうでもカエルはカエル。しかも、巨大カエルだ。

 イチゴは思わず目を閉じて、隣にあったモフッとしたものを掴んで振りかざす。

「うおっ!? な、何しやがる! うぎゃ!?」

「ゲコ?」

 確かな手ごたえと共に、メロンの感嘆の声とバナナの決め台詞が聞こえてきた。

「わお! イチゴくま天使スイング~!」

「でかした、イチゴ! そりゃ! 一刀両断、バナナソードー!」

 どうやら振り回したくま天使に、美味いこと金のカエルが命中し、イチゴが打ち取ったカエルはバナナによって成敗されたようだ。

「すごいよ、イチゴちゃん!」

「ああ! 見事な協力合体技だったな!」

「これをイチゴちゃんの技にすればいいんじゃない?」

 二人は興奮した面持ちで、イチゴに駆け寄ってくる。

 どうやら、二人の間では、今のがイチゴの魔法技として認識されたらしかった。

 が。

 イチゴは唇を引きつらせながら、片足を掴んでプラプラさせたくま天使を二人に突き付けた。

「絶対に、嫌!」

 こんなのは、魔法少女の技として認められない。

 こんな。見た目は可愛いモフモフだけど、中身はただのおっさんなくまとの協力技なんて。しかも、ただ振り回してるだけで、魔法は全然関係ない。

「あ、じゃあ、ストロベリーべあエンジェルすいんぐなら?」

 ぽむ、と豊かなお胸の前でメロンが手を叩いて提案してくるが。


「ネーミングの問題じゃ、な~い!」


 イチゴの怒声が蔵に響き渡った。



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