13 メロンが弾けちゃいました。
きゃはははは、と甲高い子供のような声が蔵の中に響き渡る。
赤石の呪いの蔵に。
資格のないものは、決して足を踏み入れてはならないと言われる呪いの蔵に。
赤岩の町中の呪い系アイテムが押し込められていると言われる蔵に。
バナナの声でも。メロンの声でも。イチゴの声でもない。
子供の笑い声が、響いている。
「くっ、おのれ、ちょこまかと! じっとしていやがれ!」
「あはは! バナナ君、悪者みたい」
「何でもいいけど、余計なモノ、壊さないでよね」
魔法少女としてのチーム名を決める!
はずの会議がグダグダの内に終わり。
チーム名は、とりあえず保留扱いとなった。
イチゴとしては、チーム名が決まるまで、会議ごっこでも構わなかったのだが。むしろ、ずっと決まらず会議中のままになっていて欲しかったのだが。
遊びたい盛りの小学五年生が、連日の会議ごっこに満足できるわけもなく。
翌日には早速、蔵へと繰り出すことになった。
資格のないものは入ってはならない赤石の蔵。
そもそも、鍵がかかっているので、入りたくても入れないはずの赤石の蔵。
それなのに。
イチゴに対してもメロンに対しても、鍵は自らの役目をきちんと全うしているのに、バナナに対しては途端にガードが緩くなるのだ。緩くなるというか、ガードが外れるというか。ガードというか鍵そのものが勝手に外れてくれてしまうのだ。
赤石の娘であるイチゴには何の反応もしないくせに、だ。
「その辺の不埒な変質者みたいに、バナナ君にメロメロになったからとか、そういう理由じゃないでしょうね……」
ブチブチ言いながらも、開いてしまったものはしょうがないので、先に中に入り込んだバナナたちの後に続いて蔵に入ると扉を閉める。
こうなった以上は、バレないうちに中に入ってしまうしかないのだ。そして、とっととバナナに満足してもらって、バレないうちに速やかに外に出るしかない。
それしかないのだ。
そして、事件は。
元々はテディベアに取り付いて悪さをしていたところを捕まって蔵に封印された小物妖怪だったが、今はバナナたちに勝手にマスコットキャラにされてしまったくま天使を一頻り構い倒して、敵が現れないなら練習あるのみとバナナがバナナソードを呼び出した時に起こった。
「優しく剥いてね、バナナソード!」
黄色い皮がクルクルと剥けて、現れた白く光り輝く刀身をバナナが一振りしたその切っ先が。
棚の上にちょこんと置かれていた、手のひらサイズの香炉に貼られていた札を剥がしてしまったのだ。
アッと思う間もなく。
赤と金のツタの模様の香炉から、にょきッと手足が生えてきて。
香炉は、ぴょこんと棚から飛び降りると、甲高く笑いながら蔵の床の上を走り回る。
バナナは、呼び出したバナナソードを振り回しながら香炉を追いかけるのだが、香炉は小さい上にちょこまかとなかなかすばしこく、バナナの足の間をすり抜けていく。
「悪と戦う魔法少女っていうより、雑誌とかを丸めてゴキブリと戦うお母さんみたい……」
イチゴの呟きは、幸いにもバナナの耳には届かなかった。
「はっ。よく考えたら、これを何とかしないと、蔵から出れないんじゃ!? 呑気にお母さん思い出してる場合じゃなかった。どうしよう!? ピ、ピンチ!」
放っておいてもその内疲れて止まってくれるんじゃ、とかちょっと期待もしてみたけれど。
「きゃはははははははは」
「くっ、ま、待て。卑怯、だぞ!」
香炉が力るきるよりもバナナが力尽きる方が早そうだ。
息が上がってきているし、動きも鈍くなっている。
「そうだ! くま天使! あんた、小さいんだし小回りもきくんじゃないの? ちょっと、あれ捕まえて来てよ」
「いやー。無理無理。オレ様、あんなに早く動けないって。ほら、無理して転んで、違うヤツの札とか剥いじまってもいけないしな。おまえらで、頑張れ。オレ様は、ほら、あれだ。マスコットキャラ? だからよ。ここで見守っているぜ」
一縷の望みを託して、床に放置され、やさぐれていたくま天使に縋るような眼差しを向けたがやる気なく却下され、イチゴは吠えた。
「こ、この役立たずー! おまえなんか、天使じゃなくて、デビくまで十分だー!」
「あー、なんでもいいっつの。いや、むしろ、くま天使よりかは、そっちの方がマシなんだが」
イチゴは軽やかなステップで地団太を踏んだ後、笑って鑑賞しているメロンをきっと睨み付ける。
「もーう! メロンも笑ってないで、何か考えてよー! アレを何とかしないと、お家に帰れないよ!」
「え? それは、困るねー。んー、そうだ! もしかしたらー、そろそろわたしも魔法が使えるようになったかもー」
本当に困っているのかどうか、メロンはほわわんと笑った。そして、自らの谷間に手を突っ込み。
「よーし! 弾けて消えろー、メロンボムー」
「ふ、ふえ? メロンとメロンの谷間からメロンが!? なんか、いろいろ爆弾すぎる! て、それ、投げちゃダメ! ここで爆発させたらダメだってー!」
谷間から引き出されたメロンの手には、ゴルフボール大のマスクメロンっぽい玉が握られていた。
メロンはそれを振りかぶり、ちょこまかと逃げ回る香炉に向かって投げつける。
当たるわけがない、というイチゴの予想に反して。
メロンボムは吸い寄せられるように香炉に命中した。
「きゃうー」
カチャリと床に倒れ込む香炉の上で、ぽむっと可愛らしい音を立ててボムは爆発した。
薄緑色の煙がもくもくと香炉を包み込んでいく。
「よし! でかした、メロン! とう! バナナソード!」
すかさず、バナナが止めを刺す。
カチャンと音がして。
煙が消えると床の上には、手足を失い真っ二つに割れた香炉が現れた。
「え? お? 蔵の、備品が? はっ、いや、それよりも!」
壊れた香炉見て固まりかけたイチゴだったが。
「シャボンミステリー!」
もしかして、今なら自分も?
と、呪文を唱えてみる。
唱えてみたのだが。
「シャ、シャボンミステリー! シャボンミステリー! シャボンミステリー!」
何も起こらない。
メロンの胸からは、次々と小さなメロン型ボムが生み出されているというのにだ。
「な、なんで、あたしだけーーぇ!?」
悲痛な叫び声が、天井を突き抜けていった。




