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11 おれたちの戦いは終わらない!

「なぁ、バナナ。グランドでサッカーしようぜ!」

「あー、悪い。今日はこれから大事な会議があるんだ。また今度な!」


 昼休み。

 給食を食べ終えて、外で遊ぼうと声をかけてきたクラスの男子からのお誘いを、バナナは笑顔で断った。

「そ、そそ、そっか。じ、じじじ、じゃあ、また今度な!」

 バナナの笑顔を真正面から見てしまった男子は、顔を赤らめ、少々どもりながらそう言うと、他の男子と連れ立って教室を出て行く。

 黄藤バナナ。

 間違いなく男子なのだが、その見た目は町内一と言われるほどの可憐な極上美少女だ。

 男の子なのに魔法少女になりたいなどと公言していれば、他の男子たちからからかわれたりいじめられたりしそうなものだが、男子たちはみなバナナに見つめられると赤くなってソワソワし始めるので、そう言った意味での心配はない。別な意味での心配ならあるが……。

 では、男子の関心を独り占めしていることで、女子たちから疎まれたりしているかというと、これもまたそうでもない。女子とて、綺麗で可愛いものは好きだし、バナナは見た目は兎も角、中身は普通にやんちゃな男の子のため、割と普通に愛でられているのだ。

 まあ、それでも中には嫉妬から反感を抱く女子もいたりするのだが、イチゴとメロンがガッチリガードを固めているため、実害はまったくない。

 ガードの役目をしているのは、主にイチゴのほうなのだが。

 赤石の娘であるイチゴを怒らせると、蔵に呪われるという噂が校内でまことしやかに流れているのだ。

 大人たちでさえ恐れる、赤石の蔵。

 小五の多感な女子たちが、噂を恐れないはずがない。

 まあ、そんなわけで。

 言動にちょこっとアレなところがありつつも、割と平穏な学校生活を送っているバナナなのだ。


 バナナが教室を出て行く男子たちを見送っていると、イチゴとメロンがやってきた。男子たちがいなくなったことで空いた椅子を借りて、バナナの机の周りに陣取る。

「お、来たな! よし、それじゃあ早速、会議を始めるぞ!」

「はーい……」

「はーい!」

 引き出しからスケッチブックを取り出して、会議の開始を宣言するバナナに、イチゴややる気なく、メロンは元気いっぱいに答える。

「それで、何を話し合うの?」

 メロンがわくわくと尋ねた。

 朝、顔を合わすなり、放課後蔵に行く前にどうしても決めておきたいことがあるから昼休みに集合するようにと言われただけで、具体的に何をするのかはまだ聞かされていないのだ。

「うむ。新たな敵が現れる前に、チーム名を決めたいと思う!」

 バナナは腕を組み、キラッと笑顔を輝かせた。

「チーム名……」

「そう言えば、まだ考えてなかったね」

「だろー? で、昨日、一晩考えたんだけど、なかなか決まらなくてなー」

「ふーん?」

 机の上で開かれたスケッチブックを覗き込んでみると、クレヨンでいくつか名前が書いてある。

 魔女っ子戦隊サンマジョリン。サンマジョラー。サンマジョン。

「………………」

「あー。大根おろしが欲しくなる感じだね!」

「サンマじゃねーよ!」

「いや、サンマ感、溢れすぎだし」

「あははー」

 メロンは青いクレヨンで、スケッチブックに長細い魚を描き始める。サンマのつもりらしい。

「むー。そんなに言うなら、おまえらも、何か考えろよ」

 そう言って頬を膨らませるバナナを見たイチゴとメロンはキラッと瞳を輝かせ、両脇から人差し指で膨らんだ頬を突き始める。

「あ、こら! 止めろって! いいから、何か考えろよ!」

 両手で頬をガードされてしまったので、イチゴとメロンは諦めて手を引っ込め、考え込み始める。

 イチゴは頬杖をついて。

 メロンはぐるぐるとスケッチブックに落書きを続けながら。

「うー……ん。マジカルフルーツパーラー?」

「魔法の果物屋さん! とか?」

「店を始めるんじゃねーんだぞ!」

「サンマよりは、魔法少女っぽいと思うけど」

「うるせーよ! あ、これならどうだ!」

 バナナは机の上でキュッと両の拳を握りしめた。メロンが先を促す。

「どんなの?」

「三人揃って、魔女っ子戦隊サンフルーツ!」

「サンフルーツ?」

「三人いるから、サンフルーツ!」

「あー、サンって、そういう……」


 その後も、あーだこーだと美味しそうだったり、そうでもなかったりする案を出しあったのだが、どれもこれという決定打には欠けて。

 そうこうしている内に、予鈴が鳴ってしまう。


「あー、鳴っちまったか。これからも、まだまだ敵は出てくるみたいだし、次の戦いの前にはチーム名を決めときたかったのに」

 スケッチブックを仕舞いながら、バナナが零す。

「続きは、学校が終わったら、イチゴちゃんの部屋でやろうか?」

「うん。それがいい。そうしよう」

「そうだなー。今日はくま天使に挨拶だけして、先にイチゴの部屋でチーム名を決めちまうか……」

「いや、くま天使なんて、放っておいていいって……。あ、いや、やっぱりさ! ちゃんとチーム名を決めてから、行き成りびっくりさせる方がいいと思うな!」

 なるべく蔵に入る回数を減らしたいイチゴは、必死で誘導する。

「それもそうだな。じゃあ、学校が終わったら、イチゴの部屋に集合な!」

「りょうかーい」

「ほっ」

 何とか思惑通りに話が進んで、イチゴは胸を撫で下ろした。


「はー、しかし。チーム名はいいけど、次の敵か……。勘弁してほしい、ほんとに」

 自分の席に戻りながら、憂鬱そうなため息を零す。


 そうなのだ。

 くま天使が言うには、次の敵が現れる可能性が高いらしいのだ。


「あの壺だけどよー。本来なら、オレ様みたいな小物がちょっとぶつかったくらいで封印が解けるなんてあり得ねー話なんだよなー」

「つまりはどういうこと?」

「つまりだ。あのガキが敵を出せって願ったから、あの壺の封印が解けたんじゃねーかと」

「んー、んん?」

「二階にいるヤバイヤツがよ。黄色いガキの願いを叶えるために、封印を解いたんじゃねーかなーと」

「と、言うことは、もしかして。バナナ君が望む限り、この蔵の中にあーゆう化け物が現れ続けるってことだよね?」

「たぶん」

「この戦いは、いつ終わるの?」

「小僧が満足した時じゃねーか?」

「んにゃ、にゃんですとー!?」


 頭が真っ白になった昨日の会話を思い出すと、何度でも何度でもため息が零れてくる。

 深い深いため息をつきながら自分の席に座ったイチゴは、天井を見上げて呟きをもらす。

「なんか、これ。バナナ君が敵の黒幕みたいだよね……。本人、無自覚だけど」

 天井を見上げたまま、またため息。


(バナナ君が満足するときなんて、やってくるんだろーか?)


 胸の中で問いかける。

 答えの代わりのように、チャイムの音が鳴り響いた。




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