番外編1 28才の戸惑い、再び
あれから――ハンカチを貸した日――、西山はこれまでと同じように必要以上に近づいてこない。
当然と言えば当然なのだが……。
俺は西山の気持ちを受け入れたわけではない。ただその話は彼女が卒業して、成人して……ひとまず3年後になってから考えるという、非常にずるい返事しかしていない。
要は、彼女をキープしていると言われても、仕方ない状況なのではと冷や汗をかく。
彼女の事だから俺の立場を考えて、卒業まで一切の接触はしないということだろうか。いや、普通に教師と生徒としての交流なら問題ないのではと、うっかりそんな事を考える始末。
何やら悶々としながら廊下を歩いていると、窓から見える下校中の生徒の中から西山あかりの姿を見つける。なんだか最近すぐに彼女を見つけ出してしまう気がする。
すると、後からいつぞやの男子生徒「藤井」が、西山に話し掛けたかと思えば、そのまま彼女と並んで歩いていくではないか
――そのまま一緒に帰るのか?
いやいや、俺が彼女の交友関係に口出しできる立場じゃないか……。
西山の気持ちを疑うとかではないが、3年間彼女が心変わりしないとも限らない。曖昧な態度をとるしか出来ない自分より、あんな風に当たり前のように隣を歩ける男子の方が一緒にいて楽しいと思っても仕方ないことだ。
◇◆◇
「西山、悪いが教材を運ぶの手伝ってくれ……ませんか」
――やってしまった……。
何でまた同じ過ちを繰り返してしまうのか……。しかし、口から出た言葉はもう戻っては来ない。またもや彼女の友達から口々に抗議が上がると、今回は西山自身も声を上げた。
「私、今日、日直じゃありません」
仰る通り。心のどこかで期待していた自分が恥ずかしい。しかも、前回この流れで彼女を泣かせてしまった前科もあるので、西山にしてみれば嫌な流れと言っても過言ではない。
「そうだよな。すまん、すまん」
動揺を見せまいと素早く教材を片付けていると、西山が仕方ないといった感じで手伝ってくれた。
「今日は、特別ですよ」
ほんの少し上目遣いで軽く睨みながらも、口元に小さな笑みを浮かべて答えた彼女に、ドキッとした。
――どこでそんな表情憶えたんだ……!
心の中でこっそり悶えながら準備室に向かう廊下を歩いていると、彼女から先制攻撃が飛んできた。
「昨日、先輩と帰りました。もしかして、また、見てたんですか?」
彼女の口調にほんの少し呆れが混じっているように感じるのは気のせいだろうか。
「……すみません」
何にせよ、ひとまず謝罪を口にした。




