プロローグ
暇つぶしにどうぞ
森深く。
木々の隙間を縫って日の光が滑り込むようにそれを黄色に染めた。小さい葉っぱの山とでもいうべきだろうか。それは時々膨らんだり縮んだり、ビクッと動いたかと思うと、うーんうーんと呻いたりと、草木ばかりのこの場所ではあまりにも忙しなく見える。
近くの木々で羽を休めている小鳥たちはその不気味な小山を、顔とそれとを交互に見遣りながらピィピィと鳴いていた。
ふいにそれは葉っぱを吹き飛ばして小さな体を持ち上げると、その姿を露わにした。
小鳥たちは驚いて飛び立つこともなく、それを首を傾げながら眺めている。
露わになったそれの顔は端正に見えなくもないが、薄汚れていて美醜以前の問題であった。顔に付いた汚れや、その身なりからは性別はおろか年齢すら見極めることは困難だろう。かつては物が良かったであろう刺繍入りのチュニックは、白かったであろう生地もアカと汚れで黒ずんでいる。美しかった筈の刺繍は模様はおろか色すら解らず、その上に羽織っている外衣は美しい朱色であったのだろうが、色は惚け、そこらじゅう綻んでいて皺くちゃだ。
その人間は小さく欠伸すると誰にいう訳でもなくおはよと呟いた。
その少年とも女とも見える人間は近くの草叢にまだふらつく足取りで近づくと、そこから外套と短靴、大きな麻袋を乱暴に引っ張り出し、続いてゆっくりと丁寧に一振りの剣を引っ張り出した。
その剣は、その人間と似つかわしいない程に上等な物だった。その鞘の拵えから見ても上等で、さぞ名のある鍛冶が打ったものだということは明白だった。
恭しくその剣をベルトに下げると、短靴を履き、外套を羽織ると最後にガチャガチャと大きな音を立てながら麻袋を背負った。大きくグウとなる腹をさすりながら、ピイピイと喧しく鳴く小鳥に一瞥もくれず、体に付いた葉っぱもそのままにその人間は歩き出した。