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3度の大戦

「つまり、戦争で圧勝した人型の種族が今宇宙を制圧してるって事か」


一向に人種差別の無くならない地球と同じだな。

どれだけ進化しても、生物の本質は変わらない。

分かってはいたつもりだったが、何だか地球の未来を暗示しているようで複雑な気分だ。


「そういう事。その第一次宇宙大戦はもう1万年以上昔の話だから、差別は表立ったものではないけど、今も意識の根底に根付いてる・・・何より、元々人型の種族が圧倒的多数で、その差は拡大する一方だし」


何だか申し訳無さそうに説明するミモザ。

直接差別をする事は無くても、自分も制圧している側の一人だという事に後ろめたさがあるのだろう。その気持ちはよく分かる。

俺だって話を聞きながら、自分が人型である事に安堵せずにはいられなかった。


「第一次宇宙大戦、って事は第二次があるって事か」


「そう。人型の種族が宇宙を支配してしばらくは平穏だったんだけど、今度は人型同士で争いを始めたの」


「なるほど。原因は拡大しすぎた人型のなわばり争いってところか? 」


「まあ、そんなところ」


本当、どれだけ世界が広がっても、争いの根源は同じだ。

うなだれた様子で、ミモザは続ける。


「第二次宇宙大戦中、各勢力がこぞって兵器ロボットや戦闘機のシステム開発に力を入れたわ。当然、高度な技術力を持った先進星中心の勢力が勝利した。そして第二次宇宙大戦の勝者を中心とした宇宙連合が誕生したの」


「宇宙連合・・・宇宙を取り仕切る組織があるんだな」


ミモザはこくりと頷く。


「それからの技術革新は目を見張るものだったみたいね。ペアの開発が始まったのも第二次宇宙大戦直後だし。至るところでオートマティック化が行われたんだけど・・・」


「そりゃ、不満を持つヤツも大勢いるだろうな」


いつの時代でも地域でも、格差は争いの種だ。

更に宇宙規模となればオートマティック化による失業者の数も地球の比ではないだろう。


「そういう人達を中心に、ロボットへの依存の危険性を示唆し、機械化への反発を唱う組織が各地で発足したの・・・反オートマティック主義って呼ばれていて、だんだんと勢力を拡大していって、ついには第三次宇宙大戦に発展した。つい15年程前の話よ」


「15年って、俺生まれてるじゃん! そんな事全然知らなかった!!」


「そうね。未開惑星への攻撃や接触は宇宙連合の法律で禁止されてるし、そんな事バレたらどの惑星からも非難囂々だしね」


「未開惑星って・・・まあ、そうかもしれないけど・・・」


あれ、待てよ?


「じゃあ、俺の記憶を消したのは・・・」


宇宙人じゃ、ないのか!?

足が止まる。


話を進めながら歩くミモザは、3メートル程進んでから気付いて引き返すと、俯く俺を覗き込んだ。


「すばる、どうしたの?まだ具合悪い??」


「・・・じゃあ、俺が地球にいる間に宇宙人に接触したって事は・・・ありえないのか?」


「え、うーんと、そういう事件も無くはない・・・。たとえば未開惑星の生命体を捕まえて来て新薬の開発の実験体にするとか、労働者や見せ物として売りさばくとか・・・。誘拐事件は少なくないよ」


「そう! きっとそれだ!! 俺を誘拐しようとして失敗したんだ!!」


「え、ええ!? ちょっと、どういう事!??」


ミモザは目を丸くして、珍しく慌てた様子だ。

どういう事、か。そんなの、俺が聞きたい。


*****


俺を誘拐した宇宙人を探し出し、真実を突き止める。

その目標は、崩壊寸前だ。


順を追って説明している間にも、記憶に自信が持てなくなっていく。

半分放心状態の俺のバカみたいな話を、それでもミモザは真剣に聞いてくれている。

それが余計に情けない気持ちにさせた。


「・・・だから、俺は自分を誘拐した宇宙人を探し出しに来たんだ」


言いながら、自分でも声が弱々しくなっていくのを感じていた。


俺とミモザはステーション内のカフェで、テーブルを挟んで向かい合っている。

セルフタイプの飲食店で、メニューが映し出されたステンレス調の箱の画面に触れると、その商品がトレイに乗って箱の中から出て来る仕組みだ。

自販機の進化系ってところだろうか。


通貨の概念はあるようだが、貨幣ではなく、声紋や虹彩認証により仮想通貨を使用する。

一度、俺の電子マネーカードを差し出してみたが「使える訳ないでしょ」と一蹴された。

金銭的な部分でもミモザに頼りきりだ。

一人では何もできない。


宇宙での目的まで失ってしまったら、一体俺は何をしに地球を飛び出したのだろう。


「確かに、プレアデスには未開惑星とは思えない技術が使われているから、地球外の生命体が干渉してると考える方が自然かも・・・・・・だけど、誘拐に失敗したとして、どうしてデータを残していったのかしら」


それまで黙って俺の話を聞いていたミモザが口を開いた。

俺の戯言を信じてくれるのか。

お前、実は良いヤツだったんだな。


「いや、いいよミモザ。宇宙人説にはやっぱり無理がある。例え宇宙人の仕業だったとしても、そいつを見つけるなんて砂漠で砂を探すようなもんだ。見つかりっこねえよ」


本当は宇宙に飛び立つ前から、分かっていたのかも知れない。

俺を誘拐した宇宙人を見つけるなんて不可能だと。

宇宙人に出会ったなんていうのは、ただの妄想なんじゃないかと。

確かに俺は放心していた。放心はしていたが、落胆はしていない。

それに気付くのに、そう時間はかからなかった。

とっくの昔に諦めていたんだ。

諦めていたのに、それを認める事もできずに、現実だと思い込もうとしていた。

宇宙に行くという夢を追いかけるふりをしながら、本当はクラスメイトや先生や、周りの人達から逃げ出していただけなんだ。

・・・・・・だから、落胆しないんだ。


どすん。


突然顔面に痛みが走り、俺の思考は停止した。


「ちょっと、ミモザの話聞いてるの!?」


目の前に星がちらつく。

星の奥にパンチングマシーンのグローブが滲む。

くっそ、前言撤回。

やっぱりお前は暴力女だ、ミモザ。


「何しやがる! 俺が真剣に考え事してたのに!!」


「考え事って!? ちょっと壁にぶち当たったからって、逃げ出そうとしてるだけじゃない!!」


「・・・っ!!」


逃げ出そうとしてるだけ。

返す言葉が見つからない。


「とにかく、すばるに接触したのが誰か、目的は何なのかはっきりさせるのよ! 」


ミモザは立ち上がり拳を握った。


「この旅の目的が二つになったわね!! 」


いや、俺としてはお前の目的が加わった時点で二つでしたけどね?

まあ、いいや。


ミモザがいなきゃ、とっくに引き返してた。

これ以上自己嫌悪に陥らずに済んでるのはこいつのお陰だ。


「そうだな。分からないなら進むしかないもんな! 」


追いかけている限り、目標は、目標だ。

ふと、テーブルに並んだトレイが目にとまる。


「とにかく食おうぜ。いただきます!! 」


スプーンを右手に注文した白いリゾットのような物を掬う。

何の躊躇もなく口に運んだ。


「!!? 」


え?なんだ!?

念のため、よく混ぜて二口目を運んだ。

やっぱり・・・味が・・・しない。


慌ててミモザの様子を伺う。

彼女は至って普通、というように、目の前のトレイに乗ったショートブレッドに似た物を頬張っている。


「・・・ちょっと、ミモザ、それ、味見させてくれないか? 俺のこれ、少しやるからさ」


「ええ?しょうがないなぁ」


トレイを交換し、ショートブレッドを割って口に入れる。

やっぱり・・・味がしない!!

バターの風味や塩、とまではいかなくても、何かしらの味付けは無いのか!??


戸惑う俺をよそに、ミモザは「うん、まあまあね」と言いながらトレイを戻した。


へえ、これが宇宙の味ですか。

繊細すぎて俺には察知できない!!


半分、なんとか食べたところで手が止まった。

味の無い料理なんて、これで限界だろ。


まあ、これが宇宙のスタンダードだとすると、

俺の料理なんて味が濃すぎて不味く感じるのも仕方ないか。

ミモザにはここで買い込んだ物を今後出すしかないな。


そんな事を考えながら彼女の方を見る。

もそもそとショートブレッドを食べているが、その手が止まった。


「ごちそうさま 」


まだ3分の1くらい残っている。


「え、お前、そんなんでその胸維持できるのか!? 」


「うっさい! 胸は関係ないでしょ!?」


水を一口飲んで、ミモザはぽつりと呟いた。


「あの、舌がぴりぴりするやつ、食べたい」


「え? カレーの事か!? お前、まずいって・・・」


「最近、あんたの料理ばっかり食べてたから舌がおかしくなったのよ!どうしてくれるの!? 」


仕方ねえな、ミモザのわがままは。

どうするもこうするも、俺が炊事係を続けるしかねえじゃんか。

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