よろしく
「軍だか何だか知らないけど、そんな危険極まりない所ごめんだ!」
宇宙に飛び立って一日目。
何も知らない俺がそんな危なそうな場所に飛び込むなんて、
Lv0でラスボスのアジトに挑む勇者みたいなもんじゃねえか。
ゲームの世界でもありえない。
「じゃあ、あんたはどこに行こうとしてるのよ?」
「お、俺は・・・」
ミモザの問いに俺は口をつぐむしか無かった。
俺の目的は宇宙人の存在を明らかにし、
記憶が消えた間に何が起きたのか知る事。
ミモザの出現により、宇宙人の存在は確認できた。
上手くやればその証明もできるだろう。
でも・・・俺の記憶に繋げるには、一体どこへ向かえばいい?
とりあえずはミモザからもっと詳しく宇宙情勢を聞いた方がいいんじゃないか?
さっきの反FA軍とかいうのも気になるし。
「行き先が決まってないならいいじゃない。はい、決定!」
俺がそんな事に考えを巡らせている間に、
強引に行き先は決定されてしまった。
ノナの腕がガシャガシャ音を立てていたから、
脅し混じりの彼女の態度に負けたと言えなくもない。
こうしてLv0の冒険者みたいな俺は、
経験値未知の巨乳美少女を仲間にラスボスのアジトまで出向く事になった。
旅立ち直後に出会うのは、心やさしい回復系ヒロインだろ!?
なんだよ、この体育会系戦闘員!?
おまけにわがままで暴力的ときてる。
両手を挙げて喜んでいるミモザに目をやる。
大きな瞳に人懐っこい笑顔。
そして胸元の開いた服で強調された大きな胸・・・。
見てくれだけは、いいんだよな。
ガキだけど。
「ちょっと、今なんか変な事考えたでしょ!?」
ミモザとノナの目が光る。
「そ、そ、そんな訳ないだろ!?
それより、その大体の目的地はどの辺りで、ここからどの位で着くんだよ」
慌てて話題を変えると、ミモザは真剣な表情になった。
「そうだったわね。ノナ、宇宙地図を表示して」
機械の操作音の後、ノナのカメラ部分からホログラムが浮かび上がってきた。
そこに映し出されたのはやや楕円形に広がる光の集合体。
宇宙全体の3D映像だ。
地球で発表されているものとほぼ同じように見える。
でも、これが出て来たって事は・・・
ミモザ達宇宙人にとっては、この全てが行動範囲ってことか!?
呆然としている俺を気にもとめず、ミモザは話を進めていく。
「分かってると思うけど、まず現在地はここね。天の川銀河太陽系第三惑星、地球付近」
ミモザの声に合わせてホログラムが拡大していく。
太陽とその周りの惑星を認識できるまで拡大すると、
ミモザは地球の側を指さした。
「あ、ああ」
俺は力なくうなずく。
それを確認すると、ミモザは話を続けた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって、目的地はここから一番近い大銀河、
アンドロメダ銀河だから!」
軽いノリで言ってウインクまで付けるミモザ。
ああ、知ってるよ。
確かによく聞く身近な名前だ。
俺の大好きな名作アニメでも目的地はアンドロメダだった。
拡大していたホログラムが縮小される。
太陽は天の川銀河の無数の星の一つとなり、
更にその周りに幾つかの銀河が見えるまでになった。
そして天の川よりもかなり大きい渦巻き型の銀河が目に入った。
アンドロメダ銀河。
地球からの距離、約254万光年。
「ミモザ・・・悲しいお知らせだが、プレアデスは最高速度秒速15kmだ。
そんな所まで行ける訳ないだろ」
「あんた、何寝ぼけた事言ってんの?時空転送装置は何のために付いてるのよ!?」
「お前、いつの間にそんな設備の事まで知って!?」
確かにワープの存在を忘れている訳ではないが、
ミモザを乗せた状態で万が一事故なんて事になったら・・・。
「いや、あれはまだ実験段階で・・・」
自信が無い、とは言えずにもごもごしている俺に向かって
ミモザはドヤ顔で言った。
「だから、言ってるでしょ!?ミモザが完璧に改造してあげるって!!」
一体、どこから出て来るんだ、この自信は!?
何より、こんな女の子にプレアデスを改造されたとあっては
俺のプライドが許さない!!
「ほう、お前がそんなに宇宙船の技術に詳しいなら、俺の設計のどこが間違っていて
どう直せばいいのか、説明してもらおうじゃねえか!?」
俺の言葉に一瞬目を見開いたミモザだったが、すぐに余裕の笑みを見せた。
「へーえ、あんたみたいな未開惑星の原人がミモザの話に付いて来れるとは思えないけど。いいよ。特別講義、してあげる!」
*****
「・・・ってワケで、あんたのシステムじゃ目標座標との間にずれが生じるから、
そこに補正数値の計算を加えてあげなきゃいけないの」
コックピッドのワープシステム操作装置の前で、1時間に渡るミモザの解説を聞いていたが、正直分からない事だらけだった。
技術が違い過ぎる。
知識の差を見せつけられ、俺のプライドはもはやボロボロだった。
が、それを見せては増々自分の立場が危うい。
「ま、まあ、納得はできた。その方法でプログラムを修正してくれ。
でも、勝手にはやるなよ。必ず俺が見張ってる中で操作する事!
それがお前を乗せてやる条件だ」
「はいはい、分かったわよ」
思ったよりも素直な返事に意表を突かれた。
「なんだよ、素直で気持ちわりーな」
「別に!・・・ただ、思ってたより高度な技術を持ってるから、見直しただけ!
ちょっとだけね!!」
見直した。
その言葉は嬉しかったが、この技術は例の謎のデータを復元した物だから複雑だ。
ミモザの言う通りミスも目立つ。
もしそのまま実験していたら、確実に失敗していただろう。
ミモザは早速、ワープシステムにノナを接続し、作業に入っていた。
落ち込んでも仕方が無い。
PCにデータが残されていたのも、出発直後にミモザに出会ったのも
俺がより広い宇宙を旅する追い風になったのは間違いない。
「ところで、システムを完璧にしたとして、プレアデスはワープの負荷に耐えられるか?」
さっきのミモザの説明だと、システムについてしか語られていない。
いくらシステムを完璧にしたってハードの面、つまり機体そのものが負荷に絶えられなければワープは成功しない。
「ああ、まあ耐えられるだけの距離しか移動しなければ大丈夫でしょ。
より長距離の時空を飛び越えようとすると、
その分空間を大きく歪めなきゃならないから負荷も大きくなる」
操作装置をいじりながら答えた。
「プレアデスなら、弱い部分を改造すれば5万光年くらいはいけるんじゃない?」
5万光年。
254万光年離れたアンドロメダ銀河までは単純計算で
50回以上ワープしなければならない。
それって、普通の事なのか?
俺の心配を悟ったミモザが続けて口を開く。
「小型の宇宙船でそんなにワープなんてしたら、機体も中の人も持つワケないでしょ?」
「なんだよ、じゃあどうするんだよ!?」
「銀河間の移動にはね、専用の転送装置があるの!」
「転送装置?」
「そ、ステーションから銀河間専用転送装置に乗って移動するのよ。
専用転送装置はハブステーションにしか無いから、天の川銀河の中のステーションを幾つか経由するわ」
「へえ、すげえな」
宇宙のステーション。
銀河間の転送装置。
まるでSFの世界に俺は目を輝かせた。
「ところで、あんた名前は?」
「は?」
「なーまーえ!まさか、あんたの星では名前付けないの?」
「あ、いや。すばる。俺の名前は橘すばるだ」
なぜかそれを聞いたミモザがニヤニヤしている。
人の名前を聞いて笑うなんて、なんて奴だ。
「ふーん、へえ。それでプレアデス、ね」
しまった。
頬が熱くなるのを感じる。
親父が付けた名前。
「すばる」はもちろんすばる星団から。
そう、プレアデス星団の和名から取った。
「じゃあ、これからよろしくね。すばる」
差し出された手を握る。
「ああ、よろしく」
反対の手でミモザは、コックピッドの操作装置に触れた。
「プレアデスも、よろしく」
なんだか、頬が更に熱くなった気がした。