第一宇宙人、発見
アラートが鳴り響くコックピッドの中、
俺は必死に状況を整理しようとした。
謎の敵機から、外部からの攻撃は受けていない。
これだけ接近してきたという事はそのつもりもないようだ。
という事はさっきのは恐らく機体を
プレアデスにドッキングした揺れ・・・。
こちらから解錠しない限り簡単に扉を開ける事はできない仕様ではあるが、
それは地球でのテクノロジーの話。
でかい後頭部にぎょろっとした目をした宇宙人に
俺が捕われているシーンが頭をよぎる。
これじゃ、逆宇宙人連行写真じゃねえか!
ぶるぶると頭を振る。
どうする!?どうすればいい!??
宇宙人が向こうから接触してくるなんて、
めちゃくちゃ想定外なんですけど!!
俺の頭がパニックに陥っている間に、突然アラームが止んだ。
ほぼ同時に照明が消え、スクリーンの機能が停止して外の景色に変わる。
「うわああぁぁ!!」
突然真っ暗になり、思わず声を上げた。
絶体絶命とはまさにこの事。
まさか打ち上げから数分でこんなアクシデントに遭遇するなんて・・・
俺ってついてねえ。
目が暗闇に慣れ始めた頃、パッと明かりがついた。
だがアラートとスクリーンは消えたままだ。
俺はスクリーンを点けようと操作パネルに手を伸ばした。
が、つかない。
メイン画面だけでなくサブ画面も。
スクリーンを諦めて通信システムの再起動をかけた。
が、こちらもだめだ。
さっきの停電は侵入して来た宇宙人の仕業に違いない。
全部屋の施錠をして時間を稼ごうと試みる。
が、これもできない。
システムが全く動かない。
焦れば焦る程、頭も働かなくなっていく。
俺はまたしても宇宙人にいいように扱われるのだろうか。
いや、まてよ?
そもそも俺は、宇宙人に会いに来たんだ。
あちらから来てくれるなんて、チャンスじゃないのか。
コックピッドで見えない相手に
びくびくしていても何も始まらない。
俺は宇宙人捕獲用に準備してきた手榴網を手に
立ち上がった。
ドアの向こうに無数の宇宙人がいるのではないか、
とおどおどしながらコックピッドの出入り口に立つ。
ドアのセンサーはきちんと作動したし、
その向こうに何者かが待ち構えているという事も無かった。
まず目指すのはシステム制御室だ。
システムが作動しないという事は、
そこに何らかの危害を与えられた可能性が高い。
できるだけ足音を立てないよう、
周りを常に警戒しながら駆け抜ける。
大して広くもないプレアデスの中なのに
コックピッドからシステム制御室までは果てしない道のりに思えた。
システム制御室と書かれたドアの前。
中に誰かがいる気配は感じられない。
ゴクリ、と唾を飲みドアに一歩近付いた。
ウィーンと音がしてドアが開く。
3坪程の部屋の壁一面に、コンピューターの光が点滅している。
一見、異常はなさそうだ。
俺は部屋中央のデスクに置かれたパソコンに近付き
パスワードを入力しようとした。
その時だ。
「@%。&#¥?」
・・・はい?
上から声が聞こえ、慌てて見上げる。
幾つもの配管とケーブルの束があるだけでそこには何も見えない。
今度は背後に気配を感じ、立ち上がりながら振り向いた。
その瞬間、目の前には大きな・・・
大きな、乳!?
「&’#。/¥$*!”。」
やや下から聞こえた声に、そちらを見る。
巨乳の下から緑色の大きな瞳が覗いていた。
そこで俺はやっと相手が逆さまに吊られた状態である事に気がついた。
なんだ、全体を見ればただの女の子じゃねえか!
焦ったー、宇宙人かと思ってマジ焦ったー!!
「お前、中学生くらいか?こんな所で迷子か!?」
そうそう、こんな宇宙で・・・て、え?
俺が凝視していると、女の子はくるりと身を翻し着地した。
身長は150cmくらいだろうか。華奢な身体に大きな胸。
顔は小さくて瞳が大きい。
グラビア写真から飛び出してきたような見た目・・・。
やっぱり、どこからどう見ても地球の女の子に見える。
でも。
「%¥*&@。$!#」
聞いた事の無い言葉。
多分、別の星の言葉。
攻撃を仕掛けてくる気配はないが、どうする!?
俺は後ろに回した右腕に力を込めた。
手榴網のごつごつした感触が伝わってくる。
だが、次に耳にしたのは聞き覚えのある言葉だった。
「Hello」
・・・え、英語?
「は、はろー」
とりあえず返した挨拶に、
ほっとしたように彼女は話を続けた。
「I'm being chased. Please harboring.」
え、ええ?
なんつってんだよ!
翻訳機なんて持って来てねえよ。
おたおたしている俺を見て、彼女はため息をついた。
「Bonjour」
「Buenas tardes」
「Guten tag」
「你好」
「こんにちは」
「Здравствуйте」
次々と発せられる「こんにちは」の中に、
日本語が含まれていのに気付き、慌てて答えた。
「こ、こんにちは!」
こいつ、どんだけの言葉しゃべれるんだよ!
「ああ、やっと通じた。あんた、あの青い星の生命体でしょ?」
「はあ、まあ」
・・・生命体。いや、間違いないけど。
「あたしはミモザ。いろいろあって追われてるから匿ってくれない?」
「え、追われてるって誰に!?っつーかお前、この機体に何したんだよ!?」
「何したって、失礼ね。ちょーっと扱いやすくさせてもらっただけ!
それと、この技術じゃこの先心配だから、ちょいちょい改造させてもらうね?」
そう言って、ミモザとかいう女の子は俺を押しのけてパソコンに向かった。
つまりそれは、プレアデスは早速宇宙人に乗っ取られたって事で。
「ちょっと待て、ふざけんなー!!」
俺の叫び声は広大な宇宙の闇に飲まれていった。




