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交戦

どれくらいの時間が流れただろうか。


緊張の限界を越え、気が緩んだ丁度そんなタイミングだった。

窓から見える霧の中に、大きな影が現れた。


その影がプレアデスである事への期待と、軍艦である事への恐怖が入り混ざる。

風が吹き、霧が揺らめく。一瞬薄まった霧の隙間から見えたその機体は、明らかにプレアデスのものでは無かった。


素早く窓から離れ、会議室側の通路に回った。

心臓が飛び跳ねている。


落ち着け。こちらは小さなボート。レーダーの効かないこの敷地内では、正確な位置は掴めていないはずだ。しかも相手は大きな軍艦。建物の中までは入って来れない。

レーザーで建物ごと破壊される可能性は無くはないが、今までの奴らの行動からすると俺たちを生きたまま捕らえたいらしい。そうなると大規模な攻撃は簡単にはできないはずだ。


相手は全部で12隻だった。三手に別れて追跡していたとして、4隻。この大きな建物の全ての出入り口を封鎖するには足りない。更に相手は俺の行動範囲が一階に限られている事など知らないはずだ。上空にも注意する必要がある。何よりこちらの方が小回りが利く。


そう考えると、この窮地を脱する事も可能なように思えてきた。


大きく深呼吸する。再び窓から様子を伺おうと身を乗り出す。

そこで見たのは、衝撃の光景だった。


軍艦でも、小型船でもない。


白い胴体から生える大きな手足。二足歩行で野原からガラスの扉に近付いてくるそれは、小さい頃夢中になったアニメの戦闘ロボットそのものだった。

3m程の背丈だろうか、扉のフレームとガラスを破壊して侵入しようとしている。


ガラスの割れる音が響く。気がつくと、恐怖で足が震えていた。


そうだ、どうして思い当たらなかったんだろう。巨大な宇宙戦艦。ペアの存在。高い技術力を持った設備。どれもこれも、今の、いや、はるか昔から地球で想像されているものばかりじゃないか。戦闘用のロボットが存在して当然の世界なんだ。


震える足を抑え、操縦桿を握りしめる。通路の先にある非常口に向かってボートを走らせようと踵を返した。


が、その瞬間絶句した。


通路の先から、地響きをさせながらロボットが向かって来るのだ。

慌てて別の通路に方向を切り替える。だが、そちらの奥からも同じ様にガラスの割れる音が聞こえてきた。


反転し、最高速度でガラスの扉を破壊しているロボットの目の前を通り抜ける。

エレベーターホールを横切り、エントランスを駆け抜けた。

エントランスの自動扉をくぐる。日の光が差したかのような眩しさに目を細める。


それは、軍艦のサーチライトだった。ボートは待ち構えていた戦闘用ロボットに抱きかかえられるように、あっけなく捕獲された。


*****


軍艦の中は広く複雑な作りだった。長い廊下を二人の兵士に挟み込まれるように歩かされた。周りにはレーザー銃を持った兵も大勢いる。時折繰り広げられる彼等の会話は、もちろん意味の理解できない宇宙の言葉だ。


見張りの付いた一際大きな半透明の扉の前に、抱えられるように立つ。自動扉が音も無く消えた。


中に入ると、広いコックピッドだった。そこは他の部分よりも床が高くなっていて、コックピッド内が見渡せるようになっている。艦長席と思われる大振りの椅子が、こちらを振り返った。あの金髪の女性士官だ。


「@5#&*¥▲◯!」


俺の左腕を掴んでいた兵士が、何かを告げる。


「&*●%#:@?」


女性士官は俺に向かって話掛けているようだが、当然理解できない。


「分からねえよ。日本語喋れよ」


向こうも俺の言葉を理解できないのを良い事に、偉そうに言ってみる。すると彼女は、隣にいたペアに何かを告げた。確か、あのペアはオクタという型だ。オクタがピコピコと反応した。


「これで、よろしいかしら? 」


「・・・・・・」


ちっともよろしくねえよ!!

とてもそうは口に出せず、押し黙った。

金髪はふう、と小さいため息をつく。


「わたくしはアルフェッカ。宇宙連合軍の少尉ですわ。それで、あなたのお名前は? 」


「・・・・・・」


俺は捕まってからここに連れて来られる間に、問われた事については黙秘すると決めていた。大丈夫だ。あいつが、必ず迎えに来ると言ったのだから。


「黙っていては不利になるだけですわよ? あなたの仲間も宇宙船も、もうこちらの手に落ちていますわ」


そんな嘘に騙されるもんか。ミモザがそんな簡単に捕まるはずはない。俺はアルフェッカを睨みつけた。

再び、短いため息。


「あなた方の目的は見当が付いてますのよ。あれをあなた方の本拠地に届けるつもりでしたのでしょう?・・・・・・それで、どこに隠したんですの? 」


あれ?あれって、一体なんだ?本拠地ってのは、反FA軍の本拠地の事だよな?ミモザが何か持ってたのか?

俺の頭の中にクエスチョンマークが踊った。


その時、艦内に警報が鳴り響いた。俺の方を向いていたアルフェッカがコックピッドの正面に向き直る。


「報告します!!敵機と思われる戦闘型ロボットが数機、近付いてきています!! 」


「戦闘型ロボットですって?こんなに早く!?」


戸惑いを隠せない様子でアルフェッカが呟いた。続けて声を張り上げる。


「ブレイヴァリーは全機戦闘準備! 敵機の正体が掴め次第報告しなさい! 各軍艦はブレイヴァリーを護衛しながらポイントAに帰還!! 」


指令がコックピッドに響く。兵士達が発する「了解」の声が重なり、全員が慌ただしく動き出した。ブレイヴァリーとは、恐らくあの戦闘型ロボットの事だろう。

一体、何が起きているのか。俺には見当もつかなかった。


「アルフェッカ少尉、捕虜はどうしますか? 」


俺の右腕を掴んでいた兵士が問いかける。アルフェッカがちらりと俺に視線を投げる。


「そのまま、そこに捕まえておいて」


俺の両脇の兵士は「はっ」と返事をすると、姿勢を正した。

「捕虜」という言葉に、現実を突きつけられる。俺はこれからどうなるんだろう。敵機とやらは俺たちの味方と考えていいのだろうか。


慌ただしい喧噪の中、通信士と思われる男性が声を上げた。


「ブレイヴァリー、戦闘開始しました! 映像繋げます!! 」


正面スクリーンの半分が、戦闘型ロボットの操縦席からの視点の映像に切り替わった。激しい揺れが伝わって来る。赤い霧の中に、相手の戦闘型ロボットが見え隠れしていた。


赤い錆が全身にこびりついた戦闘型ロボットは、若干動きがぎこちないようだがブレイヴァリーよりも大きく、優に5mはあるように見えた。

ロボットの風貌から、どこから来たのかは俺にも見当がついた。いや、来たのではない。彼等はずっとここにいたのだ。


「!! ・・・・・・これは・・・・・・ブレイヴァリー全機撤退!!逃げる事を最優先しなさい!! 全速力でポイントAに向かいなさい!! ポイントAに待機中の軍艦はブレイヴァリー格納庫の入り口を解放する事!! 」


兵士達がざわついている。かなり混乱しているように見えた。

アルフェッカも少なからず動揺している。


「敵機の数がどんどん増えています!! 」


「軍艦はレーザーで応戦! 主砲パワー充填!! 敵は追い払うだけでいいわ!! 速度を上げてポイントAを目指しなさい!! 」


スクリーンから分かる外の映像は、霧のせいで良く見えない。しかし大きな振動と地響き、そしてレーザー銃の光が戦闘の激しさを物語っていた。


赤く錆び付いたロボットは、数こそ多いが性能や動きが劣っているようで、次々に倒され引き離されていった。


「間もなくポイントAに到着します!! 」


操縦士の声が響くと同時に、スクリーン中央に他の軍艦からと思われる通信映像が映し出された。


「少尉!! 混乱に乗じてプレアデスが上空に脱出!! 現在追跡準備中ですが、戦闘型ロボットに執拗に行く手を阻まれ難航しています!! 」


「なんですって!? 」


「なんだって!? 」


俺とアルフェッカの声が重なる。

通信映像には、プレアデスの影がだんだん消えて行くのが映っている。


良かった、ミモザは無事なのか。


「ジャスティス、上昇開始! プレアデスを追いなさい!! 他の軍艦はブレイヴァリーを回収次第惑星から撤退する事!! 後の指揮は各艦長に任せます!! 」


ジャスティスと呼ばれたこの軍艦が上昇を開始する。だが、進路には戦闘型ロボットが数台立ちふさがった。いくら動きが鈍いといえど、小回りの効かない軍艦ではロボットを避けて通る事はできない。


「主砲、用意」


アルフェッカは右手を上げた。


「主砲、戦闘用ロボットに照準を合わせました! 」


操縦士の声とほぼ同時に、アルフェッカは上げた手を45度振り下ろした。


「発射!! 」


一際大きな振動と爆発音がする。主砲のレーザーが発射された後には、何も無くなっていた。その通り道だけ霧も吹き飛ばされ、一瞬視界が開けた。

ジャスティスは再び進み出す。


俺はプレアデスが逃げ切れるよう、祈る事しかできなかった。

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