表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/49

16歳(1): やる時は殺る

 


「マリエラ嬢、一曲踊って頂けませんか?」

「ごめんなさい、私激しい運動はお医者様に止められていますの」

「マリエラ嬢、一緒に庭でも歩きませんか?」

「ごめんなさい、夜風に当たるとすぐに風邪を引くので……」

「マリエラ嬢、何か飲み物でも持ってきましょうか?」

「ごめんなさい、胃が弱いのでお酒も冷たいものも飲みませんの」


 入れ代わり立ち代わり次々と目の前に現れる男達を適当にあしらいながら、マリエラは扇で口元を隠して欠伸を一つ噛み殺した。

 今彼女の前にいる男は、何やら盛んに美辞麗句を並べ立ててマリエラの美しさに感嘆した的な事を言っている気がする……が、装飾的な言葉が多すぎてもはや何を言っているのかさっぱりわからない。たかが髪の色一つを褒めるのに、良くもこんなに仰々しい言葉を並べられるものだと呆れながら、マリエラは黙って全てを聞き流していた。



 十六になったマリエラが社交界にデビューして、今日は二回目の夜会になる。

 彼女が出た最初の夜会はマリエラのために侯爵家で催したものだ。そちらはマリエラの意向もあってあまり派手なものではなかったし、客も侯爵家やマリエラ個人と交流のある貴族が厳選されていた。どちらかと言えばマリエラの社交界へのお披露目というよりも、とにかく病弱であることで知られているレイローズ侯爵家の長女が無事成人を迎えたことを祝う事を目的としたような和やかな夜会で、祝われる当人に負担のないよう十分配慮されたものだった。


 対して今日の夜会は王宮主催のもので、王太子夫妻の長男の誕生を祝うものだ。さすがにこれには国中の全ての貴族が列席し、そこには当然レイローズ家の姿もあった。

 自分の為の夜会以降、病弱を理由に全ての夜会を欠席していたマリエラだが、さすがに成人しているからにはこの祝いだけは参加する必要がある。

 誕生を祝う式典は早い時間にほぼ全ての王族と貴族が出席して行われた。やがて王族のうちの未成年者が退席し、会場を移してこうして夜会が開かれているわけだが。


 マリエラはこの会場に両親と兄と一緒に来ていた。王太子夫妻に祝いの挨拶に行った両親の後ろに黙って控え、その後の幾人かへの挨拶周りを終わらせれば彼女の今日の任務は完了の予定だった。後は控室に兄に伴われて引っ込み、そこで待っているユリエと共に王都の屋敷へ帰るはずだったのだ。

 しかし現実はそう上手くは行かなかった。何しろここ数年いつだって話題のレイローズ侯爵家だ。こちらから挨拶に行かなくても、向こうから来る人間の多い事。おまけに今日は社交界にデビューして以来、一切表に出てこなかった長女が一緒と来ている。実際は昼間のお茶会くらいなら数回出てはいるのだが、それも割と懇意の家の、招待客は女だけ、という茶会しか選んでいないのでマリエラを見たこともないという人間の方がはるかに多いのだ。

 更に先だってそれまで社交界の女たちの注目の的だった嫡男であるレイルが婚約してしまった事もあり、レイローズ家に食い込みたい貴族達の視線は今やマリエラに向いている。

 そんな事情もあって、レイローズ一家はいつの間にか大勢の貴族に取り囲まれ、入れ代わり立ち代わり挨拶をされて、身動きが取れなくなってしまった。

 マリエラが人に酔いかけたのに気付いたレイルがどうにか連れ出してくれ、広間の端にある椅子に座らせてくれたものの、何か飲み物を取ってくるといってどこかに行ったきり今度は彼も戻ってこない。

 その結果、マリエラはこうして多くの男達に囲まれ、にこりともせずに話を聞き流しつつ欠伸を噛み殺している訳だった。


(今何時だろう……眠くなってきた)

 何人目かの男のどうでもいい誘いに首を横に振った所で、マリエラは眠気を憶えた。

 現実逃避したくなるとすぐ眠くなる癖は健在だし、病弱なマリエラの夜は普段から早いので、良い子が眠るくらいの時間になると眠たくなる。

 座ったままどんな誘いにも微動だにしない彼女に周りの男達も苛々したり落胆したりしてきている。いい加減解放して欲しいと思っていると、不意に男達の向こうから声がかけられた。


「マリエラ様、お久しぶり! ねぇ、皆様、ちょっとどいて下さらない?」

 男達に強引に道を開けさせ、マリエラの前に唐突に現れたのは同じ年頃の知らない少女だった。

 彼女はマリエラの前に来ると、いかにも親しげに彼女の手を取った。

「こんな所にいたのね、探したわ。貴女ったらこんな壁際にいて退屈でしょ、踊らないの?」

「……ええ。お医者様には止められているので」

「相変わらずねぇ。そういえば顔色も悪いわ、人に酔ったの? 控室で少し休んだ方がいいわ。良かったら久しぶりだし、あっちでゆっくり休みながらお話ししましょう?」

 マリエラは彼女に見覚えがなかった。もっともすぐに人の顔を忘れてしまうので以前に会っている可能性もあるのだが、それでも多分彼女とは親しくないな、と考える。こんな風な、可愛いんだけど気の強そうな、さらに言えばちょっと性格の悪そうな感じの子はマリエラの友人にいなかったはずだ。

 しかしこれはこの場を離れ控室に行くチャンスでもある。マリエラは少し考えたが、彼女の提案に乗ることにした。


「ええ、控室にちょうどそろそろ行きたいと思っていたの。皆様、ちょっと失礼いたしますわ」

 周囲の男達にそう断ると、マリエラは少女と共に広間の出口へと向かった。

 広間の出口から外の通路へと抜け、マリエラは控室の方へと足を向けようとした。しかしそんな彼女の腕を、一緒に来た少女が取った。

「マリエラ様、ちょっと待って。妹が来ているのだけどはぐれてしまって、彼女を探したいの。きっと迷子になっているのよ。少し付き合ってくれない?」

「……申し訳ありませんが、人ごみの中を歩いて疲れているから早く休みたいのです。それと、ごめんなさい。連れ出してくれた事には感謝していますが、私、貴女の事存じ上げないわ」

「あら、そうそうまだ名乗っていなかったわね。私はライラよ。ね、お願い。助けてあげたじゃない、少しだけ付き合って。王宮って広くて、一人で歩くなんて心細くて無理なの!」

 きっとすぐに名を忘れるな、と思いながら、マリエラはライラに強引に引っ張られて歩き出した。貴族達の供の者が控えているはずの部屋とは逆の方へと。

 歩きながらライラは一方的にマリエラへとべらべらと話しかけてくる。


「貴女ったら羨ましいわ。マロウズ公爵家のアーサー様に話しかけて頂けるなんて。それにルバンド侯爵家のジェームス様にも! それなのにあんなに無関心だなんて、信じられない!」

 誰だそれは、とマリエラは考えたが答えは出ない。さっきまでマリエラを囲んでいた有象無象の中のどれかだろうというのはわかったが、もうすでにどの顔も思い出せなかった。

 それよりも今歩いている場所の方がマリエラには気になる。この一角は通路の入り口には一応警備の騎士が立っているのだが、それより先はシンと静まり返っている。一定間隔で扉だけがある場所だ。王宮の中でも比較的外側にあるこの付近は、エルランディアの頃の記憶と変わっていなければ普段は客人を通す客間がある場所のはずだ。

 今日の式典は国内向けのものなので外国からの賓客はほとんど来ていない。そういう時はこういう場所は一定の範囲まで招待客に解放され、彼らはここを貴族同士の内々の話し合いや、密会、あるいは夜会を抜けてのちょっとした火遊びに使うものと相場が決まっている。

 ライラと名乗るこの少女がマリエラをここへ連れ込んだ以上、目的は明らかだ。

 さて、どうやって抜け出すべきかとマリエラが考えていると、突然ライラが声を上げた。


「あっ、セリア! セリアだわ!」

 彼女の視線の先を見ると、通路の途中の角にピンク色のドレスがひらりと消えたところだった。

 どうやらあれが妹らしい、と思う間もなくライラはマリエラの腕をパッと離して駆けだした。

「あの、ライラ様?」

「ごめん、ちょっとここで待ってて! すぐに妹を連れ戻してくるわ!」

 ライラはドレスを着ているとは思えないなかなかの走りであっという間に廊下の角の向こうに消えてしまった。

 後にはマリエラだけが廊下の真ん中にぽつりと残される。恐らく最初からそのつもりだったのだろうな、とマリエラは苦笑し、それから自分の今の状態と周囲の状況を確かめた。

 大抵はこういう場合、この後どこかの扉から彼女と結託した男が出てくるのだが……と、マリエラが振り返った瞬間、ガチャリ、と目の前の扉が開いた。


「おや。これはこれは、マリエラ嬢じゃありませんか! お久しぶりですね、お元気でしたか?」

 今日はよくよくお久しぶりと言われる日らしい、とマリエラは内心で舌打ちしながら立ち止まった。

 目の前に現れた男は大げさな身振りでマリエラの来た道をふさぐように近づいてくる。マリエラは相手と慎重に距離を取りながら、その動向を油断なく伺った。もちろんそうは見えないように、可愛らしく小首を傾げながら。

「あの……ごめんなさい、どなたでしたかしら?」

「えっ、覚えておられないんですか? 以前父と一緒にレイローズ家を訪ねた事があるんですよ。その時に、マリエラ嬢ともお話をさせて頂いたんですが……そうですね、もう以前お会いしたのは四年くらい前になりますしね。憶えておられなくても無理はないかもしれません。少し残念な気もしますが、新たな出会いを果たしたような気持ちになれるのもいいかもしれませんね。こうして会えたのも、きっと運命かもしれませんよ」

 きらりと白い歯を光らせて笑うその馬鹿そうな顔に、マリエラはうっかりため息を吐きそうになった。さっきの少女もそうだがこの男も、一向に家名を名乗らないその態度に苛々してくる。恐らくは家名で警戒されるのを避けているのだろうが、全くの逆効果だった。

 とりあえず何とかこの場を早く離れなければ、とマリエラは辺りの気配を探り、考えを巡らせる。

 しかし生憎周辺に人気は感じられない。実はまだ夜会としては中盤にも差し掛からない早い時間なのだ。この時間から客室を使う人間はほとんどいないのだろう。入り口まで走れば警護の騎士が立っていたが、そこまではそれなりに距離がある。やはり自力で切り抜けねばならないかな、とマリエラが覚悟を決めた時、男が大きく彼女に近づいた。


「マリエラ嬢、顔色が良くないですよ。夜会でお疲れですか? そうだ、ここで少し休んで行かれては?」

 そう言って男はマリエラの腕をさっと掴むと、背後の扉に手を掛けた。

「いえ、結構です。控室には侍女がおりますので、そちらで休みますわ」

「そう仰らず。今にも倒れてしまいそうじゃないですか」

 男はマリエラの言葉を意に介さず、扉を開けて掴んだ腕をさらに引っ張った。華奢なマリエラの体は容易くそちらへと引き寄せられる。マリエラは両開きの扉の開いていないもう片方をしっかりと掴み、それに抵抗しようと足を踏ん張った。

「離してください、休むにしてもこのようなところでは休まりませんわ。顔色が良くないというのなら家に帰って医者を呼びますから」

「そんなに無理をなさらなくても大丈夫ですよ。大丈夫、ここには誰もいません。さ、中へはいってゆっくり休みましょう。私が傍についていますから、何も心配はいりませんよ」

 何が大丈夫で心配ないのか聞いてあきれる、とマリエラは内心でため息を吐いた。よほど自分に自信があるのか、マリエラを御しやすい小娘だと思っているのか、部屋に連れ込めれば何とでもなると思っているのだろう。中に入れば恐らく即座にマリエラを押し倒し、部屋に入ったのだから合意だろうとかそっちもそのつもりだったはずだとか言うに決まっている。


「手を離してください。知らない殿方とこんな所で休める訳ありません。人を呼びますよ!」

 無駄だろうと思いつつもマリエラは強い調子で男を拒否した。

「知らないなどとそんな他人行儀な。以前お屋敷でお会いした時はあんなに親しく話をしたでしょう。ああ、そんなに照れなくてもいいんですよ。大丈夫、貴女の嫌がるようなことはしませんから」

 男はまるでマリエラが恥らうのはわかるとでも言いたげな態度で、にやにやと気持ちの悪い笑顔を浮かべた。

 マリエラは扉に掛けた手と、踏ん張った足にさらに力を籠め、男とは逆に体重をかける。マリエラの体重など知れたものだが、それでもこれからやることの準備にはなる。

 男はか弱い癖に抵抗を止めないマリエラを面白そうに眺め、掴んだ腕に力を込めた。思い切り引けばどうせすぐに引きずり込めるだろうと考えたのだ。


「マリエラ嬢、恥らう気持ちはわかりますが、女性は素直な方が魅力的ですよ」

「あら、女性を強引に部屋に連れ込もうとする殿方になど魅力的と思って貰わなくて結構ですわ」

「ふん、可愛くない事を!」

 なかなか動かないマリエラと、その言葉に焦れた男は苛立ったように彼女の腕を強く引いた。

 マリエラはその瞬間を待っていた。

 男が引くその力を利用して、扉を掴む手を離して踏ん張っていた足で強く床を蹴り、その懐に思い切り飛び込む。飛び込んだ瞬間に腰元に差していた扇をさっと引き抜きしっかり握って、体ごと男に体当たりした。

「ぐっ!?」

 扇の柄が鋭く鳩尾を抉り、男は呻いた。華奢な令嬢とはいえ自分が思いきり引っ張った力を利用した体重の乗った一撃だ。思わず男の息が詰まる。男が怯んだ次の瞬間今度はマリエラは細いヒールを男の足の甲に思い切り振り下ろした。

「ぎゃっ!」

 細いヒールという凶器のもたらした痛みに男は思わず片足を上げる。すると今度はそこにマリエラの足が大きく振り上げられた。

「うぐっ!」

 どすっ、と鈍い音が男の股間から響く。あまりにも容赦のないその一撃に男の体はたまらず前かがみに倒れかけた。そして最後にその下がった首の後ろに細い肘が撃ち込まれ、男は声もなく意識を刈り取られ、床に沈んだ。


「……落ちたかな? よし、ふー、いっちょ上がりっと」

 どさりと床に落ちた男の体を足先でつついて起き上がらない事を確かめると、マリエラはふぅとため息を吐いた。

「こういうのは久しぶりだったけど、まぁ一応記憶の通りに体が動いてくれて良かった……」

 マリエラは倒れた男が目を覚ましてもいいようにと、男の首からスカーフを抜き取るとその腕を後ろで縛り上げた。ぎゅっと力をこめるとツキンと手首が痛む。

「むぅ……無事、とは言い難いな」

 見れば男に掴まれていた方の腕は赤く痣になっていたし、反対側は思い切り鳩尾を突いた時に少し捻ったらしい。思わず舌打ちをしたい気分を堪え、マリエラはとにかくここを出ようと扉へと向かおうとした。すると今度は足が痛む。どうやら足もいつの間にか捻っていたようだ。考えてみればとにかくマリエラの体はひ弱なのだ。鍛えるどころか運動すらほとんどしない体だ。それを考えず無茶をすれば反動が来るのは当たり前と言えた。


「くそ……どうしてくれようこの野郎……」

 全てはこの男のせいだと思うとどうしようもなく怒りがこみ上げた。しかしこのままここでのんびりしている訳には行かない。男はしばらく目を覚まさないだろうが、それでも起きた時に傍にいればまた面倒なことになる。

 マリエラは痛む足を引きずりながら扉へと向かった。男が倒れた時に手を離した反動で、扉はいつの間にか閉まっていた。

 カチ、と少し戸を開けて外を伺う。誰にも見られずに出られるかと思ったが、廊下を歩く物音がして、マリエラは少しだけ扉を開けて外を伺った。すると廊下の奥の方から軽い足音が二人分して、マリエラのいる部屋の扉の少し手前で止まる。声の主たちは辺りを見回しているのかしばらくその場所で立ち止まり、静かな通路や並んだ扉をそっと窺っているようだった。


「いた?」

「いないわ。きっとお兄様、上手く行ったのよ」

「良かった、これでお父様の言いつけを守れるわ」

「さ、行きましょ!」

「ふふ、お兄様がレイローズの娘を娶れるなら、私達も良い縁を探してもらえるかもね!」

「ホントね! あーあ、でも私レイル様狙ってたんだけど、婚約しちゃうなんて悔しいわ」

「あら、あんな小太りでパッとしない女、どうとでもなるわよ。奪っちゃえばいいじゃない!」

「やだ、それ素敵ね!」

 女たちはきゃらきゃらと笑いながら廊下を戻って行った。

 声の片方はあのライラと名乗った少女のものだった。彼女らはこの男の妹たちだったようだ。しかもどうやら親の言いつけでマリエラを誘い出し、それとなく兄と二人にして既成事実を作らせるつもりだったらしい。既成事実さえできてしまえば、後は何とでもなるなどと、頭の悪い人間の考えそうなことだとマリエラはため息を吐いて首を横に振った。


「そこまでしてレイローズに食い込みたいかね。っていうか兄上がお前らみたいな性格の悪いの選ぶ訳あるかっての」

 そう呟いて、マリエラは廊下に出るのを止め、窓の方へと向かう。ここは一階なので外には出られる。窓を開けて外に出ると、夜風が冷たい。これは後で風邪をひくなと思いつつ、マリエラは扉を閉めてせめて風の当たりにくい壁際へと避難すると、神力を少しだけ解放した。そうしてそれを使ってこの王宮内にいるはずの人物に呼びかける。

 まだ割と早い時間だったのが幸いしたのか、相手からはすぐに返事が返ってきた。


『マーレエラナ様? あれ、今夜会でしたよね、どうかしましたか?』

 アルフォリウスことエリオット王子の慌てた思念がマリエラの頭に響く。夏の別荘で彼と訓練するうちに知ったのだが、同じように目覚めている神の転生体同士なら、こうして簡単な神術を使って通信することができるのだ。

 彼とは昼間の式典で一応顔は合わせたが、表だって親しく会話はしなかった。しかし今日マリエラが夜会に出る事はその時にこうして心話で話しておいてあった。


『煩い。少し神力の出力を落とせ、頭に響く。用件だけ言うが、今夜会が行われてる外宮殿の客間のベランダにいる。ちょっと困っているから手を貸してくれ。神力を少し出しておくから、それを頼りに場所を探してほしい』

『……す、すぐ行きます!』

 マリエラが助けを求めてきたのが意外だったのか、しばしの沈黙の後、エリオットは慌てて動き出したようだった。彼のいる内宮殿の方からこちらまでは結構距離がある。しばらくはかかるだろうなと考えながら、マリエラはそっと部屋の中を窺った。まだ男は目を覚ます気配はない。少女の力とはいえ肘は硬いし、かなりキレイに入ったのだ。ついでにズボンでも下ろして恥をかかせてやっても良かったかなどと考えつつ、冷えてきた腕をさする。

 壁に寄り掛かっているが、足は熱を持ったように鈍く痛む。手首もこのまま放っておけば腫れるだろう。早いところ家に帰ってリアンナに癒してもらいたいなぁとマリエラはため息を吐いた。



年末年始のあれこれで忙しいので、しばらく更新は数日おきになります。次は新年になるか、その前に間に合うかというところです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ