15歳(1): シャーロット嬢の災難
十五歳も半ばを過ぎた頃、マリエラは最近ちょっと疲れていた。
いや、いつも人生の長さに倦み疲れていると言えばそうなのだが、そんなマリエラをさらに疲れさせる出来事が来年に控えているのだ。
「マリー、もう一着仮縫いを試着すれば終わりだから頑張ってちょうだい」
「お母様……まだあるの?」
「そうよ。これでも侯爵家の長女の社交界デビューの為のドレスとしては、すごく数を減らしてあるんですからね」
「私の体は一つしかないし、そんなに多くの夜会やお茶会に出る体力もないのに、一体どこで着るの……」
「備えておくのは当たり前です」
昼の茶会用、ガーデンパーティなんかの外用、夜会用と年に三着もあれば十分だろうにとマリエラは思うが、そんな事を言ったらアマリアに長々と説教されそうなので黙って最後の服を着せかけられるままに任せる。もはや自分がドレスを着せかける台にでもなったかのような気分だ。ドレスのデザインも合わせる装飾品や靴などの小物も、全てアマリアや侍女ら、仕立て屋におまかせでマリエラは一切興味もなく関わっていないので、それはあながち間違ってもいない。
そろそろ来年の社交界デビューの支度をしなければとアマリアが言いだしてからというもの、連日のように仕立て屋が出入りし、生地や装飾品、小物を売りに来る商人も増え、あれこれと付き合わされ続けているのだから疲れもたまる。案の定二度ほど寝込んだために、結局予定が押してしまったりもした。それらがすべて自分の為に必要だというものじゃなければ、もうとっくに逃げ出していることだろう。
着せかけられたレースとフリルで飾られた淡い水色のドレスは、マリエラの儚げな美しさをより一層際立たせている。しかし当の本人は鏡を見ながら、なんか淡くて消え入りそうで、幸薄そうに見えるドレスだなぁなどとアマリアが聞いたら嘆くようなことを考えていた。
アマリアはマリエラの体調を気遣って、流行を考えつつも体を締め付けない軽めの生地のドレスばかりを作らせていたが、それでもたっぷりとした生地やフリルなどの装飾はかなり重い。そこにまだ装飾品も付けなければいけないのだ。とてもじゃないがこれを着て夜会を最後まで耐える事は、マリエラには無理だと感じた。
「体調もあるでしょうから、どうしても出なければいけない会だけ出席にして、早めに切り上げるよう気を付けましょうね。その辺もちゃんと考えてありますから、ドレスだけは我慢しなさい。ちゃんと合わせておかないと、体に合わず辛い思いをするのは貴女なのよ」
「はい……」
十五になってもマリエラは背だけはどうにか年相応に伸びたが、あまり女性らしい体つきになったとは言い難い。まったく腰を絞る必要がないのは世の婦人たちに羨ましがられるだろうが、実際は棒の様だと分かれば誰もが同情するだろう風情だ。その辺りもアマリアの悩みの種だった。
「貴女もだいぶ丈夫になったけれど、まだ食が細すぎるわねぇ。もっと食べなくちゃ」
「食べ過ぎると胃もたれして、夕方まで動く気にならないから無理よ、お母様」
「カインの半分でも食べてくれれば、もっとあちこちに栄養が行くでしょうに」
「そんなに食べたら絶対に倒れる自信があるわ」
七歳になったカインは、もともとあまり食べないマリエラの三倍は食事をとっている。その食べっぷりを見ているとマリエラはしばしば食欲を無くすので最近は食卓の並びが変えられたくらいだ。
「うん、よさそうね。あちこち余っているけれど来年までにもう少し貴女が育つことを期待して、また直前に直させましょう」
期待するだけ無駄じゃないかなと思うがマリエラは慎ましく口をつぐみ、黙って母に頷いた。口を挟んでまたこの苦行が長引いては困る。
「はい、じゃあこれで終わりよ。もうすぐお客様がいらっしゃるんでしょう? それまではゆっくりなさい」
「ええ、そうします。ありがとう、お母様」
やっと苦行から解放されたマリエラは、ユリエを伴って自室に戻り、ソファにぐったりと沈みこんだ。体の重さが倍にもなったかのような疲れを感じるが、このあと客が来るので余りのんびりもしていられない。
「はぁ……ちょっと疲れてるけど、ロッティなら気が楽だわ」
午後にマリエラを訪ねてくるのは数少ない友人であるシャーロットだ。
人の顔と名をなかなか覚えられないマリエラが今のところちゃんと覚えている唯一の少女なので、彼女と会う時間はさほど苦痛ではない。彼女は社交界へのデビューを控える年になっても、まだ相変わらず美しい魂の輝きを維持している稀有な少女だった。
マリエラが病弱なのと親の領地が少し離れている事もあって王都の屋敷にお互いが滞在している時にしか顔を合わせないのだが、手紙をやりとりしたりしてこの五年の間にすっかり仲良くなり、今では愛称で呼び合う仲だ。
他にも友人と言える少女たちは何人かいるのだが、その子たちは長く会わないと時々顔と名を思い出せない事があるので代わりにユリエに覚えてもらっていたりする。今日はその復習が必要ないのでマリエラは楽々していられた。
「シャーロット様が特にお約束もなくいらっしゃるのは珍しゅうございますね」
「そういえばそうね。この前誕生日の贈り物を送っておいたからそのお礼かと思っていたけれど、もうお礼状は貰っているし……何かあったのかしらね。とりあえず、あの子の好きなお菓子を出しておいてねユリエ」
「かしこまりました」
シャーロットと会う時はお互いの予定を合わせるため前もって連絡し合う事がほとんどだったのだが、今回は昨日急に会いたいと連絡が届き、今日会う事になったのだ。シャーロットは万事にこまめで気の利いた性格なので、そんな事は初めてだった。
何かあったのかな、と考えたが、しかしこの年頃の少女の身に起こることなど大体相場が決まっているかと思い直す。誰かに恋をしたとか、婚約が決められてしまいそうだとか、好きな人が結婚してしまいそうだとか、そんなところかもしれない。
「……ユリエ、占いの道具も出しておいてちょうだい」
「かしこまりました」
恐らく必要になるだろうと、マリエラはユリエに準備の追加を頼んだ。てきぱきと支度をするユリエの後姿を見ながら、マリエラはちょっと一眠りしたいなぁとぼんやり考えていた。
その一刻後。
果たして、占い道具を用意したマリエラの予想は当たっていた。しかし、残念ながらその前の予想は当たっていなかった。シャーロットは大変重大な悩みを抱えてマリエラのもとを訪れたのだ。
どうしたものかな、とマリエラは考えを巡らせる。
目の前で机の上を睨んでいるシャーロットの目からは今にも涙がこぼれそうだ。いや、既に時々こぼれている。
「わっ、私、どうしたらいいのかもうわからなくて……絶対無理だわ。このままじゃ、きっと……」
「うーん……そうよねぇ……」
彼女の悩みに対する良い答えが思いつかず、マリエラは眉間に皺を寄せた。手の中の星座盤をくるくると使うでもなくいじるが、それを使って良い案が出る可能性は低いようにも思える。
「さて、どうするか。リアンナの時とは違うしな……」
目の前の少女に聞こえないくらいの声で小さく呟き、マリエラは一つため息を吐いた。
シャーロットの悩みの発端は昨日の夕方にさかのぼる。
一昨日十五歳の誕生日を迎えた彼女は、いろいろとお祝いや所要で少し遅くなったが、侍女を伴って王都の自宅から一番近い風の神殿へ詣でた。五年ごとの加護の確認をするためだ。
五年ごとの確認には十歳を過ぎれば普通家族はついてきたりしない。大抵は馬車の御者と若干の警備に、供の侍女が一人二人付いてくるくらいだ。貴族にとっては五歳を過ぎたのちの加護の確認はあまり重要視されていないのだ。
明確な職業についていない者の多い貴族の子女などは特に、五歳を過ぎてしまえば加護が発現する機会はとても少ない。下町で働いている庶民の方が持っている率が高いくらいだ。
しかしそんな事をおおっぴらに言いたくはないのが貴族というものだ。けれど一応万一という事もあるので加護の確認はしたい。故に貴族たちの間では、前もって予約して少人数でそっと神殿を訪れ、専用の小部屋で一人の神官の立ち合いのもと加護の確認をするというのが通例になっている。王都の神殿には貴族の為のそうした小部屋がどこにでも用意されていた。
シャーロットも例にもれず、侍女一人を伴って予約していた小部屋に入り、あまり位の高くなさそうな若い神官に水晶に何も浮かばない事を確認して貰ってすぐに帰るつもりだった。
しかしなんと出てしまったのだ。水晶の中に、光る文字が。
「え? え、ええと、え、エ……エリアルス様の、ご加護……エリアルス様のご加護を授かっています!」
「は?」
随分とえの音の多い神官のその言葉に、シャーロットはぽかんと口を開けた。
今耳に届いたことが間違いでないのかと、水晶玉を見る。そこには確かに彼女には読めないが光る文字らしきものが浮かんでいた。確かに何か加護を授かったことは間違いないらしい事はわかった。しかし今彼は何といったろうか。
「あの、神官様、もう一度仰って頂けます?」
「ですから、エリアルス様です! シャーロット様は海の神エリアルス様のご加護を授かっていらっしゃいます! おめでとうございます! すごいですよ、水の最高神様です!」
若い神官は最高神の加護を得た人を見たのは初めてだったので、きらきらと煌めく文字に興奮している。しかし当のシャーロットはただ首を傾げた。
「……海の神?」
「はい!」
シャーロットは一生懸命考えた。海の神様ってどんな神様だったかしら。というか、そもそも海がよくわからないわと。
しかしいくら考えても答えが出ない。
シャーロットは生まれてこの方海というものを見たことがないのだ。本では一応読んだことはあるが、それだけだ。
彼女の親の領地は内陸の北のカルルテン伯爵領だ。湖はあるが海からはとても遠い。
「海って、あの、海ですわよね。大きくてしょっぱい……波のある?」
「え、はい。そ、その海ですね……」
「あの……海の神様ってどんな神様なのか、良く分からないのですが。加護を授かると、どんなことがあるんでしょう?」
ちっとも喜んだ様子の無いシャーロットに戸惑いつつ、神官はええと、と考え込んだ。実は彼も内陸育ちで海を見たことがない。なので神殿所蔵の神様名鑑で昔読んだことを一生懸命思い出す。
「確か……船乗りの間でとても崇拝されている神様だったはずです。水の神様には海を司る神様と、湖や川、池などを司る陸の水の神様がいらっしゃるのですが、その水の眷属の最高神が海の神エリアルス様で、陸の水の女神エルメイラ様の双子の兄君であると伝えられています」
「あ、エルメイラ様ならよく存じております! 私の故郷の湖の傍の街に、大きな神殿がありますわ。エルメイラ様のご加護を頂いた方の話は本で読んだことがありますが、渇水から国を救ったり、水源に困る村に地下水を引いて池を作ったりという逸話がありました……エリアルス様も、そんな事ができるのかしら?」
それなら故郷に様々な恩恵をもたらすことが出来るし、嬉しいご加護だ、とシャーロットは期待した。
しかし何故か汗をかきだした神官の発した言葉は、その期待をあっという間に打ち砕いた。
「ええと、いえ、エリアルス様は海の神様なので、その……乗った船が良い波を捉えて良く進むとか、海で嵐にあわないとか、あとええと、海で泳ぐのがとても得意になるとか、魚がたくさん獲れるようになるとか……確かそう言うご加護だったような気が、します」
「え……そ、そうなんですか」
あからさまにがっかりしたシャーロットの様子に、神官の動揺もひどくなる。
最高神の加護に思わず彼の方が浮かれていたが、冷静になってみれば確かに目の前の貴族の令嬢が海の神の加護を得ても、役に立てる機会はないに違いないと思い至ったのだ。
「あの……シャーロット様の故郷に、海は?」
「ありません……私、海を見たこともないんです。なのに、何故海の神様の加護なんでしょう……あの、私、魚を自分で獲ったりしなければならないのでしょうか?」
シャーロットは生まれてこの方海を見たこともなければ泳いだことも当然ない。当然ながら人前で肌を晒したりしない貴族の令嬢はそんなものを嗜んだりしないのだ。それにシャーロットはどちらかと言えば魚料理もあまり好んで食べる方ではない。船も、湖の上でボートになら乗ったことがあるが、揺れも少ないのに船酔いしてあっという間に下りた記憶しかない。
「あの……私が持っていても、何の役にもたてられそうにないのですが……いいのでしょうか。そもそもなぜ頂いたのでしょう私……?」
「そ、それはその、神の御心は私にもちょっとわかりません。とりあえず加護の力を借りるかどうかは別として、授かったものは有難く拝受なさってはどうでしょう」
「そうですわね……」
「あ、それと、国の方に授かったご加護の事を報告してもよろしいですか?」
「え? 報告?」
「はい。神殿では大きな加護を授かった方が出た場合、本人やご家族の了承を得て神殿のある地の領主に報告するのが通例になっているのです。王都の神殿なら国に報告が行きますが」
シャーロットはそんな仕組みがあったとは知らなかったが、もし自分の事が報告されたらどうなるかを考えた。
そしてその答えにたどり着いた途端、みるみる顔を青ざめさせた。
「い、いやです! 報告しないでください、絶対に!」
「えええっ!? な、何故ですか? 水の最高神の加護ですよ!? 慶事ですよ、お祭りですよ?」
「それが嫌なんです! だ、だって、過去の最高神の加護者の方々の事、本で読みました。聖女や聖人として祀られて、加護の恩恵を求める場所をあちこち旅し、縁談も引きも切らず、などと色々書いてありましたが、もし私の加護が公になったらひょっとしたら私、海に行けって言われるんじゃないんですか!?」
「あっ、そ、それは確かに……海の傍でこそ活きる加護ですから、そうなるかもしれませんね」
「私、船酔いするから船にも乗れないし、泳いだこともないし、魚も苦手なんです! なのに海だなんて、無理です! 絶対無理だわ!」
シャーロットの頭の中では、昔読んだ本の挿絵になっていた、荒れた海に木の葉の様に翻弄される帆船が再現されていた。あんなものに乗ったらきっと自分はあっという間に海に放り出されてしまうに決まっていると心の底から思う。泳ぐのが上手くなるって言っても、元々泳いだこともないのだったらしょせんそれは無いも同然なのではないだろうか。更に船に乗せられて魚を獲れと言われたりしたら一体どうしたらいいのか。
「海の方の領地の方から縁談とか来てしまうのかしら……そ、そうしたらやっぱり、船に乗らされたりするんじゃないかしら」
「……海の神様の祭事は海に浮かべた船の上でやると聞いたことがあります」
「このご加護で、船酔いがなくなったりとかは……?」
「ええと、船酔いは、船の神様の担当だった気がします……すみません」
聞けば聞くほど微妙に暗い未来しか思い描けず青くなるシャーロットに、神官も自分が悪い訳でもないのに冷や汗をかきながらぺこぺこと頭を下げた。
「加護って、その、返上したりする訳には行かないのですよね?」
「へ、返上ですか……確かに、加護を放棄した記録が残っていない訳ではありませんが、それには様々な条件や手続きが必要で、かつその者は生涯どの神の神殿にも足を踏み入れる事が許されなくなった、という話が残っております……」
「そ、そんな……神殿に出入りできないなんて、困ります!」
生涯においてという事は結婚式も子供の祝福も葬式も、自分のものを含めすべてに出られないという事だ。若いシャーロットには酷すぎる話だった。
「どうしたらいいの……こんなこと、お父様やお母様にも言えないわ。言えば絶対お兄様が嬉々として縁談を持ってくるに違いないわ」
シャーロットの両親は優しくて良い親だが、お人好しで騙されやすく、少しばかり考えなしなところがある。しっかり者の長男が必死で領地を支えているが、彼は親に苦労をさせられたせいかどうにも打算的な性格だった。
小さかったころは優しかった兄だが、今では顔を合わせる度にお前の器量がもっと良ければ家のためになったろうにと嫌味を言われてシャーロットは辛い思いをしている。
性格を変えてしまったほどの気苦労を気の毒に思うし、助けになれない自分を申し訳なくも思うが、兄がシャーロットの加護を知ればさぞ大々的に宣伝し、彼女の売値を吊り上げるのは目に見えている。
「お願いです、神官様。どうか、どうかこの事は内緒にしてください。私、私には無理です。海の……そういえば海の神様の加護を授かった人も、聖女になるの? それとも海女? いえ、とにかく、私には絶対に無理です、海女なんて!」
少々混乱しながらもシャーロットは涙目で言いつのった。
「しかし……どのみち、神殿の加護者名簿には名が残ります。それは毎年一度国に提出することになっているんです。そうしたらその時ばれてしまいますよ。後からばれるとそれはそれで面倒なことになると思いますが……」
「そんな……ああ、ならどうしたらいいんでしょう」
ついにシャーロットはぽろぽろと涙をこぼした。後ろでずっとおろおろしていた彼女の侍女が慌てて近寄って宥める。侍女はずっと口を挟まず二人を見守っていたが、その彼女が顔を上げた。
「あの、神官様。お嬢様はとてもお優しい方なんです。海の領地はご領主様を含め荒くれ者が多いと噂を聞きます。そんなところにお嬢様が嫁ぐなんてきっと無理ですわ。それにカルルテン領は王都よりもさらに北なんです。海のある南の地の気候が体に合うとも思えません……お嬢様、お可哀想に……」
長年傍に仕えている侍女は優しいシャーロットにとても同情していた。
そこまで言われると神官も悩んでしまう。これが弱い加護なら神殿側も無理強いしないのだが、何といっても最高神だ。
国を挙げての慶事となる事を故意に隠してお咎めを受けるのも怖かった。
そんな彼の逡巡を見て取ったのか、侍女は彼の手を取って縋るようにさらに頼み込んだ。
「どうかお願いします。せめて少しだけ、数日だけでも誰にも言わず、名簿にも載せないでください。今日は予約を取ったけれど急にこれなくなったことにして欲しいのです。シャーロット様の兄上にばれないよう、旦那様と奥様だけにこっそりとお話しする時間をお嬢様に許してください!」
「……わかりました。そこまでおっしゃるなら、数日お待ちします。幸いここは外から直接来れる部屋ですからね。今日は急に都合が悪くなって来られなかったということにしておきますから、後日改めて予約を取って、儀式を受けに来て下さい。その時どうするかまた話をしましょう」
「ありがとうございます! さ、お嬢様、帰って旦那様に相談しましょう?」
侍女に涙を拭われ、薄い化粧を軽く治すとシャーロットは神官にくれぐれもと頼んで神殿を後にした。しかしその顔は当然ながら一向に冴えなかった。父親に相談してもきっとすぐに単純に大喜びして家中に触れ回ってしまうのが目に見えるからだ。
「どうしたらよいのかしら……誰に相談すれば……」
はぁ、とため息を吐くが良い考えが浮かばない。ぼんやりした両親はだめ、兄には絶対に言えない、親戚もきっと兄と一緒で嬉々として縁談を持ってくるだろう。
悩んでいると侍女があっと声を上げた。
「そうですお嬢様、マリエラ様です! マリエラ様にご相談してどうするのが一番良いか占って頂いたらどうでしょう?」
「マリーに? でも占いで、何とかなるかしら……」
「マリエラ様の占いならきっと大丈夫ですよ、あんなに良く当たるんですから! それにもし縁談を受けなければいけなくなったとしても、良い方かどうか占ってもらえばいいんです。お嬢様のお友達ですもの、きっとマリエラ様なら良い道を探してくださいます!」
「そう……そうよね。マリーならきっと……。わかったわ、モーナ。後でレイローズ家に使いをやってちょうだい。明日会えないかどうか、聞いてきて」
「はい、おまかせ下さいお嬢様!」
こうしてシャーロットは一縷の望みを託してマリエラの家を訪ねる事にしたのだ。




