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前夜祭

かなり久しぶりの投稿

ハーメルン様のものと同時進行してるため遅めです

季節は巡り、村は秋の収穫を祝う祭が始まろうとしている。


「おい、そっちの太い木を持って来てくれ。この木じゃ櫓のバランスが取れない」

「夕べにはベイルから大勢の礼拝客が着くぞ。宿屋組はちゃんとに準備出来てるのか?」

「あんた!街への買い出しすっぽかして何処で油を売ってたのさ!」


ここ、オルブ村はその準備に村人の声が彼方此方で飛び交っている。

水の精霊を祀る洞窟が近くにあるこの村には、秋の収穫の時期になると村から遠く離れたところからも礼拝客がくる。

その訳は言うまでもなく、水の精霊への祈りだ。

今年は豊かな水のおかげで沢山の作物が採れました。水が無くて作物が採れなかったので、次の年はもっと水を与えて下さい。水が多過ぎて作物が枯れてしまいましたので、次はもう少し少なめで。などなど。

その礼拝客の人数はとんでもなく多いので、この村での収穫祭は他の村に比べて派手で大きく、自然と賑やかになる。

今年の麦の刈り入れでは、去年の豪雨の事もあってそれが逆に良かったのか、とんでもない大豊作になった。それはもう翌年は麦を育てなくても良いほどに採れた。

村人はこの収穫祭が一年の中で一番の楽しみだと、誰もが思っているため、ただでさえ浮足が立っているところでこの大豊作。まさに心の高ぶりは有頂天だった。今年はその豊作もあってか、水の精霊が祀られている洞窟から流れ出てくる聖水を使って作ったパンと、村の羊達から絞った乳を使ったチーズ、そして葡萄酒が礼拝客含めて全ての人々に振舞われるらしい。

どうやら今のところ仕事に手を着けていない村人達は葡萄酒の出来を確かめているらしく、飛び交う怒号に混じって唄も耳に届いて来る。

そんな村の中央にある広場から離れた家に、ルロイの姿があった。


「ん〜」


両膝を着いて手を合わせてウンウンと唸り、額からは汗が垂れている。

部屋を家をカーテンで暗くして、ロウソクの明かりだけの部屋。ルロイの前には水を張った桶。中には水の精霊から貰ったロザリオが三つ程浸かっている。


「ふう、こんなもんでいいか」


傍に置いていたタオルで汗を拭い、コップに入った水を一口飲む。

ルロイがやっていたのはロザリオに精霊の加護を施す儀式で、そのロザリオは明日の収穫祭本祭で使うものだった。

本祭では、催し物が毎年伝統的に行われており、「オルブの大樽」と呼ばれている。内容はいわゆる我慢大会。非常に大きな樽の中に水を張り、誰が最も長く潜っていられるかを競う。

その優勝者に賦与されるのがこのロザリオ。水精のロザリオと呼ばれている。このロザリオを身につけていると、水の精霊の加護によってその一年水に助けられるという。

ルロイは現在水の精霊の巫女なので、こういったロザリオなどの装飾品に加護を与える儀式を仕事としている。


「一つはオルブの大樽用でもう一つは俺用。あともう一つは巫女の気に入った者への贈り物かぁ」


ルロイが水精のロザリオを身につけるのは巫女としてのある種の義務。巫女の気に入った者への贈り物とは、水の精霊に代弁して気に入った者へ加護を与えるという意味だ。

しかしルロイは自分が巫女を継いでから3年間、後者のロザリオを貰った者はいない。理由は簡単で、ルロイは自宅の庭にある母の墓に毎年供えているからだ。


「はぁ。今年も母さんに上げることになるのか?」


ルロイが母の墓に供える理由はもう一つある。

代々巫女達は、ロザリオを渡す者と婚約を果たしているからだ。

どの世代の巫女もそうだった。

友などには渡さず、婚約者が出来るまでは親か祖父母へ渡す。婚約後は巫女を隠居するまで婚約者に渡す。それが暗黙の掟として家の書物、巫女の教えに書かれていたのだ。

しばらくルロイはボーッとしていたが頭をブンブンと思い切り横に振り、部屋が何と無く蒸してきたと感じたので閉めていたカーテンや雨戸を全て開けることにした。

窓を開けると空はとても良く澄んで青く、雨戸を閉めていた為に余り聞こえなかった村人の喧騒が響いてきた。

ルロイにとって、いや、村人にとってもこの喧騒は懐かしいものである。

去年は余りの豪雨に作物は全てダメになり、この収穫祭自体執り行われなかった。

作物が採れなかったのは祭りだけでなく村の負担になった。食べ物が無いので、魔物がウロウロしている森へ入り木の実や果実、茸に獣を得てやっと村人全員欠ける事なく飢えを凌ぎ、生き永らえた。

今までこの村は水の精霊の加護を毎年当たり前の様に受けていたので、この様な飢餓は過去何百年と無かった。つまり、この歴史ある村始めての飢餓と言える。

だから、今年の祭りは村人にとってとても懐かしく感じられ、とても特別なものにも感じられた。

村人の顔はみんな笑っていて、ここまで頑張って来れたことの達成感と安堵感が伺える。

そんな村のみんなを見て、ルロイもまた笑顔になった。



ドタンッ!



ルロイが一階のカーテンと雨戸を開け終えたところで二階から大きな物音が聞こえた。

何と無く、予想がついた。

ルロイはそろりと二階へ上がり寝室の扉を開けた。


「〜〜〜〜〜っ……!」


案の定あの少女がベッドから落ちていた。

背中を丸めて床に蹲る姿を見て、一年近く前の自分の命を狙っていたあの姿とのギャップにルロイは安堵の息と呆れのため息を同時に吐いた。


「あー、久しぶりか?ってその前に。派手に落ちたみたいだが、大丈夫か?」

「……痛い。……お腹空いた……」


久しぶりに少女の声を聞いた。

前回は命の危険に晒されていたからか、声をしっかり聞くことは無かった。少女の声は、コロコロと可愛らしい鈴の音の様で、その中にも凛とした針がある。

美しい声だった。

しかしそんな美しい声の内容は、痛みからの唸り声と「お腹が空いた」である。この言葉を譫言のように何度も何度も繰り返す。

ルロイが初めて少女を見た何とも言い難いときめきは、一瞬のうちに消えて無くなった。


「痛みは我慢してくれ。飯は……村の広場に行けば貰えるか?うーん。取り敢えず、行ってみよう」


痛みも引いたのか、少女は起き上がってベッドに腰をかけていた。

訝しげに思いながら警戒色の眼でルロイを見ていたが、食事の話が口から出るとその色は無くなった。




ルロイの隣を少女が歩く。

少女は服を持っていないので、ルロイの母のお下がりを着ている。黒い絹製のワンピースだ。

村の広場へ続く道をワンピースがひらひらとするのが楽しいのか、クルクルと回りながら楽しそうに歩く。

ルロイは真顔をしているが、内心混乱している。

去年は刃物を突きつけられたが、今は楽しそうに自分の隣を歩いている。物語の様に、それまでの人間関係が改善されるような出来事など今まで少女は眠っていたのだからあるわけがない。にも関わらず、この少女は去年の様なルロイを敵視する様子は全く伺えない。

ただのお人好しなのか、裏があるのか。

同時に、何故巫女しか入れないはずの洞窟の奥の精霊の部屋に入れたのか、何故少女はあんなにも長い間眠っていたのか、そもそも何者なのか。そんな思考の堂々巡り。

ルロイは取り敢えず、聞いて話してくれそうな事から聞く事にした。


「なぁ」

「〜〜〜♪」

「名前、なんていうんだ?」

「〜〜〜♪……え、私?」

「他にここに誰がいるんだ」


ボケてるのか?というルロイの呟きは案の定聞き取れていない様だった。


「クレア。私の名前はクレアだよ。貴方はなんていうの?」

「そうか。俺はルロイっていう」

「よろしくねルロイ」

「早速だがクレア。お前には聞きたい事が沢山あるんだ。可能な限りでいいから答えてくれると助かるんだが、いいか?」

「うーん……。いいけど、別に変な事なんてあんまりないよ?それと、ご飯食べながらでもいい?お腹空いて話す気力が出ないよ」


そうして少し話しているうちに村の広場に着いた。

広場に入ってすぐ近くにいた宿屋の女将にパンと羊の乳を二人分味見と称して貰い、広場の端の木陰に腰を掛けてクレアから話しを聞いた。

話しを聞いてる最中、村の大人達が冷やかしたり、井戸端会議を良くしてる奥様方が黄色い声を上げたり、村の娘がハンカチを噛み千切らんとするなどしたが話しはしっかり聞けた。

まず、クレアは何らかの使命を持って世界を旅しているらしい。本人にもよく分からないらしいが、何か本能的に世界中の神話や物語の起源となった洞窟などを巡らざるをえないらしく、この衝動は赤ん坊の頃から自覚していたようだ。赤ん坊の頃からなんて俄かに信じ難いが、本人も不思議そうに語っていた。

そして何故あんなにも長い間眠っていたのかと言う問には答えられなかった。

追い剥ぎに追われて洞窟の中へ逃げ込んだら目の前が真っ暗になり、目が覚めたらルロイがいた。追い剥ぎと勘違いして命を狙ったようで、そこからまた一年記憶がないようだ。

そして、精霊の巫女以外が何故精霊の部屋まで入って来れたのか。これも本人の記憶が洞窟に入った途端にない以上謎のままだろう。

ルロイはクレアが嘘を吐いているのではとも考えたが、嘘を吐く意味も解せないため疑いようが無かった。

話の全体を大方把握したルロイはため息交じりにふと言葉を零した。


「旅、ね……」

「旅?うん、旅は楽しいよ。追い剥ぎに追われたりはやだけど、こうやってルロイ君に会えたのも私が旅をしてたからだよ」

「ああ、俺は旅どころかこの村近辺から外へ出た事が一度もないんだ。村の次期巫女として育てられたし、まず考えもしなかったな」

「じゃあさ、私が今までに旅して来たところの話をしてあげるよ!えっとね、海に浮かぶ城でしょ、空に虹色のカーテンがかかる城下町とか、雲より高い山に真っ黒な森。どんな話が聞きたい?」


旅に出た事のないルロイはクレアが話す旅の話に子供の様に聞き入っていた。綺麗な景色や美味しい料理の話、不気味な伝承や愉快な御伽噺、神々しい神殿や神話に出てきた由緒ある地、行く先々での出会いと別れ、困難の数々と乗り越えた達成感。

クレアの旅行譚を聞いていたら、気付けば陽は色味を増して山の端に揺らいで沈まんとしていた。それまでの時間は飛ぶように過ぎて行き、あれだけ明日の祭りの準備にドタバタしていた村人の喧騒は、慌てからくるものから、炎を囲み浴びる様に呑む葡萄酒からくるものに変わっていた。

前夜祭の始まりだ。


「皆の衆、これにて明日の収穫祭の準備は整った。去年は実りが無く収穫祭すら行えなかったが、今年は我が村を御守り下さる水の精霊セイン様、ひいては天に召します水の神アクオス様の言葉にする事さえ恐縮ながら我らへの心遣いなのか、これ以上にないほど豊作じゃった。なれば今宵は本祭のお膳立てに我らが歌い踊り騒いで、豊作で幸せである事をセイン様とアクオス様にお聞かせ願うのが我らの義務であり、忠であり、誉れであろう!ならば、今宵は無礼講なり!さあ、誰彼構わず形振り構わず騒ぎ倒そうぞ!」

『オオオォォォォ!!』

「では皆の衆!杯は手にあるな?音頭は村長のこのスタンが取ろう。杯を天に掲げるのだ!さあ、乾杯!」

『乾杯!』


村長スタンの音頭に皆が杯を掲げ、近くの人と打ち鳴らした。

スタンの大声を聞いて会話を切ったクレアもルロイも、炎を囲む大人たちとは違って杯の中身は飲みかけの羊の乳だが、乾杯と声を合わせて杯を打ち鳴らした。


「お祭りってね、何処の街でも村でもあるんだよ。やることとか、意味合いとかも街や村それぞれに違うけどね」

「そりゃあ、人だったらこうやって騒ぎたくなるさ。あって当然だろうな。楽しみもなく畑を耕す毎日なんて、そんなのなんの意味もない。畑耕して、麦や野菜とか葡萄を採って、牛やら羊やら山羊やらの面倒を見る。んでもって皆でそれを笑いながら食べたり呑んだり騒いだり。それがあるからまた明日も畑を耕して作物の世話して家畜の世話を出来るんだ。それはきっとどこでも変わんねぇよきっと」

「城下町とかだとまた別だけど、まあ大体皆そうだよ。楽しそうに笑いながらお酒を呑んでお肉やパンを囓るんだ」


そううっすらと微笑みながら炎へと目をやるクレアは幻想的だった。まるで絵画の一部を切り取ったような、ルロイに都会の教養があるならそう思える可憐さがある。

銀色の髪を夜風に流してキラキラ光る瞳をした横顔に、ルロイの胸はドキッと高鳴った。


「ああっ!」

「な、なんだよ急に。びっくりした……」

「宿屋取るの忘れてた……」


クレアが急に声を上げたためルロイは驚いて聞いてみたら、そんな返答が帰って来た。

クレアが膝を着いてガックリ項垂れているとルロイが声をかけた。


「家に泊まればいいじゃねえか。荷物も家だし、何よりもう一年は止まってるんだぜ?」

「そ、そうだよね……。あ、あの……、ありがとねルロイ君」


会話が終わるとクレアは大きく欠伸をした。

おそらく、ここ一年体を動かしていなかったために体が訛っているのだろう。それで今日は疲れが溜まっていて、今ピークに達したのだろう。


「よし。んじゃ帰ろう」

「うん。本当にありがとね」

「気にすんなって」


そういって二人は喧騒から外れ、村外れにある家へと足を運んで行った。



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