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『黒犬と旅する異世界』 双子と“真なる狼” 前編

 若き双子の賞金稼ぎキールとマールは、イシュアヌ国が誇る町の一つ、センティードの西にある海近くに建てられた少し大きめの小屋を、少し離れた木の陰から窺っていた。


「おい、キール。本当にあの小屋が“真なる狼”の根城なんだろうな」


「間違いないっすよヒュッサさん。十日もかけて調べたんすから」


 同じように木の陰に屈んでいる金髪の男の問いかけに、キールは自信満々に頷く。

 そう、キールたちは賞金首“真なる狼”を捕らえるためにここに来ていた。フェリシアの墓の前で“ライカ”から“真なる狼”の話を聞いたあと、王都とセンティードで目撃情報を集め、この小屋に辿り着いたのだ。

 四日前に一晩張り込みをして、小屋の中に“真なる狼”がいることは確認している。何故そのときに捕まえなかったのかといえば、相手の人数が多過ぎたため、二人では無理だと判断したからだ。双子は大急ぎで王都へと戻り、知り合いの賞金稼ぎを引き連れて戻ってきた、というわけである。

 その知り合いの賞金稼ぎというのが、ヒュッサともう二人、黒髪の大男ギャロムと赤茶色の髪の美女ターナ。三人とは過去にも組んだことがあり、大勢いる同業者の中では比較的仲が良い。腕も確かなので、もっと多くの仕事を一緒にしてもいいのだが、それが出来ない理由が彼らにはあった。ヒュッサは女癖が、ギャロムは金遣いが、ターナは酒癖が、とてつもなく悪いのだ。


「何人いるんだい?」


 弓に矢をつがえながらターナが訊いてくる。昼間だというのに、彼女の口からは酒の臭いがぷんぷん漂ってきた。


「私たちが見たのは十六人ですけど、今何人になってるかは分かんないですー」


 マールが笑顔で手をぱたぱた振って、漂ってきた酒の臭いを散らしながら答えた。


「確か“真なる狼”は全部で三十人くらいだったな。で、そのうちの十人ちょっとがマーレ=ボルジエでやられたって情報をこの前手配依頼所で聞いた。ということは、最大で二十人いるってことか」


「で、出てきた奴、ぜ、全部倒せばいい」


 大きすぎて木の陰に隠れきれていないギャロムが、どもりながら言う。緊張しているわけではなく、これが彼の普段の話し方だ。


「そうなんすよ、ギャロムさん。全員捕まえないとまずいことになるんすよ」


「ちょっと、それどういう意味だい?」


 キールの含みのある言い方に、ターナの眉がぴくりと跳ね上がる。


「あの小屋、センティードの貴族が所有してるんすよ。だから……」


「一人でも逃がして告げ口されたら、かなりまずいことになるんですー」


 双子の発言にヒュッサたち三人は眼を剥いて口をぱくぱくさせた。


「なあっ!? お、お前ら何でそれを最初に言わねえんだ!」


「ちょ、ヒュッサさん声がでかいっす!」


 取り乱して叫ぶヒュッサの口を、慌ててキールが塞ぐ。

 だが、三人が動揺するのも無理はない。イシュアヌでは貴族が絶対的な力を振るっているからだ。白いものでも貴族が黒と言えば黒になる。つまり、いくら“真なる狼”が悪でも、キールたちが貴族の所有地で暴れれば、キールたちの方が悪になってしまう可能性があるのだ。


「“真なる狼”が貴族に匿われてるって噂は本当だったんだね」


「お、俺たち、き、貴族の私兵から、ね、狙われる?」


「全員捕まえて、知られる前に依頼所に引き渡せば大丈夫ですー。貴族も賞金首を匿っていたことを公にはしたくないはずですからー」


「それにしたって危険なことには変わりねえだろうが。向こうは二十人近くいるかもしれねえのに、こっちはたった五人なんだぜ」


 キールの手をどけてヒュッサが顔を顰めながら小屋を見やる。


「なんだい、怖気づいたのかい。私はやるよ。“真なる狼”には高額の賞金が懸けられているからね。全員捕まえればしばらくの間、浴びるほど酒が飲めるよ」


 酒が命のターナは、にやりと笑って手の甲で口元を拭った。想像して涎が零れそうになったのだろう。


「お、俺もやる。しゃ、借金返す」


 ギャロムはそう言って、持っていた己の身長と同じくらいの長さの槍の柄で地面を突いた。彼が金を使うのはもっぱら賭け事なのだが、勝つことは少なく、そのせいで借金をつくることが多かった。    


「ヒュッサさんはどうしますかー?」


「そりゃ俺だってやるよ。サリサにドレス買ってやるって約束したからな」


 ヒュッサはいつも複数の女性と付き合っている。サリサというのもその一人なのだろう。彼は女性を着飾らせて高級な宿に泊まるのが趣味なのだ。キールもマールも、それの何が楽しいのかさっぱり分からないのだが、ヒュッサ曰く、宿の男性客から羨望の眼差しを向けられることが快感なのだとか。一種の変態、ということで双子の意見は一致していた。


「そうっすか。じゃあ俺が考えた、いてっ……俺とマールが考えた作戦を説明するっす」


 マールに後頭部を叩かれたキールは、目尻に涙を滲ませながら“真なる狼”捕獲作戦をヒュッサたちに説明するのだった。 

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