『緋の扉』 誰がための宴 三騒
終わらないのでサブタイトルを変えました……。
『護の宴』当日――
大広間前の大回廊には真新しい服に身を包んだ騎士たちが続々と集まっていた。
その顔は皆、期待と喜びに満ちている。年に一度の今日この日をどれだけ楽しみにしているかがよく分かる表情だ。
「なあ、お前は何て書いたんだ?」
赤い騎士服の第一騎士が隣にいた黒い騎士服の第三騎士に訊ねる。
「エル殿に触りたいって書いたけど。お前は?」
「それって宴と関係なくないか? まあ、気持ちは分からないでもないけどな。俺は最上級酒のソルド花酒が飲みたいって書いたぜ」
「酒か……それは考えつかなかったな」
第三騎士は感心したといった感じで頷いた。
「結局、あの訓練は何だったろうな。なあ、お前のところは何か説明があった?」
別のところでは、第一騎士が青い騎士服の第二騎士に声をかけていた。
「……え!? ああ、いや、うん、何も聞いてないよ」
第二騎士は上ずった声で答えると、そそくさと第一騎士から離れていってしまった。
「…………何だ、あいつ」
不自然な行動に首を傾げる第一騎士。
しかし、不自然なのは彼だけではなかった。回廊にいる半数ほどの第二騎士がそわそわと落ち着きがない。他の騎士団の人間に話しかけられても心ここにあらずといった感じなのだ。
なのに、第二騎士同士では小声で何かを話している。
そんな第二騎士の行動を不思議に思わないはずもなく、第一、第三の騎士の間で、一体第二は何をやらかしたんだ? と囁き合うようになった。
からーん、からーん、からーん。
大広間の扉の前に立っていた侍女が軽やかな鐘の音を回廊に響かせる。
『護の宴』の始まりを告げる音だった。
騎士たちは一斉に口を閉ざし、扉に注目する。
天井まである大扉が内側から開けられると、彼らは思い思いの表情で大広間へと足を踏み入れた。
真っ白な布が敷かれた長い机の上には所狭しと料理が並び、出来立てである証拠に湯気が立ち上っている。鼻腔をくすぐる香ばしい匂いにそそられたのか、あちらこちらで涎をすする音がした。
「どうぞ順番にお座りくださいませ。副団長様がお選びになられた十五名の方は、後方中央のお席へお願い致します。赤色の花が目印でございます」
案内役の女性があちこちで同じ台詞を繰り返している。該当する十五人の騎士は、他の騎士の視線をいやというほど浴びながら席に着いていた。
総勢五百を超える騎士全員が着席すると、給仕係が卓上のグラスに酒を注ぎ出す。とろりとした蜂蜜色のその液体は、ソルド花酒ではなかったが一級品には違いなく、酒に詳しい騎士の間からは、ほぅ、と溜息が零れた。
からーん、からーん。
扉から大広間の奥、王族の席がある壇上近くへと移動した侍女が再び鐘を鳴らすと、騎士たちが一斉に立ち上がり胸に拳を押し当てる。
フェリシアが入室する合図だった。
壇上の端にある扉が開かれ、蒼色のドレスに身を包んだフェリシアが大広間へ優雅な足取りで入ってくる。彼女は壇の中央に立ち、自分に敬礼をする騎士たちを見渡すと静かに口を開いた。
「『護の宴』へようこそ、私の大切な騎士の方々。今年も滞りなく宴を開くことができ、大変うれしく思います。これも日々、貴方がたがこの国の平和のために尽力してくれているからでしょう」
フェリシアはふわりと微笑む。
「今年の宴はこれまでとは少し異なった趣向を凝らしました。どうぞ、楽しんでください。――ライカ、マール」
フェリシアが名を呼ぶと、彼女が入ってきたのと同じ扉からライカとマールが姿を現した。
ざわざわざわざわ。
敬礼中であるにも拘わらず騎士がざわめく。
だが、それも仕方のないことだった。
何故なら、フェリシアの侍女である二人が、侍女の姿をしていなかったからだ。
銀色の髪を濃い紫色の紐でゆるく纏めたライカは深い藍色のドレスを、茶色の髪に黄色の蝶の形をした髪留めをつけたマールは橙色のドレスを、それぞれ着ていた。
「席へ」
「はい」
「はいですー」
頷いたライカとマールは、騎士たちの間を通り大扉のある方へ歩いていく。辿り着いた先は、花瓶に赤い花が活けられた机だった。
「ではグラスを」
驚きを隠せないでいる騎士たちをよそに、フェリシアはグラスを手に持ち、全員が持ったのを見計らうと、「騎士に祝福があらんことを」と言って宴を始めてしまった。
戸惑いながらもグラスに口を付け、席に座る騎士たち。と、そこでフェリシアが、あたかも言い忘れたと言った感じでもう一度口を開いた。
「そうでした。副団長と団長はいま準備中ですので、もう少しお待ちください」
具体的なことな何も言わないまま、フェリシアは椅子に座るためにくるりと背を向ける。
怪訝な顔になる騎士たち。
彼らは知らなかった。
後ろを向いたフェリシアが、必死で笑いを堪えていたことに。




