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『黒犬と旅する異世界』 IFストーリー ルークの場合

*このIFストーリーは、雷華たちがクアラリエスと戦う道を選び、彼に勝利したのちの話です。

*本編とは異なり、雷華がルークたちの世界クアラリエスに残っても死なない設定になっています。

*本編とは全く異なり、雷華が誰かと相思相愛になっています。


以上の点を踏まえたうえでお読みください。


 何の因果か運命か、世界の行く末を選ぶこととなった九人は、世界の名を冠する存在に一斉に武器を振り上げた。 

 世界は強く、皆が限界に達していた。それでも誰一人として動きを止める者はいなかった。全員が必ず成し遂げられると信じていた。


「絶対に諦めない!」


「お前を倒して新しい未来を切り開く!」


「自分たちの道は自分たちで決める!」


「これが俺たちの」


「私たちの」


「答えだあぁぁぁっ!」


 全身全霊の力で武器を振り下ろす。これが最後だと願いを篭めて。

 世界が眩い光に包まれた。


「…………我の世界の人の子よ。汝らの思うままに……」



「終わった、のか」


 無数の小さな光の粒と姿を変えたクアラリエス。その最後の一粒が消えるのを見て、ルークは構えていた剣をゆっくりと下ろした。


「これからこの世界はどうなるのでしょうか」


 剣を鞘に収めながら不安そうな表情をするエル。


「さあねえ。まあ、なるようになるんじゃない?」


 対照的にディーの顔は明るかった。


「私たちはこの世界を管理していた存在を倒してしまいました。その責任は取らなくてはならないでしょうね」


「責任ってなんだよ」


 汗と血と土にまみれた顔を拭うリオンに、ぐったりと地面にへたり込んだクレイが訊ねる。


「平和であるように、戦が起きないように、世界を見守り世界に働きかける。そういうことですよね、リオンさん」


「その通りです」


 雷華の言葉に聖師は満面の笑みを浮かべて頷く。


「責任重大っすね」


「頑張りますー」


「疲れた。帰る」


 使命感に燃える双子を尻目に、ロウジュは洞窟の外に向かって歩いていく。


「そうね、帰りましょう」


 クアラリエスが消えてしまっても、彼と同じ名の世界はこれからも続いていく。希望に満ちているのか、絶望に閉ざされてしまうのか。どんな未来が待ち受けているのかは誰にも分からない。

 だが――


「太陽が、昇る」


 世界は輝ける朝の陽光に包まれようとしていた。


 それから三十日後。

 雷華はエルの実家、ディナム侯爵家の養子となり、ルークと正式に婚約した。マーレ=ボルジエ国内はもとより国外にも広く知らせたため、すぐに国内外から祝言の書簡や贈り物が山のように届いたが、ルークを良く知る人物からの書簡には、「まさか」や「あの」といった言葉が多く見受けられた。


「……よほど意外に思われてみるみたいね。一体今までどんな生活を送ってきたの?」


 王城の一室で祝言の書簡に眼を通した雷華は、笑いを噛み殺しながら渋面の中の渋面になっている生涯の伴侶となる男に訊いた。


「別におかしなことはしていない。必要以上に着飾って始終他人の噂話ばかりしている奴が嫌いだっただけだ」


「ふうん。あ、これ特務騎士の方からだわ。名前は……ダジュニ・ザハーノ。確か一番年配の方だったわね」


 特務騎士だけが使う紋章の蜜蝋で封印された書簡を手に取り封を切る。

 ルークの同僚とはすでに面識があった。王城に戻り、国王、王妃、兄殿下に会ったすぐ後に紹介してもらっていた。三人とも何かしらの特徴がある人たちだったが、皆雷華のことを好意的に受け入れてくれた。この手紙の送り主であるダジュニには頭を撫でられた記憶がある。親子ほども歳が離れているので子供のように扱われたのかもしれないが、彼の手は温かく優しさに満ちており全く不快には思わなかった。


「ザハーノからだと? 彼からはすでに祝いの言葉は貰っているぞ」


「ええっと……これはルーク宛というより私宛みたいだわ。ルークウェル殿下について何か困ったことがあればいつでも相談にのりたく存じます、だって」


「ふん、余計なことを」


「追伸、今まで殿下には犬の毛ほども女性の気配を感じず、私たち特務騎士の間では、殿下はもしや不能(・・)なのか、それとも男性に興味があるのかと、度々話題になっておりましたが、そうではなかったと知り安心致し――あ、ちょっとルーク。まだ最後まで読んでないのに」


 ルークは雷華の手からダジュニの悪戯心満載の書簡をひったくり、びりびりに破いた。


「祝言の書簡に何を書いているのだあいつは!」


「まあまあ、いいじゃないの。ルークが慕われている証拠じゃない。怒らない怒らない」


 雷華は長椅子から立ち上がって、顔を上気させて怒っているルークの頬に触れる。


「全部嘘だからな」


「分かってるわよ。だから落ち着いて」


 読まなければならない書簡はまだまだ残っている。それに半刻後からは、王族の伴侶として相応しい振舞いを身に付けるための講義が控えている。婚礼の儀まで毎日みっちり叩き込まれるのだ。世界を旅していたときの方がよほど楽だったと思わなくもないが、仕方ない。ルークに恥をかかせるわけにはいかない。


「ライカ、一日でも早く子を成すぞ」


「だから分かったから、って、え? 今なんて――わわっ、ルーク!?」


 今日も講師の公爵夫人から怒涛のダメ出しをされるのを想像して気分を暗くしていると、突然視界が反転した。ぼふっ、と背中から長椅子に倒れこむ。 


「愛してる、ライカ」


「わ、私も愛してる、けど、ちょっと待ってもらっていいかな?」


 覆いかぶさってくるルークを押し退けようとするものの、彼は本気のようでびくとも動かない。それどころか、頬に、首筋に、唇を落としてくる。


「無理だ」


「なんでぇっ!?」 


 どうしてこんな展開になったのか。全く理解できないまま、雷華はルークの行為を受け入れることとなった。

 そしてふらつく身体で公爵夫人の講義を受けに行き、まったくなっていないとみっちり叱られたのであった。

 

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