四枚目 代行様、しっかりしてください
結局、豚頭の貴婦人ことマダム・アベリアの話しを全て聞き終えるのに三十分程掛かった。
たびたび脱線する話しの流れをやんわり起動修正せねば成らず、中々話しが終わらなかったからだ。
「――と、言う訳ですの」
うん、わからん。
何がアタクシのパメラちゃんの元気が無いだ。
医者に見せても病気じゃないとしか判らないだ。
ペット相談所じゃねェんだよぉぉお!
なァにがパメラちゃんじゃあああ!
ココ、城ぉ!
あー、ぶちまけたい。
ぶちまけてスッキリしたい。
このままじゃ耐え切れず全力であの豚頭を殴り飛ばしかねないのでトイレの個室に移動する。
トイレットペーパーを一ロール拝借。
もう、いいよな?
「■■■■■■!!!」
もう喉が使えなくなってもいいという程の覚悟で放たれる、文字にしてはいけない類いの暴言。
同時にオモイッキリ強化した握力と腕力でトイレットペーパーを憎きあの■■■■に見立て、芯ごと縦にひきちぎるぅ!
モ゛ギィ
「ズェア゛ァ゛ア゛ア゛!」
「何事ですかっ! 代行様!」
バチーンバチーン。
――― しばらくお待ち下さい ―――
「冥土長ここは男子トイレだぞ」
「あれだけデカイ声がしたら、異常を確認しない訳にはいきません」
ハリセンのツッコミで俺は完全に正気に戻った。
ただし、豚頭が視界に入ったら、あいつの五体をひきちぎるだろうが。
「正気に戻ってませんよ」
貴様には解るまい、安らぎの一時を邪魔された俺の怒りが。
「くそっ、ハゲを気絶させるんじゃ無かった! 頭皮を死滅させる以外に取り柄の無い奴め!」
「主に頭皮を死滅させているのは代行様ですが」
そんなことはどうでもいい。
問題は俺の睡眠時間だ。
不憫な…と、小さく呟く冥土長。
「こっちは早く寝たいんだよぉ。マジ勘弁してくれませんかね」
だいたい何だよパメラちゃんてよ、豚頭がどんな生物を飼うんだよ。
怒りのボルテージが下がると共に、次第に冷静を通り越し陰欝になっていく。
「躁鬱が激しくなって来ておられますね、本当に限界が近いようで」
致し方ありません、と冥土長。
テメェなんでそんなに上から目線な訳?
「簡単にマダムの事情を説明致しましょう」
「知ってたなら俺が話しを聞く理由無いよね!?」
時間を無駄にしたじゃないかと睨むが、冥土長の『何か文句がお有りですか?』という表情が怖いので顔を背ける。
腹の虫が収まらないので大理石の床上に落ちた変わり果てたトイレットペーパーを踏みにじり、八つ当たり。
スパーン。
「ゴミを散らかさないで下さいませ」
はい、すみませんね!
マダムについて、冥土長が解りやすく説明してくれた。
それは、このようなモノである。
? マダム・アベリアは二頭のパーンドレイクを飼育していて、それぞれ『パメラ』と『ポメラ』と名付けているそうな。
? 二頭は主に出荷物を空輸したり、領地の巡回をする際、その能力を発揮していた。
? 特に気に入っている『パメラ』の方はマダムの私用にも……
「はいっ! 三番! これが原因んん!」
「何故………でしょうか?」
「冥土長! 本気で言ってるのか?」
あの豚頭が『可愛がって』いるんだぞ?
絶対ストレス溜まってるに決まってるだろ。
構い過ぎた猫みたいにぐったりしてそうだ。
スマンなまだ見ぬパメラ、お前も苦労してたんだな。
「成る程、構いすぎでしたか。それでは私がそう伝えて参りましょう」
「ああ、頼む」
怒りが治まったとは言え、まだ不安定だからな。
しかし、これでやっと寝る事が出来そうだ。
後日判明したが、医者も面と向かって伝えるのは勇気が足りなかったらしく。城の『生活相談所』の方に来ていたらしい。
そこから冥土長に今回の情報が齎され、問題解決の流れだ。
え? それじゃあなにか?
冥土長は全部理解した上でわざわざ俺にまで回して、無駄に睡眠時間削られるわ、聞きたくもない無駄話聞かされたのか?
ふざけんなよぉ………