二枚目 却下です、代行様
今日も今日とて書類仕事。
徹夜も5日目に突入すれば、デスクワークどころか死苦仕事である。
問題は無い、15日間迄は!
と今は無き先代は言ってたが。それは通常業務の時である。
指揮系統一部混乱の上、業務停滞の影響で仕事量が倍率ドーン!
更に白豚クン達の仕業で倍! 倍! 倍!
何で俺がこんな苦労しょい込まなきゃいけないんだよ………
「そうだ……… 人界が滅べば良いんだ」
何故こんな簡単な事に気付かなかったんだろう。
そう、そうだよ。
誰もが胸に秘めた、心に潜む悪魔が確かに囁いていた。
『殺ッテシマエ! 殺ッテシマエェェ!』と。
そうと決めた。今、決めた!
ならば! 後は動くまでだ!
「却下です」
ズパーン!
『グワァァア!』
「あぁっ! 何て事をするんだ冥土長、折角の救世主が!」
「代行様、目を覚まして下さい。それは断じて救世主ではありません」
「黙れ小娘! お前に私の安眠が護れるのか!」
「今日は一段と振り切れてますね」
仕方が無かろう、報告では田舎勇者が死んだ事にされ、白豚クン達が戦力を整えていると来た。
あんな最低辺の装備で送り出したのは『勇者なら大丈夫』と言う根拠の無い自信からだとか。
「白豚クン達だけでも屠殺したいんだけどナァ………」
「完全に家畜扱いですね」
難点は精肉しても魔獣すら喰わないことかな。
生きてても死んでも邪魔とは驚きだぜ。
「ところで冥土長は何故ここにいるんだい? 勇者(笑)エイジス君の教育をしてた筈だけど」
人選からしてハードモード学習になるが、他のクソバカメイド共に任せたら十中八九は面白がって間違った知識(恥識?)を植え付けるだろう。
そこで白羽の矢が立ったのが冥土長だけと言うのが、実に恐ろしい。
具体的には城内の阿保の人数が。
「ええ……… 田舎者の教育をしていたのですが、こちらをチラチラうかがって来るのが欝陶しくて」
お前さんが恐いんじゃねーの?
「その事を指摘したら顔を朱くして口ごもる始末」
………っえ?
「まったく、気持ち悪いこの上無い。その為、ストレス発散をと思い」
「俺に八つ当たりすんなや! これでも魔界の最高権力者なんだぞ!」
「威厳が無いので」
遂に冥土長にも春が来るのかと思ったら、トンデモネェぜこのアマ。
口にしたら殴られるから言わないけど。
「せめてもう少し身長が欲しいですね。大体三十センチ位でしょうか?」
「それもう少しじゃねぇよ! ちっとも少しじゃねぇ!」
魔族が全体的に大柄っていうか大型なだけだ。
「実際兵士達の中では『ちんまいから踏み潰してしまいそうで怖いんジャア』と言う声も」
「よーし、そいつの名前教えろ。足を切り詰めてやるぅ」 机の下から最近の激務の所為で薄く埃を被り出した剣を引っ張り出す。
これが終ったら手入れしてやるからな、今日は久しぶりに血を吸わせてやるからな。
「却下します。それと、まだそんな魔剣持ってたんですか? 没収です」
瞬時に取り上げられた。
「ギャー! 俺の個人的なコレクションNo.8『ドレットノート(恐イモノ無シ)』がぁぁぁあ!
やめてやめて、ちょっと気味悪いけどそこが魅力でしかも使用者に恐怖を捨てさせ、ッアアァァァ!」
シュポーンと窓の外へと投げ捨てられる魔剣は、狙ったかのようにパーンドレイクの顔面にぶち当たった。
また放し飼いにされてんのかテメェ!
ッツ。おい! 待て!
何処に行こうとゆうのだ!
ヤメロオォォォ!
悲痛な叫び声が城内にこだまする。
この日、自分の大事なコレクションNo.8を失った代行は怒りに顔を歪め。
後日、兵士全体に対し合同訓練『ウホッ 男だらけの灼熱砂漠徒歩遠征編 〜 この砂漠を見てくれ。これをどう思う とても広大です 〜』の計画をひそかに進めるが、自分で仕事を増やした事に気付くと憂鬱になった。
「私怨が混じり過ぎです、代行様」
「何を言ってるんだ? 冥土長。これが私のフルパワー、混じりっけ無い私怨百%中の百%じゃないか」
「代行様、疲れていのですよ」
そう思うなら休みをくれ。