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3月11日:Another Side

昨日、たった一言のLINEを送った。


言えなかったことが胸に残ったまま、

「今日の夜に電話しよう」と決めていた。


しかし、その日、世界は突然かたちを変えた。


これは、もう一つの3月11日の話。

※この作品は震災や災害の描写を含み、感情的に強い影響を与える可能性があります


3月11日:Another Side


昨日送ったLINE

「忙しい」


必死だった

余裕が無かった

強がっていたかった


次こそは

合格しなきゃ


後が無い


他の人とゲームをしていても

ただの気晴らしだ


別に毎回返信なんて

必要ない


それでも

君の半分諦めたような声が

小さいトゲとなって痛みが染み出す


スマホの画面には

未読のままのLINE通知


本当は


謝らなきゃいけないのは

俺の方なのに


─今日の夜に電話しよう


思えばこっちからかけたことは

無かった気がする


笑って

「しょうがないな」

って許してくれる顔が見たかった


その時だった


地面から空へ

衝撃が突き抜けた


立つことさえ

拒絶され

その場に倒れ込む


大きな窓は割れ

叫声が空虚に響く


窓の外は

見たこともない砂埃


黄土色の霧で

数メートル先さえ

見えなかった


商品棚の物が散乱していた


それでも地面は

不定期な脈を打ち

歩くことも難しい


すぐに我に返り

祈るようにスマホを握りしめた


頭の中にあったのは

自分のことよりも

君のこと


スマホでメッセージを送る

─はずだった


画面は虚しく

「圏外」


このままだと

何もできない


仕方なく

店長と共に

後片付けを行う


幸いにも

2人とも怪我は無かった


割れたガラスを拾い集め

床に落ちた商品を戻していく


そんな中でも

当たり前のように

お客さんは来る


水とパンを抱えて

むしろ

いつも以上に

来ていた


飲み物や食べ物は

すぐに

売り切れた

傷薬や包帯も


すぐ側で

サイレンが鳴り

津波の警戒と避難を呼びかけている


避難場所の高台までは

徒歩5分


いつでも

すぐに

避難できる


そう思っていた

─思い込んでいた


すぐ近くから

不気味な音が響く

地面が

空が

すべてが咆哮する


足元に

どす黒い水が溢れ出し

一瞬で膝まで水位があがる


濁流に飲まれながら

必死に

空を見上げた


そこには

オフィスより高い

真っ黒な巨大な壁


目の前の景色が

一瞬で黒く塗りつぶされていく

冷たい水の壁が

すべてをなぎ倒して迫ってくる


逃げなきゃいけない

でも

心は君の家の方を向いたまま


最期に思い浮かべたのは

怒った顔でも

泣いている顔でもない


ただ穏やかに笑って

隣にいる君の姿


「ごめん」


その言葉は

誰にも届かない


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