3月11日
昨日、ささいなことでケンカした。
「明日謝ればいい」──そう思っていたのに、
その“明日”は突然、奪われた。
連絡の途絶えた「あいつ」を探しながら、
私はあの日から動けずにいる。
※この作品は震災や災害の描写を含み、感情的に強い影響を与える可能性があります
3月11日
昨日
つまらないことで
ケンカした
きっかけは
些細なことだった
もっと
私を見てほしい
未読無視されると悲しい
LINEも素っ気ない
疑っているわけじゃない
ただ
もっと大事にしてほしい
多分それくらいだった
「忙しい」
そんな言い訳は意味がなかった
明日謝ればいい
ちょっとケーキでも買って
顔を見せればいいかな
そう思っていた
それなのに
昼過ぎのまどろみの中
足元から巨大な"なにか"が叫び
大地は揺れ
ひび割れて砕けた
近くで大きな音がして
建物が崩れ
悲鳴が上がる
何が起きたのか分からない
立てない
その場にへたり込み
頭の中が真っ白になる
家族は
あいつは
連絡を取ろうとしても
スマホは圏外
ニュースすら開けない
停電し
テレビもつかなかった
目の前の世界がぐちゃぐちゃに揺れ
記憶は土煙の中に溶けた
何が起きたのか
今でも思い出せない
ただ
自宅にいて
何かが壊れる音がした瞬間
大きな黒い水が押し寄せたことだけが
欠片のように残ってる
それはまるで
意思を持った黒い大蛇のように
うねり
唸り
静かに
全てを喰らい尽くす
そして
私も飲み込まれた
漂流物に身体をぶつけられ
傷だらけになり
波に巻かれる
息ができず視界が揺れ
やがて意識を失った
なぜ助かったのか
それすら分からない
いつの間にか
横に寝かされていた
スマホは壊れ
連絡手段は絶たれた
呆然としたまま数日が過ぎた
鳴らない電話を抱きしめる手は震えたまま
原型さえなくした
あいつが見つかるまで──
漂った海の匂いと
破れた布切れだけが
静かに
しかし
確かに
私の周りに残っている
波のうねりが
胸の奥で今も微かに唸る
あいつはまだ──
そして私は
ただここにいる
次話(完結編):Another Side
2026/03/08 20:00に更新します




