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舌を噛む  作者: ぴあす


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2/2

お名前教えて?

 冷や汗が頬を滑る。ドアの開く音がした、間違いなく。私は鍵を締めていたはず。

 破裂しそうなほどに鼓動する心臓を抑え、息を殺して洗面所から顔を覗かせる。


「みぃつけた」


 洗面所から顔を出すとそこにあったのはさっきの真っ白な手だった。

 女は私の首を掴み床に押し付ける。


「うわ、細いね。力入れたら折れちゃいそ」


「離せよ!クッソ!離、して‥‥!い、痛い‥‥」


 私の息が浅くなる。女の息は荒い。

 私は足をジタバタさせて女から逃れようとした。馬乗りの状態で暴れても何も変わらなかった。掴まれている右手がミシミシと音を立てた。女は私の目を挑発的に見つめる。

 そしてまた襲い来る体の火照り。


「何‥‥何がしたいの‥‥?」


 私は顔を左手で覆い女に聞く。火照りはじわじわと全身に広がる。そして私の力を抜いていく。


「おねーさん、よく効くね。あたしの目的は今から見せるからね」


 女の吐息が私の首筋に当たる。私の目は潤んで熱い。外に聞こえるほどに心臓跳ねる。


「あたしの名前、千佳っていうんだ。これからよろしくねぇ‥」


 首筋に刺すような痛みが走る。熱を持った液体が私から奪われていった。その感覚は知らない何か、快楽のような歪なものだ。


 数秒の時が過ぎ千佳の口が私から離れる。

 息を荒げていた千佳はすっかり落ち着いていた。私とは真逆だった。視界が揺らめく。千佳の手が離れ私の体に自由が戻った。しかし私は動けなかった。

 燃えるように熱い少しでも冷まそうと窓に向かって這う。


「苦しいでしょぉ?それ、ある条件を満たさないと一生治らないんだ。治したい?」


 這いずる私の前に屈んで千佳は私を見下す。

 首を縦に振る私に千佳は鋭い歯を見せて笑った。


「お名前、おしえて?」


「な、前‥‥?私は紗夜‥‥です」


 私の名前を聞く千佳は私の顔を掴み上げた。恐怖と体の異常で涙目になっている私の口に千佳は口づけをした。

 千佳は暴れる私を抑えるように両手で私の顔をガッチリと掴んだ。つぐんでいた口を舌で無理やりこじ開けられた。

 目がチカチカする。口内でくねる舌が脳をえぐるように感じた。舌を乱暴にかき回した後私の舌が千佳に奪われた。

 そして激痛が走る。


「ん”ん”ん”ぅ!」


激痛で叫ぼうにも千佳は私を離さない。

私が気を失いかけた頃、長い口づけが終わる。


「美味しかったぁ!紗夜ちゃんだっけぇ?よろしくね、これから」


血まみれの口を拭いながら、千佳は言った。痛みと困惑で固まっている私を置いて千佳は玄関に向かう。


「また明日ぁ」


後ろでドアの閉まる音がした。私は千佳が帰ったあともダラダラと口から血を流しながら呆然としていた。

数秒間フリーズした後に我に返り、洗面台に直行した。鏡の中には胸を真っ赤に染めて虚ろな目をした女がいた。

乱れた息を整え大きな深呼吸をする。血で少しむせたがようやく落ち着きを取り戻すことができた。


「なんなのあいつ‥‥いったぁ‥‥千切れてないよね?」


私は舌を出して鏡で確認する。その様子を見て私は腰を抜かす。

舌には歯型や傷跡ではなく、見たことのない文様が刻まれていた。


「何‥‥これ‥‥」


痛みも忘れて私は舌を擦った。しかしそれは消えない。


「なんで、なんでよ‥‥私なんかした?タバコ吸いたかっただけじゃん‥‥」


ボロボロ涙を流して洗面台に泣き崩れた。しばらくすすり泣いたあと。

私はあることに気づいた。

体の火照りがもうない。そして、どうしようもなく眠い。


「何、これ‥‥」


私はそのまま倒れて眠った。

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