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09

ラヴィラントの王宮は、建築学的な傲慢さが形をなしたような驚異の建造物であった。天を突く尖塔は、五百年もの間立ち続けてきた幾重もの古代防護結界によって守られている。  その心臓部には「イージスの門」が鎮座していた。ミスリルを練り込んだ鉄の巨塊であり、開門には二十人の屈強な男、あるいは極めて高価な魔力結晶を必要とする。


「到着いたしました、サトゥリ様」  セラフィナが、王女としての気品をいくらか取り戻した声で言った。「この門の先が玉座の間です。……いいですか、父は国王なのです。くれぐれも、その……カモシカか何かのように扱うのはおやめくださいね」


 サトゥリは門を見上げた。感銘を受けた様子はなく、むしろ不機嫌そうだった。 (なぜここの連中は、こんな重い岩の裏に住みたがるんだ。土砂崩れでも起きたら、自分から棺桶に入っているようなものだろうに)


 ライナーが衛兵に合図を送ろうと前に出たが、サトゥリはすでに動き出していた。 「お待ちください、サトゥリ様! その門は封印されて――」


 サトゥリは衛兵を待たなかった。身分照合の魔法陣が起動するのも待たなかった。彼はただ手を伸ばし、ミスリル門の合わせ目にそっと掌を置いた。


「建付けが悪いな」サトゥリが観察するように言った。「蝶番が泣いているぞ。ここを管理している奴は、構造物の『和』というものを分かっていない」 「建付けの問題ではありません! それは聖騎士級の封印でロックされているんです!」ライナーが叫んだ。


 サトゥリは無視した。彼は重心を移動させた。魔力を使ったのではない。ただ構造の「急所」を見極めたのだ――王宮全体の重力負荷が、床の抵抗と衝突するその一点を。


 ――ヴォォン。  サトゥリの足元の空気が、ただ震えるだけでなく、平伏するように押し潰された。急激かつ暴力的な気圧の上昇により、地面の埃が完璧な円を描いて弾け飛ぶ。 (少しテコの原理を働かせるだけだ。倒れた杉の木をどかすのと同じことだ)


 サトゥリが短く、鋭く押し込んだ。


 ――ギィ、ガァアアアン! 「イージスの門」は開いたのではない。物理的に「排除」されたのだ。竜の吐息にも耐えるはずのミスリルの蝶番が、脆いガラスのように弾け飛んだ。巨大な扉は内側へと吹き飛び、磨き上げられた大理石の床を、世界を真っ二つに裂くような轟音を立てて滑っていった。


 サトゥリは掌を払いながら、広間へと足を踏み入れた。 「ほら見ろ。油を差した方がいい。ついでに枠の木材ももっとマシなものに変えるんだな」  彼は愕然と立ち尽くす近衛兵たちを一瞥して言った。


 セラフィナは門があったはずの空間を凝視した。広間の突き当たりには、玉座に座る国王の姿が見える。王の手にあるワイングラスは、開いた口へと運ばれる途中で静止していた。 「ライナー……」セラフィナがささやいた。「今、あの人……ただ『押した』だけ?」 「魔法じゃありませんよ、姫様」ライナーが震える声で返した。「魔力の火花一つ感知できなかった。彼はただ……国家防衛システムに『山の物理学』を適用したんです」


 サトゥリは玉座へと歩き始めた。大理石の上に下駄の音がカラン、コロンと響く。彼にとって、道は開かれたのだ。  だが突然、彼は足を止めた。  王へと続く複雑な紋様の絨毯を見つめ、目を細める。他の者には歴史を物語る美しいタペストリーに見えるだろうが、サトゥリにとって、この部屋の「振動」は狂っていた。


「王女」サトゥリは振り返らずに言った。「椅子に座っている男に、どくように言え」 「えっ、ええっ!? なぜです?」 「椅子の下の床のバランスが悪い。下に空洞があるな」  サトゥリの手が、刀の柄へと伸びる。 「そして、その穴の中にいる何かが……呼吸をしている」


 虚無から見守る「影の観測者」が身を乗り出し、その笑みを深めた。 「敏感なことだ」観測者はくっくっと笑った。「王は秘密の玉座に座っているというのに、貴様にはそれが単なる『構造上の欠陥』に見えるか。これは傑作だ」


 玉座の間では、国王がようやく声を取り戻していた。 「何奴だ……誰が余の門を壊したというのだ!?」


 サトゥリは答えなかった。彼は近くの柱に止まった一匹のハエを凝視するのに忙しかった。彼にはハエの羽ばたきがスローモーションに見え、空中に「摩擦の線」を描き出しているのが分かった。


(ハエが王の方へ流れている。穴から漏れる空気は冷たい。隙間風か。……古の怨念の風? いや、ただ地下室の断熱が悪いだけだろうな)


 彼が一歩前へ踏み出すと、玉座の間の床が重く呻いた。 「どけ」  サトゥリが繰り返した。その声の響きは、ステンドグラスをガタガタと震わせるほどの重圧を孕んでいた。 「さもなくば、俺がこの床を直すことになる。俺の工賃は安くないぞ」

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