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最近になって国境の砦をいくつも壊滅させたSランクの災厄、三つ首のキメラ。それは、つぎはぎの四肢と毒の息で構成された悪夢のように、小さな小屋の背後にそびえ立っていた。しかし、魔導師サトリにとって、それは単に北斜面からやってくる「大きなアライグマ」に過ぎず、洗濯物に巣を作ろうとするしつこく迷惑な癖を持つ生き物だった。
「下がっていろ」 サトリは王女と震える衛兵たちに告げ、刀の柄に無造作に手を置いた。彼は凍てつく山の空気の中へと足を踏み出す。彼の羽織に描かれた、穏やかな海と静かな強さを象徴する「青海波」の模様が、常人なら窒息するほど薄い風にたなびいた。
キメラが飛びかかり、三つの頭が同時に牙を剥く。サトリは避けなかった。ただ、構えを微調整しただけだ。 「前回も言ったはずだ」 彼の低いバリトンボイスが、怪物の咆哮を切り裂いて響く。「摩擦こそが、一部の者が物事を学ぶ唯一の方法なのだと」
技:カグツチの一閃
魔法陣も、複雑な詠唱も、魔力を溜めるフェーズも存在しなかった。サトリが放った抜刀はあまりに精密かつ迅速で、刃の速度(v)は音速(v ≒ 343 m/s)を超え、仕事とエネルギーの原理に基づき、運動エネルギーが局所的な熱エネルギー(Q)へと変換された。
鞘から噴出したのは、日本の火の神「カグツチ」の名を冠した、白熱する浄化の炎の三日月。その一撃は怪物を斬り裂くだけにとどまらず、その存在という概念そのものを蒸発させ、後にはオゾンのかすかな匂いと焦げた高山植物の香りだけが残った。サトリはカチリと音を立てて刀を納め、少し不満げな表情を浮かべた。 「たかがアライグマ一匹でこれほど煙が出るとは、もっと質のいい炭を探さねばならんな」 彼は、自分が今「第十位階」の武芸魔法に匹敵する業を成し遂げたことに、全く気づいていなかった。
「い、行かなければ……」 ライナー隊長は、数秒前までSランクの脅威が存在していた焦土を見つめ、震える声で言った。「あれがあなたにとって単なる『害獣』だったとしても、その血の匂いを嗅ぎつけた魔物たちがすぐに集まってくるはずだ」
サトリは溜息をつき、王女を見た。彼女が持つ「工字繋ぎ」のペンダント——「物事の連続性」と王族の地位を象徴する文様——は、十年前、自分を救ってくれた「ガキ」への恩義を彼に思い出させた。 「いいだろう。帰らずの森を突っ切るショートカットで行く」
衛兵たちの顔から血の気が引いた。帰らずの森は伝説的な死の罠であり、木々そのものが侵入者の魂を喰らうと言われている場所だ。 「サトリ様、あの森は……『広域終焉地帯』です」 セラフィナ王女が震える声で囁いた。
「散歩にはいい場所だ」 サトリはそう言い返し、体重を全く感じさせない軽い足取りで、すでに下山を始めていた。
一行が森の暗い天蓋に足を踏み入れると、空気は重苦しくなった。衛兵たちにとって、あらゆる影がAランクの「シャドウ・ドレッド」や「ヴォイド・ストーカー」に見えた。しかし、彼らが困惑したことに、森は不気味なほど静まり返っていた。普段は音もなく獲物を狩るはずの巨大な捕食者たちが、本能的な、超自然的な恐怖に目を見開き、茂みの奥へと逃げ去っていくのが見えた。
サトリは、Sランクの魔物たちが命からがら逃げ出していることに気づかなかった。彼はただ、体を冷やさないために「早歩き」をしているだけだと思っていた。実際には、彼の「剣気」が物理的な圧力となって周囲に放射されており、森のあらゆる生命体に対して「世界の終わりをもたらす者」が通り過ぎるという、目に見えない死のオーラを放っていたのだ。
「ほら見ろ」 サトリは、ねじ曲がった根の間を通る開けた道を指した。「今日は少し鳥が静かだが、全体的に見れば実に穏やかな道中だ。麓の人間がなぜあんなにいつもピリピリしているのか、私には理解できんよ」
セラフィナは彼の背中を見つめた。彼女の鼓動が速いのは、恐怖からではなかった。自分たちを導いているこの男が、世界で最も伝説的な怪物たちですら「幽霊」と見なすほどの、絶対的な「正体不明の存在」であることに気づいたからだ。
森の出口に差し掛かった時、サトリは足を止め、道端の小さな雑草を摘んだ。 「ああ、ようやく見つけた。野良の山椒だ。これなら塩によく合う」




