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20.5 - ボーナスエピソード

黒蔦の館に、午後の陽光が重く降り注いでいた。マギルス・サトゥリは縁側に胡坐あぐらをかき、深い失望の色を浮かべて一本の金属片を見つめていた。


それは一時間前、震える王宮の使者によって恭しく届けられた「ヴァレリウスの聖剣」——伝説のアーティファクトだった。どうやら国王は、例のドラゴンエッグの朝食に対する「感謝の印」として贈ったらしい。もっとも、使者の言葉を借りれば「さらなる慈悲を乞う祈り」といったおもむきだったが。


「納得がいかんな」マギルスが低く呟いた。


彼は剣を掲げた。この王国の聖職者が見れば、黄金の透かし彫りと神聖なエンチャントが施された至高の傑作に見えるだろう。だがマギルスにとっては、構造的な悪夢でしかなかった。


「重心がつかの方へ三センチ寄りすぎている。刃の形状も『切る』ことより『光る』ことに最適化されているな。それにこの鋸歯のこぎりばは……」彼は光り輝くルーン文字を親指でなぞった。「無駄な空気抵抗を生んでいる。これでは非常に高価な櫛でトマトをスライスしようとしているようなものだ」


(この世界の連中は「輝き」を「鋭さ」と勘違いしている。鋼を研ぐ手間を惜しんで、光に仕事をさせようとする。山に対する侮辱だ)


マギルスは立ち上がり、裏庭の小屋へと歩いた。魔法の鍛冶場も、ドラゴンの息吹を宿したふいごも使わない。代わりに彼が取り出したのは、近くの小川で見つけた平らな灰色の河原石だった。


館の遠視室では、セラフィナ王女とライナー隊長が魔道具の水晶を覗き込み、顔を青くしていた。


「あ、あいつ……まさか、私が思っている通りのことをするつもりか?」ライナーが声を震わせながら囁いた。


「研いでいらっしゃるわ……」セラフィナの声には、畏怖と戦慄が混じっていた。「ヴァレリウスの聖剣を……厩舎の裏で拾ってきたような、ただの石で研いでいらっしゃる!」


「だが、あの剣は女神自らが鍛え上げたものだぞ!」ライナーが叫んだ。「研ぐ必要などない! その刃は固形化された太陽光でできているんだ!」


水晶の中で、マギルスは石にパシャリと水をかけた。そして神々しい刃を、ゆっくりと、規則正しい円弧を描いて動かし始めた。


——シュッ、シュッ。


砥石を滑るたびに、「固形化された太陽光」が安物の金箔のように剥がれ落ちていった。天界の住人によって刻まれた神聖なルーンが、組織的に削り取られていく。


「エンチャントを消している……!」ライナーが頭を抱えた。「国家の至宝を破壊しているぞ!」


「いいえ」セラフィナが身を乗り出し、囁いた。「見て。その下にある『鋼』を」


マギルスにとってルーンなどどうでもよかった。彼に言わせれば「魔法」とは大気による酸化層の一種——つまり、ひどく明るいだけの「錆」に過ぎない。


彼は特定の圧力をかけた。親指と集中した呼吸法だけを使い、一平方センチメートルあたり正確に14,000ニュートンの負荷を与える。彼は単に金属を研いでいるのではなかった。鋼の分子格子を圧縮し、原子そのものに整列を強いていたのだ。


「よし」マギルスは古い布で刃を拭った。


剣はもう光っていなかった。神聖な魔力で唸ることもない。今やそれは、周囲の光を吸い込むかのような、無光沢で恐ろしい灰色を呈していた。沈黙そのものとなった刃がそこにあった。


マギルスは、宙を舞っていた一枚の落ち葉を拾った。剣を振るうことさえせず、ただ刃をじっと保持する。葉が刃に触れた瞬間、音もなく二つの完璧な破片に分かれた。分かれた葉は落下を続けたが、刃の傍らを通り過ぎる際、その極限の薄さが生み出した微細な真空によって、分子レベルの塵へと粉砕された。


「まだ柄が少し重いが」マギルスは溜め息をついた。「少なくとも、これで道具として機能するだろう。井戸の近くに茂ったいばらの剪定に使うか。市販のはさみでは、すぐにマナのつるが詰まってしまう」


亜空間では、影の観測者が玉座の上で胎児のように丸まっていた。


「『啓示の剣』の魔力を剥ぎ取りやがった……庭仕事には『派手すぎる』という理由で……」観測者はむせび泣いた。「女神様が泣くぞ。俺だって泣く。物理法則に慈悲はないのか?」


彼は、世界史上最強の武器が「ただの高級草刈り機」に成り下がった姿で茨の茂みへ向かうのを見守った。


「計画変更だ」観測者は台帳を手に取り、力なく呟いた。「次は魔王なんて送らない。プロの会計士を送ってやる。あいつを退屈死させてやるんだ。暴力なんて、あいつにとってはただの趣味に過ぎないんだからな……」


マギルスは三分で茨を片付けた。「藪払い機に転向した聖剣」の性能は及第点だったが、柄の巻き革はもっと良いものに変えるべきだと感じた。——先ほど食べた「種」の、ドラゴンの皮でも使えばいいだろう。


彼は沈みゆく夕日を見上げ、読めない表情を浮かべた。


(庭は整った。道具も研いだ。朝食の栄養も十分だ。この『文明』とやらは混沌としているが、摩擦の法則が維持されている限り、許容範囲内と言えるだろう)


彼は夕食の準備のために屋内へ向かった。地元の魚は「永遠の命を授かっている(祝福されている)」らしい。


それを通気性の良い柑橘系のソースと、局所的な高圧シーアリング(焼き入れ)で調理すればどんな味がするか、彼は考えていた。

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