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ラヴィラントの街は、ようやく現実を受け入れつつあった。新参者の居住者、マギルス・サトゥリという男は、人間というよりはむしろ「静寂を極端に好む局地的な気象現象」に近い存在なのだということを。
かつて呪われすぎて地元のカラスさえ避けて通った物件「黒蔦の館」。その裏庭で、マギルスは七十年もの間死に絶えていた土壌の上に立っていた。王立魔導師たちに言わせれば、そこは「瘴気の死地」だった。だがマギルスに言わせれば、それは単に「やる気のない庭」に過ぎない。
「窒素が足りんな」
マギルスは土に指を突き刺し、低く呟いた。「排水も最悪だ。ここで山ネギを育てようものなら、濡れた靴下と後悔が混ざったような味になるだろう」
(この谷の連中は、空に向かって詠唱することにばかり時間を費やしている。大地の摩擦を無視しておきながら、神々が食物を育ててくれると期待しているのだ)
マギルスは白黒の羽織を整えた。刀は帯びておらず、近くの日干しになった切り株に立てかけてある。代わりに彼が手にしていたのは、今朝「修理」したばかりの木製レーキ(熊手)だった。木目を鉄と同じ密度になるまで圧縮して鍛え直した一品だ。
彼は耕し始めた。
傍目には、ただの男が庭仕事をしているようにしか見えない。だが、亜空間の狭間から監視する**「影の観測者」**の目には、それは分子構造を再構築する恐るべき光景に映っていた。
「……ただ掻いているのではない」
黒曜石の玉座から身を乗り出し、観測者は赤い目を見開いて囁いた。「彼はレーキを特定の周波数で振動させ、土中の壊死したマナの塊を物理的に粉砕している……。あいつは……ただ美味い野菜が食いたいという理由だけで、最上位の『浄化の儀式』を執り行っているのか……っ!」
観測者は頬に手を当て、ひきつった笑い声を漏らした。
「おお、マギルスよ。魔導師たちが命を賭して求める『聖域』級の術式を、貴様はサラダの下準備に使っているのか」
「サトゥリ殿!」
マギルスが先日「山の物理学」を用いて無音で開くよう油を差した庭の門が、勢いよく開いた。銀のローブをなびかせたセラフィナ王女が駆け込み、その後ろではライナー隊長が、バラバラの銀食器を詰めた袋のような音を立ててプレートアーマーを鳴らし、息を切らしていた。
「サトゥリ殿、ご無事でしたか!」セラフィナは『光実繋ぎ(コウジツナギ)』のペンダントを握りしめ、喘ぐように言った。「聖騎士団から、あなたの裏庭から巨大な『神聖なる輝き』が放たれたと報告があったのです! もしや、亡霊王が復讐のために戻ってきたのかと……!」
マギルスは手を止めなかった。土を打つ木材の規則正しい「カツ、シューッ」という音が、完璧なテンポで続く。
「戻ってきたのはpHバランスだけだ」マギルスは落ち着いたバリトンボイスで言った。「そしてここにある唯一の『復讐』は、適切な肥料の欠如だ。王女、貴国の土壌はガラスのように脆いな」
「脆い……?」ライナーは地面を見つめ、口ごもった。
隊長が耕されたばかりの土に足を踏み入れた瞬間、彼は膝まで沈み込んだ。土は泥ではない。あまりにも細かく粉砕されていたため、流体のように振る舞っていたのだ。
「な、なんだこれはっ!?」ライナーは叫び、液体のような土から重いブーツを引き抜こうともがいた。「流砂の罠か? それとも第六階梯の『大地縛鎖』か!?」
「通気だ、ライナー。溜め息をつきながらマギルスが手を止めた。「根が呼吸できなければ、植物は育たん。山の基本だ。そこに突っ立っていると下層土が固まる。石畳へ移動しろ」
ライナーは驚愕と恐怖が入り混じった顔で、泥だらけの鎧を揺らしながら石畳へ這い上がった。
「サトゥリ殿」セラフィナが庭を見渡しながら言った。「『輝き』の件だけではありません。この地区に……『悪魔』が出たとの報告があったのです。深淵からの斥候が」
マギルスは首を傾げた。長い黒髪が絹のように流れる。
「悪魔? 大柄で、目が赤く、腰に悪い姿勢で立ちながら『文明を消し去る』などと叫んでいた奴のことか?」
「左様です!」セラフィナが叫んだ。「影のストーカーです! 10分前にこの屋敷の敷地内に入るのが目撃されたのです!」
マギルスは、裏の柵の近くにある、ひっくり返った大きな木桶を指差した。
「あの騒がしい奴のことか。北の隅を耕している最中に『隠密』を仕掛けてきおって。『魂を喰らう』だの『永遠の闇』だのと喋り続けていた」
マギルスは桶に歩み寄り、鋭い蹴りを入れた。
「私の『残心』を乱しおって。奴の叫び声の振動が、土の周波数に干渉していたのだ。だから『お仕置き(タイムアウト)』にしておいた」
彼が桶を持ち上げる。
そこには、生物学的な常識を無視した異形の姿があった——うごめく影と、無数の牙を持つ口の塊。壁をすり抜ける能力を持つAランクモンスター「影のストーカー」である。
そいつは今や、丸まって情けない高音の鳴き声を上げながら震えていた。その「影」の体は、ボロボロに擦り切れたように明滅している。
「こ……壊れている……」ライナーは剣の柄に手をかけ、囁いた。
「殴ってなどいないぞ」心底迷惑そうにマギルスが弁明した。「ただ奴の『マナの根源』——濡れたアライグマの尻尾のような感触だったが——を掴んで、あの不快な周波数で震えなくなるまで揺さぶってやっただけだ。それから、堆肥作りを手伝わないなら砥石にしてやると伝えた」
(奴の原子構造は緩すぎた。少し締めてやっただけだ。物理法則は、相手が闇でできていようが関係ない。慣性の法則には従ってもらう)
影のストーカーは最後の一鳴きを上げると、無害な黒いインクの溜まりとなって霧散した。
「消え……消えました」セラフィナは瞬きをした。「あなたは今、Sランク級の脅威を、単に『怖がらせて』現世から追い出したのですか……」
「怖がらせたのではない。遂行不可能な業務内容を突きつけただけだ」マギルスはレーキを再び手に取り、訂正した。「さて、『悪魔』の報告が終わったのなら、どこで質の良い山羊の糞が手に入るか知らんか? 市場で売っているものは、ほとんどが藁と嘘でできている」
セラフィナは、ネギを守るために地域の脅威を解体した男を見つめた。彼女はペンダントを握りしめ、目眩のするような「勘違い」の感覚に襲われていた。
「……王立厩舎に確認してまいります、サトゥリ殿」彼女は消え入るような声で言った。
「結構」マギルスは頷いた。「粒の粗いものを選んでくれ。細かいものでは、どうにも手応えが違う」
亜空間の奥深くで、影の観測者は咆哮していた。彼の笑い声が、黒曜石の城の柱を揺らす。
「『粒の粗いもの』だと!」彼は赤い光の涙を拭いながら、喉を詰まらせた。「あいつは、王室最高の肥やしを、あの『物理圧縮』された土に使おうというのか!」
彼は深く座り直し、その口角をさらに吊り上げた。
「精々、庭いじりに励むがいい、マギルス・サトゥリ。貴様が『スローライフ』を求めれば求めるほど、この世界の理は崩壊していく。……市場に紛れ込ませた『種』が、実はドラゴンの卵だと気づいた時、貴様がどんな顔をするか楽しみだ」
庭では、マギルスが立ち止まり、小さな芽を見つめていた。
(雨が五時まで降らなければいいが。昼寝の予定がある。谷の雨音は、安眠するには少々『濡れすぎ』ているからな)
世界は守られた。今のところは。
だが、特異点の菜園は、まだ育ち始めたばかりだった。




