13
ラヴィラント王立工房は、熱気と煤、そして付与魔法がかけられたハンマーの規則的な打音に満ちた場所だった。そこは王国の軍事力の心臓部であり、「神金」や「星鉄」が、ドラゴンの鱗さえ切り裂く刃へと鍛え上げられる聖域である。
そこへ魔導師サトリが足を踏み入れると、炉の炎すら気後れしたかのように影を潜めた。
「石炭の硫黄分が多すぎるな」 サトリは挨拶もなしに、診断を下すように言った。彼の前には、身長よりも横幅の方が広く、焦げた油の匂いのする髭を蓄えたドワーフの親方、ボリンが立っていた。
「おい、客人さんよ」ボリンは唸り、赤く焼けた地金を金敷に叩きつけた。「わしは三代の王に仕え、剣を打ってきた男だ。わしの鋼は純粋、付与術は第八階梯、ふいごを動かしているのは捕縛した火の精霊だ。絹の寝巻きを着た男に、鍛冶の何がわかるってんだ?」
サトリは言葉では返さなかった。彼は「最高傑作」と記された長剣のラックへ歩み寄り、一本を手に取って光にかざした。
「炭素の分布が不均一だ。鍔から三インチ上の位置に、微細な気泡がある」サトリは観察を続ける。「それに、貴公の火の精霊は『怠慢』だな。表面を熱してはいるが、金属の芯が震えている。これは鍛造ではない。ただの鉄のデコレーションだ」
サトリは剣を置いた――丁寧ではあったが、ラックが悲鳴を上げるほどの「重み」を伴っていた。
「薬罐が必要だ」サトリは続けた。「貴公の在庫は……基準以下だ。ゆえに貴公の道具を借りる。どいていろ」
ボリンは砂利を噛むような笑い声を上げた。「わしの道具を使うだと? 坊主、そのハンマーは八十ポンドもあり、『重力増加』の魔法がかかっておる。腕の骨が――」
サトリは指二本でそのハンマーをひょいと持ち上げた。魔法ではない。ただの「完全転換」――重心を極限まで精密に一致させ、ハンマーの質量を己の質量の一部として扱う体術である。
「熱が問題だ」サトリは呟いた。
彼はふいごを動かさなかった。代わりに炉の前に立ち、「直線掌打」を放った。圧縮された空気が炉に叩き込まれ、まるでターボチャージャーのような役割を果たす。オレンジ色の炎は、目に焼き付くほど恐ろしい青白色へと変貌した。
「な、奈落の底にかけて……何てことしやがる!」ボリンは目を覆いながら絶叫した。「金属を焼きすぎだ! 溶けてクズ鉄になっちまうぞ!」
「分子の振動を制御できなければ、の話だ」サトリは言った。
彼は魔法もかかっていない生の鉄塊を掴んだ。そして打ち始めたが、それは単にハンマーを振るう動きではなかった。「高周波共鳴」。一撃に見える動きの中に、実際には千分の一秒単位で十二回もの連撃が込められている――その振動はあまりに速く、彼の腕は残像すら消えて見えた。
――ドズゥゥン。ドズゥゥン。ドズゥゥン。
その音は、金属を叩く高い音ではなかった。山が崩落するような轟音だ。一打ごとに、サトリは純粋な運動エネルギーの圧力によって、手作業で不純物を金属の外へと追い出していく。古代の呪文が必要な工程を、彼は己の身体能力のみで、分子レベルでの「彫刻」として完遂させていった。
十分後、サトリは完成品を冷却槽に浸した。蒸気はただ上がるのではなく、完璧な柱となって上方へと爆発した。
彼が掲げた薬罐は、金色ではなかった。ルーン文字が輝いているわけでもない。それは光を吸い込むような、艶消しの漆黒だった。あまりの密度の高さに、部屋の明かりさえもがその表面に吸い寄せられているかのようだった。
「密度は均一」サトリは満足げに頷いた。「熱伝導率は99.9%に達した。100摂氏温度ちょうどで笛が鳴る。一分の狂いもなくな」
鍛冶師ボリンは膝をつき、その薬罐を凝視した。震える手を伸ばし、それに触れる。ただの生鉄であるはずなのに、その表面は絹よりも滑らかだった。物理的な不可能――冶金学における「特異点」がそこにあった。
「これは……これは薬罐じゃねえ」ボリンは震える声で囁いた。「神話級の遺物だ。これなら魔王の頭蓋骨を殴りつけても傷一つ付かねえだろう。なぜ……なぜこれほどの才能を、茶なんかのために使うんだ?」
サトリは心底不思議そうに彼を見た。
「不味い茶は、朝の無駄遣いだからだ。それ以上に高潔な理由があるか?」
遥か高みの暗黒次元では、シャドウ・オブザーバーが腹を抱えて笑い転げていた。王国の名工がキッチン用品を前にして精神崩壊を起こしている様を見て、のたうち回っている。
「お湯の気泡が気に入らないというだけで、S級の素材を『手動プレス』で生み出しおった!」オブザーバーは息を詰まらせながら笑った。「ああ、サトリ……お前こそ、史上最も危険な『ただの人間』だよ」
サトリは新しい薬罐を手に、工房を後にした。
(さて)彼は思った。(次は、もっと『やる気のある』水を探さねばならんな)




