9 禁書という響きが好き
短めですみません。
可能な限り更新頑張ります。
よろしくお願いします。
迷宮都市の住民であれば、誰でも利用できる施設がある。
そこには歴史書や娯楽書、モンスター図鑑に迷宮地図、はたまた料理本にいたるまで、あらゆる本が揃っている。
閲覧はもちろん、一部は貸し出しや販売も行われている。
クシナ雑貨店
今日はあいにくの雨だ。 しとしとぽつぽつ、なんて可愛らしいものじゃない。ざあざあごうごうと、地面を叩きつけるような激しい本降り。
「雨の降るか降らないかの曇り空は好きなんだけど、これだけ降られるとね。客も来なくなるし……」
誰に聞かせるでもなく、私は独り言をつぶやく。
「うん、こういう日は、読書に限るわね」
どうせ客なんて来ないだろう。
知識を高めるのも美少女のさだめと私は開き直って、いつものカップに紅茶を注ぎ、お菓子を用意して
読書に没頭することにした。
手元にあるのは、いわゆる「禁書」に指定されている、貸出も閲覧も不可とされている一冊。 つまるところ、呪いの本だ。 施設側もこんなものを手元に置いておきたくなかったらしく、厄介払いのような形で私の店に回ってきた代物。
もちろん、読む前に鑑定は済ませてある。
一応説明しておくと、この本には「読者を没頭させる」呪いがかかっている。 一度読み始めれば、飲食も睡眠も忘れるほど熱中して読み耽り、読み終わる頃にはそれを複写して誰かに勧めずにはいられなくなるらしい。
呪いを広める手口としては、なんとも陳腐というか……。 おそらく、これも意図的に作られた人工の呪物だろう。強い悪意は全く感じないけれど、こうして呪いの感染源を増やして、一体何の足がかりにするつもりなのだろうか。
ぺらり。……ぺらり。
外を叩きつける激しい雨音の合間に、ページをめくる乾いた音だけが静かに重なっていく。
内容は性別をこえた禁断の恋を描く物語のようだ
「うーん、私には分からないわね」
ひとしきり読み終わり本を閉じる。
やはり私には呪いの効果は無いようだった。
読んでいる最中も紅茶を飲んでたし、用意したクッキーも食べてたし、別に複写したいとも思わない。
私は本を手に取り棚に戻そうとしてたときであった。
カラン…コラン、とちょっと湿った鐘の音が鳴り、乱暴に扉が開いた。
修道服をびしょ濡れにした司祭ちゃんが、勢いよく店に飛び込んできた。
「クシナさん! これはとても恐ろしいものです、色々と危ないんです!」
叫ぶ彼女の手には、一冊の書物。
……ん? それ、いま私が手に持っている本と同じじゃないかしら。
妙な胸騒ぎを覚えながらも、私は彼女の言葉の続きを待った。
「この呪いの本、まさしく禁書です! すぐにクシナさんにも見てほしくて……!」
……あれ。司祭ちゃん、もしかしてもう呪いの影響を受けてる? 私が口を開く暇もなく、司祭ちゃんは私の手元にある本に目を留めた。
すると、彼女はそれまでの真剣な顔を一変させ、うっとりとした、優しい笑みを浮かべたのだ。
「やはり、クシナさんも分かってらっしゃるのですね……!!」
鼻息を荒くして詰め寄ってくる彼女に、私はたじろぐ。
「え? は? ちょっと、どういうこと?」
声を上げる私を余所に、司祭ちゃんは「すべて分かっています」と言いたげな、深い信頼の籠もった顔で頷いた。
「大丈夫です、クシナさん。私も『同志』ですから!」
それだけ言い残すと、彼女はまた駆け足で店を飛び出していった。 結構な大雨の中、彼女の背中が見えなくなる。……大丈夫かしら、司祭ちゃん。というか、何かを盛大に勘違いされている気がしてならない。
まあ、仮にもあの神聖な教会の司祭だし。呪いの影響くらい、自力でなんとかするわよね。
「…………」
呪いの本の本当の怖さを実感した私は、静かに手元の禁書を棚の奥へと戻した。




