8 箒は跨るより横乗り派
可能な限り更新頑張ります。
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探索者が迷宮内でモンスターを倒すと、身体能力が向上する。 動きが速くなったり、体が頑丈になったり。それに加えて、稀に「恩恵」なんて呼ばれる力を授かることもあるらしい。
恩恵というのは、簡単にいえば魔法だ。 宙に浮いたり、水を出して操ったり。なぜか迷宮内でしか使えない限定的な力らしいけれど。
空を飛べるようになる呪物なんて、どこかに転がってないかしらね。呪いの箒とか……。
そんなしょうもないことを考えていたら、カランコランと鐘が鳴り、店のドアが開いた。
「いるー? クシナっち」
「いるわよ。……いなきゃ、普通扉が開いてないわよ」
「呪物の鑑定よろしくー!」
そう言って、満面の笑みで得体の知れない代物を差し出してきたのはマニアちゃんだ。
「いや、アニマだってば。まあ、大体合ってるからいいけどね」
そう、彼女を一言でいうなら「変人」だ。 見た目こそ可愛らしい少女のようだが、実年齢はそこそこいっているらしい。
「ほんと、ここはいいお店よねー」
マニアちゃんは定期的に迷宮へ潜っては、こうして妙な呪いの品を店に持ち込んでくる。
「鑑定だけでいいのよね?」
「うんうん、いつも通りよろしくー」
彼女は必ず鑑定だけを依頼し、結果を聞くと満足そうに呪物を持ち帰る。
まあ、私だって人のことは言えないけれど、呪物なんてものは持っているだけなら犯罪でも何でもない。使い道さえ間違えなければ、そう。ただの趣味の範疇だ。
「はい、じゃあ金貨10枚ね」
代金を受け取り、私は手元の布に包まれた品に意識を向けた。
差し出されたものを見て、私は思わず眉をひそめた。
見たところ、ただの刃物のようだ。……いや、これ、包丁??
「え、包丁? まあ、確かに呪いはかかっているし、ある意味では強力な類だけど」
「そうなんだよ! 迷宮の中でさ、普通に焚き火を囲んでたスケルトンを倒したらドロップしたんだよね。私の呪いセンサーがビビッときてさ、『これは呪物だー!』って」
アニマは実に嬉しそうに語る。 普通にスケルトンが焚き火……?私の知っているアンデッドのイメージとはだいぶ違う気がするけれど、まあ迷宮ならそういうこともあるのかもしれない。
「それでそれで?」と、身を乗り出して続きを促してくるアニマ。
「……まあ、先にメリットの方から言うわね。これを使って素材の採取をすると、イメージした通りにすんなり切り出せるみたい。鉱物みたいな硬いものには向かないけれど。あとは、料理ね」
「料理?」
首をかしげる、マニアちゃん
「そう、そのまんま。料理の時にこの包丁を使うと、普段より腕が上がるみたいよ。手先が器用になったり、食材の目利きが効くようになったり……呪物というよりは、一種の『奇品』に近いわね」
「へぇー! そっか、それでデメリットは?」
「一週間に一度はこの包丁を使って料理をしないと、不幸なことが起こるわ。……ふふふ、面白いじゃない、これ」
私は思わず笑みをこぼし、説明を続ける。
「でもまあ、一度でもこの包丁で何かを切ったり、素材を採ったりしない限り、呪いのカウントは始まらないみたい。だからその点では、かなり安心な呪物と言えるわね」
この包丁からは、「まだ至高の一品を作り出せていない」という、名もなき料理人のどろりとした執念を感じる。
「そっかー。だからこれ、あんまり気持ちよくないオーラが出てたんだね」
「……普通は逆でしょ」
私は思わずツッコミを入れた。
普通、呪われた品から漂う禍々しい気配やオーラというものは、忌み嫌われるものなのだ。けれど、目の前のこの女は、その嫌な気配を「落ち着く」だの「最高」だのと言ってのけるタイプの変人である。
「うーん、匂いも微妙だしなー」
アニマがまた意味不明なことを口にし始めた。
「……呪物は基本的に無臭よ」
すると彼女は「ちっちっち」と、小癪にも指を振って見せる。 「分かってないなー。クシナっちともあろう人が……」
「いや、そもそも私は鑑定ができるから商売にしているだけで、あんたと違って呪物が好きなわけじゃないからね」
「えー、でもクシナっちもほんとに良い匂いがするよ?」
そう言って、顔を近づけてくる変態ちゃん。……いや、こいつが嗅いでいるのは私じゃなくて、私が着ているこの『ローブ』だろう。
……もっと変態じゃない。
「この包丁も私のコレクションに加えるぞー!」
そう言って、変態ちゃんは実にご機嫌だ。それからしばらく他愛もない世間話に付き合わされた後、ようやく彼女は帰路につくことにしたらしい。
「じゃあ、ありがとねクシナっち。また呪物を手に入れたら鑑定頼むよ」
そう言い残してドアへ向かった彼女は、ふと思い出したように足を止めて振り返った。
「あ、そうそう。最近、裏通りで通り魔事件っていう物騒なのが流行ってるらしいから、気をつけてね」
あろうことか、鑑定したばかりの「料理人の執念がこもった包丁」を剥き出しで握りしめたまま、彼女は真剣な顔で忠告をくれる。
「……あんた、自分が一番犯人に見えてるって自覚、微塵もないのかしらね」
私の言葉が届いているのかいないのか、彼女はそのまま夜の街へと消えていった。




