7 ほら私って天使でしょ 後
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あれから数週間が経ち、私は孤児院のことなんてすっかり忘れていた。
相変わらず「クシナ雑貨店」の店主として、たまに持ち込まれる呪いの品を鑑定したり、適当に店番をしたりする平穏な日々を過ごしていたのだけれど。
不意に、店の扉が勢いよく、それこそ壊れんばかりの勢いで開け放たれた。 飛び込んできたのは、肩で息をしている司祭ちゃんことシエスタだった。
「クシナさん、大変です! 覚えていますか? 孤児院のレイ君が、急にいなくなったんです!」
「ああ……あのクソガキね」
私の「絶世の美貌」にケチをつけた不届き者の顔なら、ちゃんと残っている。
「昨日の夕方までは、普通にみんなと遊んでいたんです。夜、ベッドに入るのも確認されています」
シエスタは悲痛な顔で言葉を続けた。
「でも、翌朝になったらレイ君がいなくて……。彼が寝ていたはずのベッドには、着ていた衣服だけが残されていたんです」
「へー、そうなの。不思議なこともあるものね」
私はカウンターに頬杖をついたまま、他人事のように答えた。
「『不思議なこと』で済ませられるわけないですよ! 誘拐の可能性もありますし、もしかしたら孤児院が嫌になって抜け出したのかも……」
「抜け出したにしては、服を置いていくのは不自然じゃない?」
「そうなんです、だから不気味で……。とにかく、国には捜索願いを出しているみたいですが、一刻も早く見つかるといいんですけど。クシナさんも、もしどこかで見かけたら教えてください!」
シエスタはそれだけまくしたてると、また嵐のように店を去っていった。他に心当たりがある場所へ触れ回りにいくのだろう。
その夜、私は夢を見ていた。
ぼんやりとした霞の向こうから現れたのは……あのクソガキだ。 なぜだか私は、夢の中でレイ君と向かい合っていた。
「レイ君じゃない。……今日は一体、どうしたのよ?」
問いかける私の声に、彼はいつもの生意気な態度は見せず、ただ静かに、何かを噛みしめるようにポツリポツリと話し出した。
「黙っていてくれて、ありがとう。……本当はさ、みんなともっと遊びたかったんだけどな」
その少し寂しげな独白に、私はわざとらしく鼻を鳴らして答える。
「別に、あんたのために黙ってたわけじゃないわよ。頼まれてもないしね……何より、私は『タダ働き』が大嫌いなの」
私のつれない言葉を聞いて、レイ君はふっと可笑しそうに笑った。そして、いたずらが成功した子供のような顔で、最後にこう言い残したのだ。
「さよなら……クシナおばちゃん。あ、そうだ。もっと牛乳飲んだ方がいいよ。……ちっさいんだからさ」
「クシナ『お姉さん』でしょ! まったく、最後まで一言多いのよあんたは……!」
言い返そうと一歩踏み出した瞬間、彼の姿は淡い光に溶け、意識は急速に現実へと引き戻された。
翌朝。 まぶしい朝日に目を覚ました私の枕元には、なぜか一本の牛乳瓶が鎮座していた。
「………あんっのクソガキ……」
……結局のところ、レイ君自身が「呪い」の存在だったのだ。
彼にはこれっぽっちも害意がなかったし、誰かに鑑定を頼まれたわけでもなかったから、私はただ放置していただけ。
私が彼の名前をすんなり覚えられたのも、彼が呪いだったからこそ、私の意識に深く引っかかったのかもしれない。
私の「ローブ」や「丸呑みちゃん」に触れることができたのも、彼が呪いだったからだろう。
自分が呪いだと分かっていながら、それでもみんなとお揃いの服を着て遊びたくて、あの聖布の端切れを身にまとっていたんだと思う。
……ほら、案外「呪い」ってのも、そう悪いものじゃないでしょう?




