5 ほら私って天使でしょ 前
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私は子供という生き物が嫌いだ。 彼ら彼女らは、美的感覚が決定的に欠如している。そのうえ野蛮だし、うるさいし、すぐに泣く。
つまり、この絶世の美少女である私とは、およそ反対に位置する存在なのだ。
「クシナおばちゃん! 次はおばちゃんが鬼だよ!」
無邪気な声が飛んでくる。
(……おばちゃん? 誰がおばちゃんだって? 私はまだぴちぴちの二十歳よ。これだから美意識のないガキは困るわ……)
「ク・シ・ナ・お・ね・え・さ・ん、でしょ! おねえさん!」
はっきりとした殺気……じゃなかった、鬼のようなオーラが漏れそうになるのを必死に抑える。
いけない、私は淑女で大人なのだ。子供相手に本気になってどうする。
「あはは! クシナおばちゃん、へんなかおー!」
「……このクソガキがぁっ!!」
「わー、鬼だー! 逃げろー!」
子供たちは蜘蛛の子を散らすように駆けていく。 ……そう。私は今、孤児院にいる。
数日前、クシナ雑貨店にて。
「お願いします! クシナさん、この通りです!」
シスターちゃんであり、司祭ちゃんでもある修道服姿のシエスタが、カウンターで深々と頭を下げていた。
なんだか最近、私の店が知り合いの溜まり場……というか、便利屋の相談窓口になっている気がするのよね。
「どうしてもダメですか? ……わかりました。金貨10枚……いえ、11枚出しましょう!」
司祭ちゃんの交渉術は、なんというか、ものすごく刻んでくるタイプだった。
「……もう! これ以上はビタ一文負けられませんよ! 金貨12枚!」
一体何をやってるのかしら、この人。司祭としての尊厳はどこへ行ったのかしら。
「金貨13枚です! も、もってけ泥棒ー!」
ついに半べそをかき始めた司祭ちゃんに、私は大きなため息をついた。
「はぁ……わかったわよ。その孤児院まで運べばいいのね?」 私こと絶世の美少女クシナは、ようやく承諾した。決して金貨の枚数が増えるのを待っていたわけじゃないし
「はい! ありがとうございます、クシナさん!」
話を聞けば、教会は毎月孤児院に支援物資を寄贈しているらしい。ところが、いつも頼んでいた配達業者が急遽キャンセルになり、困り果てて私の『丸呑みちゃん』……もとい、マジックバッグを頼りにしてきたというわけだ。
運ぶのは主に中古の衣類やおもちゃ、それに食料品。かなりの量があるらしく、教会の人間だけでは運びきれないし、食材があるから急ぎたいのだという。
「それでは、積み込みお願いしますね」
私は何でも屋じゃないんだけどなぁ。最近、雑貨屋らしい仕事より外回りの方が多い気がするぞ。
それにしても司祭ちゃん、これ丸呑みちゃんって知ってるよね?ただのマジックバッグだと思ってない? 子供たちがいる場所にこれを持っていくのは、教育上……大丈夫かしら。
少し不安になったけれど、まあ、いざとなったら口をぐるぐる巻きに縛っちゃえばなんとかなるわね。 そう、美少女は切り替えも早いのよ。
孤児院へ荷物を運ぶ当日。
私は教会へ出向き、いつものように『丸呑みちゃん』へ物資を放り込んでいく。 なぜか一部の古着だけは、丸呑みちゃんが「ペッ」と吐き出そうとして嫌がっているように見えたけれど。
「好き嫌いは良くないわ。ほら、さっさと食え!」 と無理やり押し込んでやった。
「それでは、クシナさん。よろしくお願いしますね」
司祭ちゃんに促され、私たちは連れ立って孤児院へと歩き出した。
道中、司祭ちゃんがぽつぽつと語りだした。
「孤児院って、基本的には国が主体となって運営・管理しているんですよ」 「へー、そうなのね」
私は適当に相槌を打つ。
「はい。ここ、迷宮都市じゃないですか。その……両親が探索者で、迷宮に潜ったきり帰ってこないことって、どうしてもあるんですよね。だから残された子たちのために、国や教会がしっかり支援していかないといけないんです。やっぱり、悲しいじゃないですか」
「ふーん、そっかー」
私は変わらず、生返事で相槌を打つ。
「……ちょっと、聞いてます? クシナさん」
「聞いてる、聞いてる。完璧に聞いてるわよ」
(司祭ちゃんって、付き合ったら結構めんどくさいタイプなんだろうなぁ……)
そうこうしているうちに、私たちは目的地である孤児院に到着した。
まずは施設長に挨拶をしてから、物資を保管庫へ運んでほしいとのこと。 私たちは賑やかな声をかき分けるようにして、孤児院の中へ足を踏み入れた。
入るなり、子供たちの声が飛んでくる。
「わぁ~、きれーなおねいさん!」 そこの女の子、分かってるじゃない。やっぱり子供は素直でいいわね)
私は一気に気分が良くなった。
「はぁ? あんなのブスじゃん。シエスタさんの方が百倍きれいだってー」
(……このクソガキ、あとで覚えてなさいよ)
私は秒速で気分は最悪になった。
「こら、みんな! 失礼なことを言うんじゃありません!」
奥から、四十代くらいだろうか、穏やかな雰囲気の女性がやってきた。
「シエスタさん、いつもありがとうございます。それと、そちらの方は……」
「はい、こちらこそ。ああ、こちらの方は雑貨店を営んでいるクシナさんです。今回は配達を手伝っていただいたんですよ」
シエスタの説明に、女性は丁寧にお辞儀をした。
「クシナさんですね。私はこの孤児院の施設長をしております、ソフィアと申します。今回は本当にありがとうございました」
「これはご丁寧に。クシナです。普通の雑貨屋をやっています。それで、物資はどちらへ?」
「ああ、すみません。こちらの保管庫にお願いしたいのですが……荷車は外に?」
ソフィアさんが不思議そうに首を傾げる。私の手には、小さなカバンが一つあるだけだからだ。
「この丸の……マジックバッグに入っているので、大丈夫ですよ
あやうく『丸呑みちゃん』と言いそうになったけれど、なんとか踏みとどまった。
「ああ、マジックバッグをお持ちでしたか。それは失礼いたしました。では、こちらへどうぞ」
案内されるまま、私たちは建物の奥にある保管庫へと向かった。
「まずはこの机の上にお願いしますね」という施設長さんの指示に従い、私は『丸呑みちゃん』の口を開けた。
すると、どういうわけか真っ先に衣服類が「ベッ!」と勢いよく吐き出された。よっぽど口に合わなかったらしい。
「ふふ、クシナさん。知っていますか? 実はこの衣服、聖布にはなれなかった余り布で作られているんです。ほんの少しですが、祈りの力が宿っているんですよ」
シエスタがそんな豆知識を披露してくれた。
「ふーん、そうなのねー」
私は適当に相槌を打ちながら、次々におもちゃや食材を取り出していく。
よし、これで全部。 重労働(?)も終わったことだし、ようやくお暇できるわね……と思った、その時だった。
「ごめんなさいクシナさん! 少しだけ施設長さんと打ち合わせがあるので、その間、子供たちの相手をお願いできますか?」
「……え?」
聞き間違いかしら。今、この絶世の美少女に向かって「ガキの守りをしろ」って言った?
「は? 私が!? ちょっと、嘘でしょ!」
私の驚愕をよそに、シエスタは「お願いしますね!」と爽やかな笑顔を残して、施設長さんと一緒に奥の部屋へと消えていってしまった。
一人、保管庫に取り残される私。 そして、開け放たれた扉の向こうからは、元気すぎる子供たちの足音が近づいてくるのが聞こえた。




