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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第一章 人工呪物編

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4 一度は言ってみたいセリフってあるよね

「クシナ雑貨店」こと私のお城は、一階がお店と倉庫、二階が居住スペースになっている。

 倉庫に入りきらなかった呪物は、二階の私の部屋に置いてあったりもする。

 なぜか勝手に髪が伸びる人形や、捨ててもいつの間にか戻ってきている人形なんかもいるけれど……まったく、居座るなら家賃くらい払ってほしいものだ。


 そしてこの私、クシナは王である! ルールを決めるのは私。

 私が白と言ったら白だし、お店を開けるも閉めるも私の自由なのだ。 ということで、今日はお休み。家でまったり過ごしたい気分なの。


 ……あー、でも、回復薬とか携帯食料の在庫が心もとないわね。 せっかくの休日気分だったのに、これじゃ在庫の補充に行かなきゃいけないじゃない。


 私はしぶしぶ出かける準備を始める。

 めんどくさいし寝間着のままで……なんて一瞬思ったけれど、絶世の美少女であり淑女たる私は、そこんとこはちゃんとしているのだ。 鏡の前で身だしなみを完璧に整えてから、私は外へと出かけた。


 私の店、クシナ雑貨店はこの迷宮都市でもいわゆる「一等地」にある。 迷宮へ続く大通りから一本脇道に入ったところで、商売をするにはちょうどいい位置なのだ。在庫補充に向かう店もそこまで遠くないし、このあたりの治安もそんなに悪くはない。


 私がいつもお世話になっているのは、その大通り沿いにある『アルケー商会』だ。

「こんにちは、在庫の補充に来たのだけど、今いいかしら?」


「ああ、いらっしゃい。クシナちゃんじゃないか、久しぶりだね」

そう答えた若い青年は、この迷宮都市における三大商会の一つ、アルケー商会の商会長だ。

つまりトップである。


「いつもの通り、裏から入ってもらっていいから」

 商会長に促されて、私は裏口へと回る。


「ありがとうございます、商会長さん」

 私はそう言って、商会長と一緒にアルケー商会の中へと入っていった。


「補充はいつものでいいかい?」と聞かれたので、

「ええ、お願いします。回復薬は多めで」と頼んでおいた。


「わかった、準備するからそこに座って待ってて」

 言われるがまま、私は椅子に座って待つことにした。


(うーん、私の雑貨店と違って繁盛してるわね。まあ規模が違うし当たり前よね)

 ひっきりなしに従業員が右往左往していて、客の出入りも相当なものだ。活気があるのはいいことね。


 しばらくして、商会長が台車に在庫を載せて戻ってきた。

「それじゃあこれだね。代金は金貨3枚ってところかな」


「はい、いつもありがとうございます」

 私は金貨3枚を支払う。


「それで……物はそのカバンに?」

 商会長が少し腰が引けた様子で聞いてきた。


「そうですよ。ああ大丈夫、私が入れるから」

 ジャジャーン! と効果音のような音を口に出して、取り出したのは、世にも珍しい超希少アイテム『マジックバッグ』だ。

 中には謎の空間が広がっていて、見た目よりもはるかに大容量。しかも重さを無視するので、どれだけ詰め込んでも羽のように軽い。家一軒分の家具だって余裕で入る優れものである。


 ただし、呪われた物は入れられない。

なぜならこれも呪われたカバンだからだ。

私はこれを通称『丸呑みちゃん』と呼んでいる。


 これは入れるときはなんら問題無いのだ、問題は取り出すときである。

手を入れると腕ごと食いちぎられてしまう。

頭なんて入れて中を覗いたら大変だ、とても悲惨な絵図が想像できてしまう。


 つまり入れることが出来るけど、取り出すことが出来ない欠陥品である。

まったくもって面白い呪物である。


 まあ、どういうわけか私だけは取り出しても無傷なので、ものすごく重宝している。

もともとはこれ、迷宮のミミックっていうモンスターらしいけど

みんな知らないし大丈夫大丈夫。


購入したものを『丸呑みちゃん』の口に放り込み、商会長に軽く手を振ってアルケー商会をあとにした。


 せっかく外に出たんだし、何か美味しいものでも食べて帰ろうかな。

「今日は何を食べようかしら。絶世の美少女の私にふさわしい、ちょっと贅沢なランチも悪くないわね」

 なんて、のんきなことを考えていた時だった。


「クシナさん! ちょうどよかった、今お時間ありますか!?」


 背後から聞き覚えのある声がしたかと思えば、振り返る間もなく腕を掴まれていた。看板受付嬢だ!

返事をする間も与えず、私は彼女に半ば強制的に連行されていく。 せっかくの休日気分を台無しにされた私の抗議なんて、必死な顔をした彼女の耳には届いていないようだった。


 無理やり探索者協会に連れ込まれた私は、ちょっと怒ったフリをして聞いてみた。

「それで、何なのよ。説明!」


「すみません、クシナさん。本当に緊急の要件なんです」

看板受付嬢ことシエルは、申し訳なさそうにしながらも、私をギルドの奥にある個室へと案内した。


そこには、教会から寄贈されたという『聖布』に包まれた何かが置かれていた。

「これは……なかなか、呪いが強いわね」 聖なる布越しでも呪気がじわじわとにじみ出ている。相当なヤバい代物だということは、見るまでもなく分かった。


「ですよね…。これ、あまりにも不気味で、誰も近づけないんですよ」

シエルは私からかなり距離を置いて、部屋の隅っこで震えている。


「いつものように、鑑定と引き取りでいいの? 言っておくけどこれ、迷宮の願いによって歪んだ自然物じゃないわよ。誰かがはっきりとした殺意を持って作った『人工的な呪い』だわ」 私がそう指摘すると、シエルの顔がさらに青ざめた。


「はい、それでお願いします。とにかく、それをギルドから持ち出していただけるなら……」


「じゃいつも通り手数料も合わせて金貨20枚ね」と私は軽くウインクして鑑定を始めた。


 聖布を取り払い、あらためてその呪物を見てみる。

姿を現したのは、呪いさえ放っていなければどこにでもあるような、ちょっと大きめの「石ころ」だった。


「石…?ですか?」

 シエルが遠巻きに、恐る恐る確認してくる。


「そうね。ものすごく殺意を込められた石だわ。これ、どうしたの?」

(殺意の()()を持った()……ふふ、ふふふ……)

 私は学習している。美少女クシナは、決して顔には出さないのだ。


「それが……気づいたら受付に置いてあったんです。たぶん、探索者たちでごった返している隙に置かれたんだと思うんですけど」

 シエルは困り果てた顔で続けた。

「呪いの気配に気づいて、急いで協会備蓄の聖布で包んで、私を含めた三人がかりでここまで運びました。それでクシナさんの店に向かおうとしたところで、ちょうどご本人を見つけて……という感じです」


 なるほど、道理でさっきの連行に気合が入っていたわけだわ。


「三人で運んだのは正解だったわね。絶対じゃないけど、呪いってのは分散するものだし」


 私がそう言うと、シエルは少しだけ安心したように息を吐いた。


「うーん……これね、長い間そばにあるだけで、じわじわ衰弱して死んじゃう呪いよ。一年……いや半年くらいで死に至るんじゃないかしら。それくらい強力。しかもさっきも言ったけど、これ、誰かが意図的に作った呪いよ。ギルドの職員、誰か恨みでも買ってるんじゃない?」


「えっ……!」  シエルが顔を強張らせる。



「そう。この呪物を作った犯人は――看板受付嬢! あなただ!!」



「……いえ、違います。それに冗談でもそんなこと言わない方がいいですよ、本当に」

 シエルからごく真っ当なトーンで返されてしまった。


 また怒られちゃった。でも、一度は言ってみたいじゃんね。


「ごめんごめん。ほら、呪いの影響かな? なんか感情がおかしいのよ?名前が覚えられないのも多分そのせいだろうしね」

 そう、呪いが悪いのだ。私は悪くない。


「……はぁ。もういいですよ、クシナさんのそれは今に始まったことじゃないですし。……それで、本当のところはどうなんです?」

 呆れ顔のシエルが問い直してくる。


「んー、ほぼ間違いないと思うんだけど、置いた人物と作った人物は一緒。おそらく探索者の、女性ね。色んな感情が混じり合ってて分かりにくいんだけど……」


「!! 分かりました。ありがとうございます。女性の探索者はそう多くないですし、時間を絞ればある程度目星がつきそうです。助かります」

 シエルはそう答え、ギルドの金庫から鑑定料として金貨二十枚を取り出して渡してくれた。


「そう? で、これはどうする? 証拠品として置いておく? あまりお勧めはしないけど」

「いえ、持ち帰ってください。もし証拠として必要になったら、こちらからお店の方に伺いますから」


 私は金貨を受け取ると、そのまま素手で石ころを掴んで帰ろうとした。

「ちょっと! クシナさん、せめてお店に帰るまでは聖布にくるんで持っていってください!」

看板受付嬢に本日何度目かの喝を入れられてしまった。まあ、当然よね。  

クシナちゃん反省。



 数日後、クシナ雑貨店。

 いつものようにカウンターでくつろいでいる私のところへ、看板受付嬢ことシエルが事の顛末を報告しにやってきた。


 どうやら犯人は、私の鑑定通り女性探索者で間違いなかったらしい。

 動機はよくある痴話喧嘩……というか、一方的な逆恨み。同じパーティーの男性探索者に惚れていた彼女は、彼と恋仲になった協会の受付嬢が許せなかったのだという。

「受付嬢が死ねば、悲しむ彼を私が慰めてあげられる」なんて、なんとも短絡的で盲目的な犯行だ。

そういえば鑑定したとき、ドロドロした嫉妬の念が石にこびりついていたのを思い出す。


「それにしても、ずいぶん早く解決したのね?」

 私が尋ねると、シエルは少し疲れたような顔で答えた。


「そうですね。協会長がかなりの圧力をかけたみたいで、すぐに国が動いてくれたようです。職員の命に関わることですから」


「ふーん。まあ、何にせよ解決してよかったわね」


「はい。では、私はまだ仕事が残っていますので、これで失礼します」

シエルはそう言って、忙しなく帰っていった。


 一人残された店内で、私は棚に置いたあの石ころを眺める。

うーん、それにしても。あの呪いの強さ、ただの探索者がそう簡単に作れるものじゃないと思うんだけどなぁ……。


 確かに嫉妬の想いは強かった。けれど、あれは素人が偶然生み出せるような物じゃないような…。

何か別の……呪いの作り方を教えたり、力を増幅させたりする方法を手ほどきするような存在がいてもおかしくない気がする。


「……まあ、私には関係ないか」


 大きく背伸びをして、私は昼寝をしようと看板を閉店中にして、二階のベッドへ向かうことにした。


 美少女には良質な睡眠が必要なのである。


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