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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第一章 人工呪物編

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3 ぼっちじゃないし

よろしくお願いします。


 私は考え直した。

「呪いの装備で固めて魔物に遭遇しないなら、その隙に階層をくまなく探索して、お宝や遺品を根こそぎ集めればいいじゃない」 名案だと思った。

だが、結果は散々だった。


 どれだけ歩き回っても、なぜかアイテム一つ見つからない。それどころか、魔物も出ない平和な道中で初心者用の単純な罠に引っかかり、死ぬ思いをして命からがら逃げ出す始末だった。


  けれど、そこで諦める私ではない。 ソロでダメなら、パーティーだ!と


 探索者協会では、気の合う者同士で組んだり、足りない役割を補い合ったりするパーティー募集が盛んに行われている。

 専用の掲示板もあるし、職員も安全のためにパーティーで迷宮に潜ることを推奨している。

もちろん一人当たりの取り分は減るけれど、仕方のないことだ。

誰だって金より命である…多分。


 しかし、ここでも問題が発生した。 どうやら私の美貌に見惚れて、みんな戦闘に集中できなくなるのが怖いらしい。掲示板で募集をかけても誰一人として応募に来なかったし、私の方から声をかけようとしても、なぜかみんな私を避けるように逃げていくのだ。


「みんな、そんなに人見知りなのかしら?」 まったく、絶世の美少女である私にそこまで遠慮しなくてもいいのに。私は顔が良いだけでなく、性格だって最高に良いのだから。



「また、昔の思い出か……」


 どうやらうたた寝をしていたらしい。見ていた夢の余韻を引きずりながら、私は口元のよだれを軽く拭って席を立った。

 ティーカップを用意して、紅茶を淹れる。

 もちろん、これはどこにでもある普通の茶葉だ。呪いの品でも、いわくつきの物でもない。

勘違いしないでほしいのだが、この「クシナ雑貨店」はあくまで普通のお店なのだ。呪物の鑑定や買取は、あくまで副業というか、たまにやっているだけである。


「副業なんだから、こっち方面の稼ぎはわざわざ国に申告しなくてもいいわよね」


 そんな独り言が口をついて出た、その時だった。


「そんな暴論、絶対にダメです。ちゃんと申告してください!」


 気が付けば、カウンターの前に修道服を着た女性が立っていた。

「おや? まだ寝ぼけているのかな。知らない間に………シスターちゃんがいるわ」

「ごまかさないでください。脱税なんて絶対ダメですからね! このお店が無くなったら私だって困るんですから。……それに、私の名前を間違えるってどういうことですか!? 見た目に引きずられすぎです。私の名前はシエスタですよ。まったく、何度目だと思ってるんですか…」


 シエスタは、ぷんぷんと怒りながらまくしたててくる。

「すまないわね。私は朝に弱くて……」 「もう夕方です!!」


 絶世の美少女である私の余裕の笑みも、彼女の鋭いツッコミの前では少し形無しだった。


「まったく……。昼頃には教会に来てくれるって話だったはずですよ」

シエスタは腰に手を当てて、呆れたように私を睨む。


「ごめんなさいね。私って忘れっぽいでしょ? ほら、あなたの名前を忘れちゃうくらいだし」

「……まあ、わざとじゃないのは分かってますから、もういいですけど。本当に、呆れるのを通り越して感心しちゃいますよ」


 私は別に、呪いの品を収集したいとか、飾って眺めたいなんて趣味は持っていない。 ただ呪いへの耐性があって、中身を鑑定できるから、成り行きで引き取っているだけだ。 けれど、ひたすら引き取ってばかりだと、さすがに店のスペースがなくなってしまう。


 そこで彼女たちの『教会』の出番だ。あっちの探索者『協会』とは別物だから注意してほしい。 あっちには神聖さの欠片もない。


 教会には『聖遺物』と呼ばれるものが祀られていて、その周囲に呪物を置いておくと、長い時間をかけて呪いを浄化してくれるらしいのだ。 そうなれば、最終的にはデメリットが消えてメリットだけが残る、最高級の品に生まれ変わるというわけだ。


 浄化が終わった品物は、新たに立派な「銘」を与えられて、オークションに出されたりどこかの富豪に売りさばかれたりしているはずだ。デメリットが消えた元・呪物は、今やただの超高性能なレアアイテム。多分かなりの高値がつくんだろうと思う。


 もっとも、教会が最初から探索者の呪物を直接引き取ってくれないのには理由がある。

どういう理屈かは知らないけれど、あそこの浄化システムは「呪いの効果を正しく理解している必要がある」というのが条件らしく、正体不明のままでは聖遺物による浄化が始まらないらしい。

(うーん、よく分からん)


 それはともかく、危険な呪物を抱えたまま教会まで運べる人間なんて他にいないから、当然のように私の仕事になっている。


「それじゃあ、嵩張らなくて呪いもそこまで強くない物から持っていくわね」


 私はそう言って、裏へ移動して適当に呪物をカバンの中へ無造作に放り込んでいく。ぽんぽんぽんぽんと軽い音を立てて収まっていくそれらは、普通の人なら触れるだけで発狂しかねない代物だ。


「わ、私は外で待っていますね……!」


 シエスタは早々に店の外へ避難してしまった。

教会勤めのシスターのくせに、やっぱり呪いの品は怖いのかしら。私に言わせれば、迷宮にある初心者用の罠の方がよほど恐ろしいんだけど…。


 戸締まりをきっちり済ませてから、私は坂の上にある教会を目指して歩き出した。 道ゆく人々が、私の前から左右に避けていく。なんだか貴族にでもなった気分だ。最高にテンションが上がる!


「そりゃあ、それだけ嫌な気配を漂わせていれば、そうなりますよ」


 少し後ろからシエスタが声をかけてくる。もっとも、私と会話をするにはいささか距離を空けすぎているような気がするけれど。


「美少女オーラが強すぎるのかもね」


 私が大真面目にそう答えると、どこからか深い溜め息が聞こえた気がした。 そんなやり取りをしながら坂を登り切ると、ようやく目的地の教会にたどり着いた。


 教会に着くと、私はさっそくカバンを逆さにして激しく振った。

 中に入っていた呪物たちが、床の上にごろごろと転がり落ちる。決して一つずつ出すのが面倒なわけじゃない。「効率的」だといってほしい。


「また、そんな雑に……」

 私の性格を知っているのか、シスターちゃんは諦めたようにその様子を見守っている。


「だいたい、こんな所かしらね」

 聖遺物の周りに呪物たちを適当に並べていく。転がってちょっと離れた呪物は、足でちょいちょいっと移動させた。


「はぁ……もう…。それでいいです、ありがとうございました、クシナさん。すぐには浄化されないので、またしばらくしたら連絡しますね」

シエスタはそう言ってお礼を言った。


 その時だった。 「誰か! 誰かいないか!」  教会の扉が勢いよく開いて、一人の倒れた探索者が運び込まれてきた。


 横にいたシエスタは、すぐにその探索者の元へ駆け寄った。

「私がこの教会の司祭、シエスタです。どうなさいましたか?」


(こんな状況なのに、シスターちゃんで司祭ちゃんでもあるんだな……なんて考えてしまう私はどうかしている) もちろん、声には出していないけれど。


 横にいたのは同じパーティーの仲間だろうか。男が司祭ちゃんに事情を話している。魔物の呪いを受けて、その魔物自体は倒したものの、呪いだけがどうしても解けないのだという。


 司祭ちゃんはすぐに浄化を試みたけれど、どうもうまくいかないみたいだった。

彼女は困り果てた様子でこちらを見て、声をかけてきた。

「クシナさん、お願いできませんか?」


「私、浄化なんてできないわよ?」

「どんな呪いかだけでもいいんです。私も、詳しく正体が分からないと浄化の手がかりが掴めないので」


 私は物や食べ物と同じように、人にかかった呪いも鑑定することができる。 …まあ、「引き取り」はごめんだけどね。


 私は司祭ちゃんに「金貨10枚ね」と宣言して、鑑定を始めた。



「あははー、面白いー!」

 ついつい声に出して笑ってしまった。絶世の美少女である私の、ちょっと良くない癖ね。

司祭ちゃんにキッ!と怖い顔でにらまれてしまった。ごめんごめん、反省してる。


「それじゃあ、鑑定結果を言うわね。あなた、普段は弓をよく使うでしょ?」

「……ああ……。そうだ……」 倒れている男が、苦しそうに声を絞り出す。


「それで、迷宮の同じ場所でずっと同じモンスターを倒し続けてる。呪いを受けたのは……真っ黒で大きな鳥のモンスターじゃない?」

 横にいたパーティーの男が、驚いたように答えた。

「ああ、その通りだ。こいつは弓の腕がすごく良くてな。第三階層の川にある岩場を縄張りにしてる『ブラックホーク』を狙い撃ちにしてるんだ。経験値もうまいし、あいつらが好む岩場があるらしくて、そこに止まった瞬間に仕留めるのを繰り返してた」


「そのブラックホークたちの怨念が、この男に溜まってるわ。モンスターからあからさまな恨みを買うなんて、一体どれだけ殺したのよ。あーおかしい」


 私が笑いながら言うと、シエスタは納得したように頷いた。

「わかりました、クシナさんありがとうございます。ブラックホークの怨念を鎮める方向で儀式をすればいいのですね。助かります」

 シエスタは手短にお礼を言うと、すぐに浄化の準備を始めた。


 司祭ちゃんが何やら長ったらしい詠唱を口にして、浄化の儀式を始めた。 本当はさっさと帰りたかったけれど、まだ鑑定料の金貨をもらっていない。私はしぶしぶ、儀式が終わるのを待つことにした。


 ようやく儀式が終わると、倒れていた男の呼吸がいくぶんか楽になり、気味の悪い痣のような呪いも綺麗に消えていた。

 司祭ちゃんは澄ました顔で「これに懲りたら気をつけてくださいね。体力が戻るまで、ここでゆっくり休んでいくといいですよ」なんて聖職者らしいことを言っている。

 でも、彼女がちゃっかり金貨30枚ほど受け取っているのを私は見逃さなかった。


 結局、私は司祭ちゃんからそのうちの10枚を分けてもらって、とっとと自分の雑貨屋へ帰ることにした。


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