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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第二章 聖遺物編

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24 ジャンクフード巡り


「こんにちは。ここがクシナ雑貨店ですね。……はじめまして。サンモニカ大聖堂から参りました、司教ルキウスと申します。以後、お見知りおきを」


「こんにちは。……まさか本当に、自分から足を運んでくるとは思わなかったわ」


 私は目の前に立つ男、ルキウスと名乗った司教をまじまじと観察した。 短く整えられたプラチナブロンドの髪に、知的な印象を与える眼鏡。司教という地位の割には随分と若く見えるわね。白を基調とした司教服に走る金色のラインが、彼自身の持つどこか浮世離れした清潔感を際立たせている。


 物腰は柔らかく、毒気のない微笑みを浮かべてはいるけれど。……この手のタイプが一番食えないのは、経験則で分かっているわ。


「いえいえ。私がお会いしたいと願い出たのですから、こちらから伺うのは当然のことですよ」


 ルキウスは私の驚きをさらりと受け流すと、事もなげに言ってみせた。その謙虚さが逆にお偉いさんとしての格の違いを感じさせて、少し癪に障るわね。


「それで? 一体何の用かしら。見ての通り、私はただの美少女な雑貨屋店主よ。中央の司教様が直々に挨拶に来るような大層な身分じゃないわ」


 私の皮肉混じりの問いかけに対し、ルキウスはすぐには答えず、ふっと視線を店内の棚へと向けた。


「……それにしても、良い雰囲気の雑貨屋ですね。広すぎず、それでいて隅々まで手入れが行き届いている。とても居心地が良い」


 彼は棚に並ぶどこにでもありそうな日用雑貨や小物を眺め、心底感心したようにそう言った。 奥の倉庫にある「いわく付き」の品々なんて、この場所からはこれっぽっちも感じられないはず。それなのに、彼はまるでここが特別な場所であるかのように、穏やかな笑みを浮かべている。


「いえ、失礼。……そうですね、私個人として、あなたという存在に興味があったからです」


「あら、ナンパ? 残念だけど、司教様は私の好みじゃないわね」


 私がそっけなく返すと、彼は少し意外そうにした後、おかしそうに笑った。


「ふふ、それは残念。振られてしまいましたか。……シエスタさんやコーデリア様からあなたのことは聞いていましてね。実に素晴らしい方だと」


(司祭ちゃんにドリルちゃん……。あの二人、余計なことを吹き込んでくれたわね)


「そうでしょうね。二人とも、私の美少女っぷりを絶賛してたでしょ?」


「ふふ、あなたは面白い方ですね」


 ルキウスは一歩引いて、丁寧な仕草で一礼した。


 「本日はただ、ご挨拶に伺っただけですよ。それでは、私は式典の準備がありますので、これで失礼します」


 彼はそのまま出口へ向かったが、扉を開ける直前で足を止め、こちらを振り返った。


「……噂通り、あなたは実に『よく見て』いらっしゃる。 私のような者にも物怖じしないその眼差しは、なかなか得難いものですよ」


 穏やかな笑みを崩さぬままそれだけを告げると、彼は今度こそ店を出て行った。


「…………」


今の、どういう意味かしら。 私の物怖じしない態度を褒めただけ……とも取れるけど。


結局、私の『眼』が普通じゃないってことを、それとなく確認しに来たってわけね。 本当に、食えない男だわ。



 司教が去った後、店内に再び静寂が戻った。私は彼の背中を見送ったまま、しばらくの間、何とも言えない居心地の悪さを感じていた。


「……なんか、ムカつくわね。完全に彼のペースで、軽くあしらわれた感じだわ。あの澄ました顔に一発グーパンしてやりたい気分」


 思わず口に出して毒づくと、少しだけ胸がすいた。 軽く一呼吸置いて、私は乱れた気持ちを切り替えるように小さく首を振る。


「まあいいわ。あの眼鏡司教とは、もう二度と顔を合わせることもないでしょうしね。……さあ、気を取り直して美味しいものを食べに出かけるわよ!」


 自分に言い聞かせるように呟くと、私は昨日から準備していた『臨時休業中』の札を入り口に掲げた。 しっかりと鍵を閉め、金貨の重みをポケットに感じながら、私は賑やかな大通りへと足を踏み出した。



 大通りに一歩踏み出すと、そこは普段の様子とは打って変わって、ものすごい熱気だった。道の両脇には数えきれないほどの出店や屋台が並び、子供から大人まで誰もが浮かれた様子で歩いている。


(……別に司教様が来たからって、観光客が急に増えるわけでもないでしょうに)


 少し不思議に思ったけれど、すぐに理由を察した。今は迷宮が閉鎖されているから、数千人はいるはずの探索者たちが全員、街の中で暇を持て余しているのだ。これだけ賑わうのも当然といえば当然ね。


(それにしても、あの眼鏡司教……お供の一人も連れずに店に来たのかしら。外に待たせていた? ……いけないわ、あの男のことを考えるだけでイライラしてくる)


 せっかくの休暇が台無しだわ。当初予定していた「高級料理の食べ歩き」とは少し違うけれど、まずはこの活気に乗って屋台巡りでも楽しむとしましょうか。


 目の前の屋台からは、明らかに健康には悪そうな、けれど食欲をそそるこってりとした肉の匂いが漂ってくる。私は吸い寄せられるように、その屋台の前で足を止めた。


「おじさん、肉串一本お願いするわ」


「はいよ! お、なかなかの別嬪さんだね」


「ふふ、そうでしょ。よく分かってるじゃない」


 単純なもので、おじさんの何気ない褒め言葉ひとつで、私の気分はすっかり上向いた。


 アイスキャンディにクレープ、それからチョコ棒。一通りの甘い屋台を制覇したところで、案の定というか何というか、今度は無性にしょっぱいものが恋しくなってきた。


「私の『健康美食期間』は、一体どこへ消えたのかしら……」


 我ながら計画性のなさに呆れつつも、鼻をくすぐる香ばしい匂いに誘われて、ふらふらと歩を進める。 たどり着いたのは、式典会場となる広場のすぐ脇だった。そこで大きな鍋を囲み、手際よくスープを煮込んでいたのは――あろうことか、さっき別れたばかりのあの眼鏡司教、ルキウスだった。


「…………嘘でしょ」


 よく見れば、その隣では司祭ちゃんも一緒になって、忙しそうに何かの準備に追われている。 式典の準備って、まさか司教自ら炊き出しのスープを作ることだったわけ?


 ふと視線が合うと、こちらに気づいた司祭ちゃんがパッと顔を輝かせ、ぶんぶんと手を振ってきた。


「クシナさーん! こんにちは。よかったら無料で配っているスープ、いかがですか?」


「さっきぶりですね。美味しくて体も温まりますよ、どうぞ」


 眼鏡司教――ルキウスも、さも当然のように私の分を掬い、木皿を差し出してきた。 あんなに不遜な態度をとった直後に、彼から食べ物を受け取るのは正直(しゃく)だけど……まあ、タダなら話は別ね。私は素直にそれを受け取ることにした。


 一口啜ってみれば、野菜の甘みが溶け込んだ優しい味が口の中に広がる。

(……普通に美味しいじゃない。悔しいけれど)


 内心でそんな毒づきを漏らしたが、彼にそれを悟られるのは癪に障る。私はルキウスを視界から外すように、あからさまに無視して司祭ちゃんへと向き直った。


「……で、何やってるのよ、司祭ちゃん。忙しいから来れないなんて言ってたのに」


「あちらの式典の方は、領主様や中央の神父様たちが進めてくださっているんです」


 司祭ちゃんは鍋をかき混ぜる手を休めずに、少し誇らしげに語り出した。


「それで、空いた時間でこちらを。司教様が『せっかくの機会だから、費用は大聖堂側で持つので炊き出しを行ってはどうか』と提案してくださったんです」


「へぇ、自腹で?」


 私が少し意外に思って聞き返すと、彼女は深く頷いた。


「はい。この迷宮都市に住むすべての人に……迷宮孤児の子たちも、立場の違いも関係なく、みんなに温かくて美味しいスープを飲んでほしい、とおっしゃって。本当に、素晴らしい方ですよね」


 そう言って司祭ちゃんは、隣で黙々と作業を続けるルキウスに心酔しきったような視線を向けた。


(……なるほどね。市民への人気取りか、あるいは本当にただの聖人君子か)


 私は手元の木皿を見つめた。 確かに、このスープにはそんな「思惑」を感じさせないくらい、純粋に優しい味がしている。それがまた、あの眼鏡司教の底の知れなさを強調しているようで、少しだけ喉に引っかかる感じがした。


「ほら、ここでは誰も私のことなんて知らないでしょう? この機会に皆さんの好感度を上げておきたいと思いましてね」


 ルキウスは隠す素振りも見せず、冗談めかした口調でさらりと言ってのけた。


(……本当に食えない男ね。本心なんでしょうけど、その裏に何か別の意図を隠しているような気がしてならないわ)

 

 そんな私の内心を知ってか知らずか、彼は穏やかな笑みを絶やさない。


「ああ、よかったらこの後で式典を行うので、見て行ってくださいね。きっと退屈はさせませんから」


 ルキウスの誘いを、私はあからさまに無視した。 最後の一口を飲み干し、空いた木皿を見つめて「ごちそうさま」と心の中で呟くだけに留める。


「クシナさん、よかったら見てください! 私も一生懸命準備したんです」


 今度は司祭ちゃんが、期待に満ちた目で私の顔を覗き込んできた。……全く、あっちの眼鏡の誘いなら蹴飛ばすところだけど、この子にそんな目をされたら弱いじゃない。


「……そんなに言うなら、仕方ないわね。まあ、気が向いたら、暇だったら見に行ってあげるわ」


「本当ですか? ありがとうございます!」


 嬉しそうに笑う司祭ちゃんを横目に、私は「じゃあね」と手を振ってその場を去った。



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