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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第二章 聖遺物編

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21 おぬしも悪よのう

クシナ雑貨店。 午後の柔らかな光が差し込む店内に、私の指示と気の抜けた返事が交互に響く。


「あ、それ。そっちの棚に並べておいてね」

「あーい」


「あと、こっちの床の清掃もよろしく」

「りょーかい」


「ついでに、紅茶のおかわりもお願い!」

「それは絶対にバイトの範疇を超えてるんじゃない!? クシナっち!」


 あの騒動以来、私はマニアちゃんを時々店に呼んで、バイトとして雇ってあげている。

何しろ彼女には、まだ山のような借金が残っているからね。

もちろん給料はちゃんと弾んでいるし、私って美少女なだけじゃなく、本当に慈悲深い店主だと思うわ。


「私さ、こう見えても探索者なんだよ? 本来の仕事は迷宮に潜って、お宝をザクザク見つけることなのー!」 マニアちゃんは、はたきを片手に不満をぶつけてくる。


「そんなの知ってるわよ。だから『たまに』しか呼んでないんじゃない」

 私は淹れ直された紅茶を啜りながら、当然のことのように言い返した。

「それに、嫌だったら別に無理にとは言わないわよ?」


「嫌じゃないけど……嫌じゃないんだけどさぁ。なんだか、ものすごーく納得いかなーい!」

マニアちゃんは唇を尖らせて不満を露わにするけれど、結局は大人しく掃除の続きを始めた。 全く、この調子でしっかり働いて、早く借金を返してもらわないとね。


 掃除の手が止まったのを見計らって、ふと気になっていたことを聞いてみた。


「そういえばマニアちゃん。あんたがばらまいたあの人工呪物、どうしたの? ちゃんと回収したんでしょうね」


「うん、もちろんだよ。完璧に回収済み!」


 マニアちゃんは自信満々に胸を張った。 そ、それならいいわね。あんなものがいつまでも街に残っていたら、呪物鑑定士としての寝覚めが悪いもの。


 私が安堵の息を漏らす、その間もなかった。


「――教会がね!」


「……は?」


 私の短い疑問符をかき消すように、店の扉が勢いよく跳ね上がった。カランカラン、と激しくベルが鳴り響く。


「クシナさぁぁん! 聖遺物庫がパンパンなんです! もう入りきりません、助けてくださいぃぃ!」


 涙目で店に飛び込んできたのは、息を切らした司祭ちゃんだった。



 私はすぐに二つ返事で頷いた。


「いいわよ、受けてあげる」


「ありがとうございます、クシナ様……!」

 司祭ちゃんが救い主でも見るような目で私を見つめてくる。けれど、私は美少女なだけじゃなく、しっかりとした商売人でもあるの。


「まあ、でもタダというわけにはいかないわよね。どれだけ溜まっているか分からないけど、金貨一〇〇枚で手を打ってあげるわ。これでも出血大サービスなんだから」


「きん……か……ひゃ、百枚……っ!?」

 司祭ちゃんが、まるでこの世の終わりみたいな顔で絶句する。


「いい? 普段、私は一件の鑑定につき金貨一〇枚はもらっているのよ。山積みになった呪物を片っ端から見て、今日一日私を好きに使い倒すんだもの。一〇〇枚なんて安すぎるくらいだわ」


「うぅ……す、少し考えさせてください……」

 司祭ちゃんはそう漏らすと、その場でぶつぶつと計算を始めた。 教会の今月の予備費がこれくらいで、大聖堂に泣きつけば……いや、でも聖遺物庫が崩壊するよりは……。


 彼女が必死に算盤を弾いている隙に、私は隣にいるマニアちゃんの耳元へ顔を寄せた。


「ねえ、マニアちゃん。あんたが教会に押し付けたってことは、中身の『想い』はもうほとんど抜け殻――つまり浄化済みってことでしょ? あんたなら、少しでも呪いが残っていたら自分で回収するはずだものね」


「あはは、さすがクシナっち。お見通しだね」

 マニアちゃんがニヤリと悪戯っぽく笑う。やっぱりね。


「いい? 適当に話を合わせなさいよ。大して呪いも残っていないガラクタを『鑑定』するだけで金貨一〇〇枚。……ふふ、大儲けだわ」


 私たちがこっそり密談を交わしていると、司祭ちゃんが悲壮な決意を固めた顔で顔を上げた。


「わかりました……! 金貨一〇〇枚、お支払いします。どうか、お願いします!」


「ただ、今は持ち合わせがないので……教会でお渡ししますね」


 司祭ちゃんは、財布を寂しそうに見つめながらそう言った。 まあ、その場で金貨百枚を即金で出せる司祭なんて、それはそれで問題だしね。教会まで取りに行く分には構わないわ。


「わかったわ、私に任せなさい。……いくわよ、マニアちゃん」


 私が声をかけると、隣でニヤニヤしていたマニアちゃんが「はーい」と気の抜けた返事をした。 私は手際よく店の看板を『準備中』にひっくり返し、戸締まりを済ませる。


「……金貨百枚、楽しみね」


 心の中でそう呟きながら、私は司祭ちゃんとマニアちゃんを引き連れて、街の大通りを教会へと向かって歩き出した。 爽やかな朝の空気の中、これから始まる「ボロ儲け」の仕事に、私の足取りはいつにも増して軽やかだった。


 教会に到着し、私たちは真っ直ぐ聖遺物庫へと向かった。


 重厚な扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは部屋を埋め尽くさんばかりの物、物、物の山……。床はおろか、棚の隙間までが奇妙なガラクタで埋め尽くされている。

(マニアちゃん……あんた、一体どれだけ街にばらまいたのよ)


 あまりの惨状に、後悔しかけた美少女の私だったが、ここで引き返しては金貨百枚が泡と消えてしまう。私は小さく溜息をつくと、鑑定の準備に取り掛かった。


「……溜めに溜めたわね。まあ、さっさと始めるわよ」


「はい、どうかよろしくお願いします!」


 司祭ちゃんが深々と頭を下げる。

部屋の隅っこではマニアちゃんが、「うへへー」と締まりのない笑みを浮かべながら、通せんぼ石像こと――通称『困ったちゃん』――に愛おしそうに頬ずりをしていた。


 この子、本当に反省しているのかしら……。


 片端から『鑑定』を済ませていくと、案の定、ほとんどの物はすでに中身が抜け落ちたただのガラクタだと分かった。


「……はい、これで全部。ここの山にあったものは、もう呪いの気配なんて微塵も残っていない抜け殻よ」


 私がそう告げると、司祭ちゃんは弾かれたように顔を輝かせた。


「本当ですか!? ありがとうございます、クシナさん! ああ、良かった……。これだけ数があれば、中央の教会へ送ることで多額の寄付金が期待できそうです!」それに司祭ちゃんは続けて


「これ、全部中央のオークションに回せるんです! 浄化済みの呪物は『加護付きの品』として、それはもう高値で……! 中央での私の評価も上がって、予算も増えて、もう最高です!」


 鼻息を荒くしてガラクタを袋に詰め込む司祭ちゃん。その姿は聖職者というより、転売に成功した商人のそれだった。


「……美少女の私の鑑定を、そんなマネロンの証明書代わりに使うなんて。金貨百枚じゃ足りないくらいね」


(……まあ、あの子なりに現金な計算があったわけね)

 聖職者らしからぬ喜びように少し呆れつつも、山積みのガラクタが整理され、ようやく床が見えてきた聖遺物庫を見渡す。


 広くなった部屋の中央。そこには、仰々しく安置台に載せられた『聖遺物』が静かに鎮座していた。


 そういえば、聖遺物って一体何なのかしら。呪物でないのなら、本来私の鑑定眼が反応することはないはずなんだけど……。


 けれど、鑑定士としてのさがか、それともただの好奇心か。私は何の気なしにその聖遺物へと意識を向け、深く『鑑定』してみることにした。


「……っ、え?」


 思わず、喉の奥で小さな声が漏れたわ。 あり得ない。私の『鑑定』が、あろうことか教会が崇める『聖遺物』に、はっきりと反応してしまっている。


 これ、世間では聖遺物なんて呼ばれているけれど、本質的な仕組みは『呪物』と何ら変わりないじゃない。ただ、想いの向いている「方向」が違うだけ。 視線の先に映るのは、全てを漏らさず救いたいという、狂気的なまでに強い『慈愛』の想いが籠もった塊。


 けれど……おかしいわね。その純粋すぎる輝きの裏側に、どこか決定的に噛み合わない、ちぐはぐな違和感が混ざり込んでいる気がする。


 そして何より不可解なのは、あの子のことよ。 呪物の気配には誰よりも敏感なはずのマニアちゃんが、どうしてこの『聖遺物』には何の反応も示さないのかしら。目の前にこんな特大の『想い』が鎮座しているっていうのに、彼女の目にはこれが、ただの置物にでも見えているというの?


 司祭ちゃんが「寄付金……中央への報告書……」とブツブツ言いながら、熱心にガラクタを選別している隙に。私は、困ったちゃんと遊んでいる?マニアちゃんも元へ近づき、声を潜めて耳打ちした。


「ねえ、マニアちゃん。……あんた、あの『聖遺物』のこと、正直どう思ってるの?」


 私の問いに、彼女は少しだけ視線を安置台へと向けた。 するとマニアちゃんは、まるでお昼の献立でも選ぶような、拍子抜けするほど軽い口調でとんでもないことを口にした。


「あー、あれね。……あれこそがさ、本当の『人工呪物』なんだよ」


 マニアちゃんの声は、どこか冷めていた。


「天然の呪いにはさ、ドロドロしてても『理由』があるでしょ? でもあれには何にもない。ただ『救済』っていう役割を果たすためだけに、誰かが計算して造り上げた『空っぽの仕掛け』みたいなものだよ。……あんなの、私からすればただの不気味な置物。人間臭さが一ミリもなくて、鳥肌が立っちゃうよ」


 ――心臓が、嫌な音を立てたわ。 教会の深奥に鎮座する救いの象徴が、誰かの手によって意図的に造り上げられた『呪い』だなんて。


「あんた、あんなに呪物マニアなのに詳しいわね」

私の中でマニアちゃんが奇品マニアからランクアップした瞬間だった。


「未練は救われるべきだけど、最初から救われるために用意された感情なんて、ただの『お芝居』だもん」


 チラリと視線を向ければ、司祭ちゃんはいまだに楽しげな様子で、ガラクタの山から「お宝」を選別している最中だった。


「これも中央へ送れば……ふふ、きっと予算を増やしてもらえますね」


 なんて頬を緩ませている姿を見る限り、目の前にある『聖遺物』のどす黒い本性なんて、彼女は夢にも思っていないのでしょうね。まあ、知らぬが仏という言葉もあるし。わざわざ彼女の純粋な信仰心を粉砕してあげる義理も、メリットもないわ。


 そんな私の思考を断ち切るように、司祭ちゃんは満足げにパッと立ち上がった。


「クシナさん、本当にありがとうございました! おかげで庫内も私の心もスッキリしました。……では、すぐにお約束の代金を持ってきますね!」


 彼女はもう一度深々と頭を下げると、胸を躍らせたような軽い足取りで、聖遺物庫から出て行った。


「まあ、結果的に私も司祭ちゃんも潤ったわけだし、ウィンウィンってやつよね。……ただの詐欺師みたいな後味にならなくて、本当によかったわ」


 その後、司祭ちゃんはすぐさま息を切らして戻ってきた。私の手に手渡されたのは、ずっしりと重みのある革袋。中を覗かなくても、その重厚な感触だけで金貨百枚の確かな重みが伝わってくる。


「……はい、確かに。仕事は完遂したわ」


 私は満足げに口角を上げると、革袋をしっかりと懐に収めた。 私は奥の方でまだ未練がましそうに困ったちゃんを見ているマニアちゃんの首根っこを掴むようにして、出口へと向かった。


「また何か困ったことがあったら、相談にいらっしゃい。……もっとも、次に受けるか受けないかは、私の気分と依頼料次第だけどね」


「はい! 次もぜひ、クシナさんにお願いしたいです!」


 司祭ちゃんは最後まで健気に、そしてどこか晴れやかな顔で私たちを見送ってくれた。 教会の重い扉が閉まり、ようやく外の爽やかな空気が肌をなでる。美少女には、やっぱりこっちの空気の方がお似合いだわ。


「ねえクシナっちー、最後にもう一回だけ聞くけど……」


 隣を歩くマニアちゃんが、上目遣いで私を覗き込んできた。


「あの『困ったちゃん』、やっぱりうちに置くのダメ?」


「ダメに決まってるでしょ……ほら、さっさと店に戻るわよ。夕方の営業が待ってるんだから」


 私は彼女の泣き言をさらりと受け流し、金貨の重みを楽しみながら、賑やかな街並みへと歩みを進めた。


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