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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第一章 人工呪物編

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17/25

17 お宝さがし

クシナ雑貨店。


「やっほー! クシナっち、いるー?」


 元気な声と同時に、勢いよく扉が開け放たれた。現れたのはもちろん、マニアちゃんことアニマだ。


「……昨日の今日で、あんたも本当元気ね」


 私はカウンターに頬杖をついたまま、呆れ半分で応える。昨日あれだけ重い石像を運んだっていうのに、疲れなんて微塵も感じさせないその体力、少しだけ分けてほしいわ。


「ほらほら、昨日言ってたじゃん! 見てほしいものがあるって」


 アニマは弾むような足取りでカウンターまで来ると、待ちきれないといった様子で身を乗り出してきた。


「そうね。……まあ、昨日の件もあるし、今日の鑑定料はタダでいいわよ。特別サービス」


「えっ、マジ!? さすがクシナっち、太っ腹ー!」


昨日のお礼を伝えると、彼女は分かりやすく目を輝かせて、懐から「それ」を取り出した。

あと、私は超理想体型だから。


「見てほしいのは、これなんだよね」


 差し出されたのは、ずいぶんと古びた一振りの鍵だった。 真鍮製か何かしら。所々が黒ずんでいて、長い年月どこかに放置されていたような、独特の重苦しい気配を纏っている。


私はその「鍵のようなもの」をそっと受け取り、鑑定を行った。


「あ、そうそう。聞くまでもないでしょうけど、それ、持って帰るのよね?」


「うん、もちろん! とーぜん!」


 マニアちゃんはいつもの元気な調子で即答する。私はその古びた鍵を指先で弄りながら、鑑定結果を伝えた。


「うーん……。これ、持っていると『どこかへ行かなければならない』っていう、謎の焦燥感に駆られる呪い?がかかっているわね。呪いというか、大切な約束の場所に辿り着けなかった未練、みたいなものを感じるわ。まあ、実害はなさそうだから持っていても大丈夫だと思うけど」


 そう言って鍵を返すと、マニアちゃんは受け取った鍵をじっと見つめて少し考え込み……あろうことか、私にこう提案してきた。


「よし、決めた! クシナっち、今からその『約束の場所』、一緒に探しに行こーよ!」


「はあ? 何言ってるのよ。そんな面倒くさいこと真っ平ごめんだわ。パスよパス」


 私は食い気味に断った。せっかく店でゆっくりしようと思っていたのに、正体も場所もわからない「未練の行き先」探しなんて、省エネ主義の私にはハードルが高すぎる。


「ええー、そんなこと言わずにさ。ねえねえ、クシナっち。昨日、あのおもーい石像を運んであげたの誰だったかなー? 教会まで、けっこー距離あったと思うんだけどなー」


 マニアちゃんはニヤニヤしながら、わざとらしく自身の肩を揉む仕草を見せる。


「ぐぬぬ……。確かに、あれは助かったけど。……何で私がそんな面倒なことに付き合わなきゃいけないのよ……」


 借りを返せと言わんばかりの態度に、私は言葉を詰まらせた。昨日の今日でそのカードを切ってくるとは、この奇品マニア、なかなかの策士だわ。


「はぁ……分かったわよ、行けばいいんでしょ、行けば」


 私は盛大なため息とともに、観念して両手を上げた。けれど、これだけは釘を刺しておかないと。


「でも、付き合うのは今日一日だけだからね。今日中にその『約束の場所』ってやつが見つからなかったとしても、延長は一切なし。いいわね?」


「おっけー、さすがクシナっち! 話がわかるー! じゃあ早速探しに行こう、おーっ!」


 私の念押しなんてどこ吹く風。マニアちゃんは拳を突き上げて、私とは正反対の異常なハイテンションではしゃいでいる。


「わかったから、そんなに騒がないの。すぐ準備するから、そこでちょっと待ってなさい」


 私は渋々ながらも、身だしなみを整え、探索に必要な最低限の道具を丸呑みちゃんに詰め込んだ。


 戸締まりを確認し、表の看板を「臨時休業」にひっくり返す。


「……よし、行くわよ」


 こうして私は、元気すぎる呪物マニアと共に雑貨屋を後にした。


とりあえず店から出たものの、私はふとした懸念をマニアちゃんにぶつけてみた。


「……ねえ。その鍵、具体的にどうやって使うつもり? まさかとは思うけど、手当たり次第に他人(ひと)の家の扉をガチャガチャして回るわけじゃないわよね?」


想像してみてほしい。昼間から見知らぬ二人組が自宅の鍵穴を弄っている光景を。通報不可避の恐怖でしかないわ。


「そんなわけないじゃん! 私の『呪物センサー』?によれば、これは鍵の形をしているだけで、物理的に差し込んで回すタイプじゃないと思うんだよねー。たぶん、その場所に近づけば何かしらの反応があるはずだよ!」


「何かしらの反応……。なんともあやふやな理論だけど、あんたのその『呪物バカ』ゆえの直感だけは否定しづらいのが困りものね」


 あてのない旅になりそうな予感がぷんぷんするけれど、こうして外に出てしまった以上、もう後戻りはできないわ。


「まあ、よくわからないけど……今日は付き合うって言っちゃったしね。案内は任せるわよ」


 私は諦めて、マニアちゃんの怪しいセンサーを信じて後に続くことにした。



 結局、大通りから路地裏まで一通り歩き回ってみたけれど、収穫はゼロ。 鍵は沈黙を貫いたままだし、私の足はそろそろ悲鳴を上げ始めているわ。


「……何の反応もないわね。ただ街中を無駄に歩いただけ。おかげで健康になっちゃいそうだわ」


 私は皮肉たっぷりに言ってみたけれど、マニアちゃんには全く響いていないみたい。それどころか、彼女は鍵をじっと見つめて真剣な表情で考え込んでいる。


「うーん、ここまで街の中を歩いても何の反応もないんなら……」


 ……スルーされたわね。まあ、それだけ本気ってことかしら。


「街の外に行くしかないね!」


「はあ!? ちょっと、嘘でしょ?」


 どんだけ歩かせるつもりよ。確かに「今日一日付き合う」とは言ったけれど、まさか街の外にまで連れ出される羽目になるなんて聞いてないわ。


「大丈夫だって、クシナっち! なんだかすぐに解決できそうな予感がするんだよねー」


 これだけ歩き回ったというのに、彼女は一切疲れを見せず、むしろこれからが本番と言わんばかりの満面の笑みを浮かべている。


「何の根拠もないじゃない……」


 ああもう、本当に元気ね。その根拠のない自信はどこから湧いてくるのかしら。でも、あんなに楽しそうな顔を見せられると、呆れを通り越して毒気を抜かれちゃうわ。



 街の外へと踏み出した私たち。広々とした景色が広がっているけれど、私の気分はちっとも晴れないわ。


「そういえばマニアちゃん、さっきからずっとその鍵を握りしめているけど大丈夫? 一応、呪いの品なんだからね」


 鑑定した身としては、その「焦燥感」に当てられて彼女の精神が削られていないか、少しだけ心配になったのよ。けれど……。


「あ、クシナっち! 外に出たらさ、『こっちに行かなきゃ』って想いがさっきよりずっと強くなった気がするよ! たぶん、あっちだね」


 私の心配をよそに、マニアちゃんはキラキラした目で遠くの山を指差すと、迷いのない足取りで坂を登り始めた。


……私の話、一文字も耳に入っていないのかしら。まあ、あれだけ元気に跳ね回っているなら、呪いより先に体力が尽きる心配はなさそうだけど。


 それにしても、まだ歩くっていうの? しかも今度は、舗装もされていない本格的な山道。お店のカウンターで優雅に過ごすのがお似合いの都会っ子美少女な私には、ちょっと……いえ、かなり無理があると思うんだけど。


 なんとか元気なマニアちゃんに着いていく私。


 するとマニアちゃんが、多分こっちと今度は茂みの中に入っていこうとする。


「え? 嘘でしょ、その茂みの中に入るの……?」


 目の前に広がる、手入れもされていないボサボサの草むらを前に、私は絶望的な気分になった。普通に嫌よ、あんなところ。絶対に変なゲジゲジとか潜んでるじゃない。


「無理無理、絶対無理! 私はあの……あの、たくさんの脚がわしゃわしゃ動くフォルムが本当に無理なのよ!」


 必死に抵抗して後ずさりしたけれど、マニアちゃんは私の抗議なんて一文字も聞いていなかった。 「大丈夫だってー!」という軽い返事とともに、私の手は鉄のような握力で掴まれ、そのままズルズルと茂みの中へ引きずり込まれた。


「ちょっ、待ちなさいって……! 私の美肌がっ、ローブがーっ!」


 枝や葉っぱをかき分け、半泣きで進むこと数分。 不意に視界が開けた。


「……あら?」


 そこは、外の喧騒が嘘のように静まり返った、不思議な空間だった。 大きな木の根元に、まるで誰かに大切に守られているかのように、小さな「宝物」たちが並べられていた。


 古びた子供のおもちゃ、どこかで拾ってきたようなキラキラした瓶の蓋、光を透かして輝くビー玉……。 それは大人から見ればただのガラクタかもしれないけれど、そこには確かに、誰かが大切にしていた「思い出」の気配が満ちていた。


 その瞬間、マニアちゃんの手の中で、鍵がふわりと光を失った。まるで長い旅を終えて、ようやく安らかな眠りについたかのように、それはさらさらと砂のような鉄の粉へと形を変えていく。


「……あ、終わっちゃった」


 マニアちゃんが寂しそうに呟く。けれど、すぐに何かを思いついたように私の方を振り返った。


「ねえクシナっち、回復薬持ってない?」


「え? 持ってるけど……どこか怪我でもしたの?」


 藪の中を強引に進んだから、どこか切ってしまったのかしら。 マニアちゃんは「後でお金払うから、一本ちょうだい!」と、珍しく必死な顔で詰め寄ってくる。


「分かったわよ、そんなに慌てないの」


 私は愛用のカバン「丸呑みちゃん」の口を開け、予備の回復薬を取り出して彼女に手渡した。するとマニアちゃんは、お礼もそこそこに蓋を開け、中の薬液をごくごくと一気に飲み干してしまった。


「え……? ちょっと、マニアちゃん!?」


怪我をしているようには見えなかったけれど、呆気に取られて見守る私の前で、彼女は空になった瓶を服の袖で丁寧に拭うと、地面にこぼれ落ちた「鉄の砂」を一つ残らずその中へ詰め込み始めた。


 砂を入れ終え、しっかりと蓋を閉める。


「……思い出だもんね」


 マニアちゃんは、鉄の砂で満たされた瓶を、壊れ物を扱うように大切そうに胸に抱きしめた。 その幸せそうな横顔を見て、私はようやく彼女が回復薬を欲しがった本当の理由に気づかされたのだった。


 大切そうに小瓶を抱えるマニアちゃんの姿を見て、私は鑑定士として、一応本当のことを伝えておくことにした。


「……マニアちゃん。それ、もう呪いの品ではないわよ」


 込められていた未練も、焦燥感も、場所を見つけたことで全て消えてしまった。今のそれは、ただの鉄の砂。何の力も持っていない、ただの物質だ。


「うん。……わかってるよ」


 マニアちゃんは小瓶をそっと撫でながら、穏やかな声で答えた。 分かっていて、なお彼女はそれを愛おしそうに持っている。そこに宿っていた「物語」を、彼女なりに受け取ったということかしら。


「……そ。ならいいわ」


 私はそれだけ言うと、深く追求するのはやめた。 しばらくの間、私たちはその不思議な広場で、風に揺れる木の葉の音を聞きながら静かに過ごした。


 あの秘密基地のような場所。 結局のところ、誰かに見つけてほしかったのか、それとも何かの理由でそこへ辿り着けなかった人の未練だったのか……。その真相は、もう誰にも分からない。 けれど、あの場所に眠っていた小さな「想い」は、マニアちゃんの手によってようやく救われたのかもしれないわね。


「都会っ子美少女」を自称する私にとって、山道はやっぱり過酷でしかなかったけれど、不思議と帰りの足取りは行きよりもずっと軽やかだった。


 私たちは沈み始めた夕日の光に包まれながら、ゆっくりと山を下り、住み慣れた街の喧騒の中へと戻っていった。

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