表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第一章 人工呪物編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/27

1 クシナ雑貨屋

よろしくお願いします。


 迷宮――それがいつから存在しているのかは、誰にも分からない。

どこまで深く続いているのかも不明で、中には恐ろしいモンスターや陰湿な罠が待ち構えている。見た目はただの室内のようなのに、一定の階層ごとに急に開けた森になったり、溶岩が流れる灼熱地帯になったりと、理屈の通じない摩訶不思議な空間だ。


 しかし、迷宮には人類を豊かにする金銀財宝や、病をたちどころに治す霊薬、精巧な装飾が施された貴金属などが眠っている。なぜそんな物があるのか、誰かが人を招き入れるために置いているのかは謎だが、一攫千金を夢見て危険な迷宮に挑む者は後を絶たない。 そしていつしか、未踏破の迷宮を囲うように村ができ、それが街へと発展して、迷宮都市「ファンダズム」と呼ばれるようになった。


 私もまた、このファンダズムで名を馳せる英雄になったり、一生遊んで暮らせる財を築いたりすることを夢見て、田舎から出てきた「探索者」の一人だった。 迷宮に挑むには、まず探索者協会に登録しなければならない。あまりにも死者が多すぎるため、勝手に入れないよう管理されているのだ。


 だが、どうやら私には絶望的に才能がなかった。 本来、迷宮の第一階層は「接待プレイ」と言われるほど弱い魔物しか出ず、罠も初歩的なものばかりだ。その分お宝も大したことはないのだが、迷宮が「もっと奥までおいで」と誘っているような、初心者に優しい作りになっている。 それなのに、私はその第一階層ですら満足に戦えなかった。


 そして迷宮に挑む探索者は、モンスターを倒すことで成長していく。単純に力が強くなったり、敵の動きがゆっくり見えるようになったり、体が軽くなって動きが速くなったり……。 しかし、私は神の悪戯か悪魔の呪いか、どれだけ戦っても一切成長することができなかったのだ。


 結局、探索者を諦めた私は、くすぶる気持ちを抱えながらもこの街で雑貨店を開くことにした。 表向きは普通の雑貨屋だ。探索に便利なランタンや回復薬、ロープに万能ナイフ、携帯食料などを置いている。 だが、うちにやってくるお客さんの目的は、それだけではなかった。


 カランコラン、とベルの爽やかな音が響いて扉が開く。

「やっているかい?」 声をかけてきたのは、ベテランらしい風貌をした三十代の男だ。


「やってるわよ。それで、今日は何の用事?」 答えたのは私。まだまだぴちぴちの二十歳になりたて、つやつやの黒髪ストレートが自慢の美少女、店主のクシナだ。


「ああ、よかった。クシナさん、こいつを見てほしいんだ」


 ここ『クシナ雑貨店』では、道具を売るほかに買取もやっている。 ただし、買い取るのは他の店や協会が厄介払いしたような、呪いの品やいわくつきの物だけだ。 探索者としての才能はなかった私だが、どういうわけか呪いの影響を受けにくい体質だった。もちろん全く受けないわけではないが、そういった物に限り、正体を見抜く「鑑定」のようなことができたのだ。


 男が清潔な布から取り出したのは、一つの小さな指輪だった。

「どこへ持っていっても断られてな。鑑定士に頼んでも、こんな危ないものは見られないって突っぱねられちまったんだ……」


 私はその指輪を一目見て、すぐに呪物だと分かった。 そこまで強い呪物でも無いことも。

「それで? 鑑定だけにする? それとも買い取りもする? 鑑定料は金貨10枚ってところね。鑑定結果を聞いてから選んでもいいけど、どうする?」


「鑑定だけ、まずは頼む」 男はそう言って、金貨10枚をカウンターに置いた。


「まあ、だいたいの人がそう言うわね」

 私は当然といった風に答え、鑑定を始めた。


 私は指輪をじっくりと観察し、その正体を確認する。 「それじゃ、まずは呪いの説明からいくわね。これは装着者の『やる気』を阻害するわ。人によって差はあるけど、ひどい場合は迷宮に行こうとする意欲まで無くして、そのまま引退を考えるようになっちゃうかもね」


 呪いの内容を聞いて、男は絶句した。探索者にとって、戦う意欲を削がれるのは死ぬよりも残酷なことかもしれない。


「でも、ちゃんとメリットもあるわよ。装着者の体力を高めてくれるわ」

 打たれ強くなり、スタミナも切れにくくなるが、戦う気が失せる。なんとも皮肉な道具だ。 男は顔をしかめながら、どうにか解呪はできないものかと私に聞いてきた。


「悪いけど、私にそんなことはできないわよ。あくまで呪いの効果を見抜くだけだから」

 私は淡々と続け、選択肢を提示した。

「まあ、どうしても呪いを解きたければ、教会にでも行って莫大な寄付金を積めばいいんじゃない? 向こうなら喜んでやってくれるわよ」


 あっけらかんと言い放つ私を見て、男はしばらく悩んでいたが、結局は買取を頼むことにしたらしい。 「わかったわ。買取額は銀貨500枚……金貨に換算して5枚ってところね」


私が平然と査定額を告げると、男は目を見開いた。

「なっ……!? 鑑定料より安いじゃないか!」


「そりゃあ当たり前でしょ。呪いがあろうとなかろうと、正体の分からない物を鑑定するにはそれくらいの手間がかかるの。私は鑑定結果に嘘は言ってないし、そもそも無理に売ってくれとは言ってないわよ。教会に解呪を頼んだら、たぶん金貨500枚は持っていかれるでしょうしね」


 私の正論に、男は顔を真っ赤にして震えた。

「この……! 足元を見やがって!!」 怒鳴り散らしはしたものの、結局、男はしぶしぶ買取に同意した。


「はーい、まいどありー」 私は先ほど受け取った10枚の金貨から、5枚だけを彼に返した。


 男は忌々しそうに金貨を受け取ると、ドアを乱暴に閉めて店を出て行った。


「ほんっと、ああいう輩が多いわね。まあ、私も真っ当な商売をしているとは思ってないけれど……」


 乱暴に閉められたドアの余韻を聞きながら、私は今買い取ったばかりの指輪を手に取ってつぶやいた。  さっきの男には聞かれなかったから答えなかったけれど、私にはその品物がどういう経緯で呪物になったのか、その背景がなんとなく分かる。


 これは、かつて迷宮へ出稼ぎに行った父親へ、その子供が贈ったものだった。もっともこの時点ではただのお守りのような物だったのかもしれないが。 「お父さんに早く帰ってきてほしい」という切実な願いと、「お父さんを守ってほしい」という祈りが込められたもの。

けれど、父親は迷宮の中で力尽き、遺体となって魔素を取り込みと共に深層へ埋もれていった。


 迷宮内は「魔素」という不思議な力で満ちている。

この魔素は探索者に働きかけ、モンスターを倒した際に力を与えてくれる恩恵のようなものだ。けれど、魔素が常に良い方向に働くとは限らない。

今回の指輪もそうだった。子供の純粋な願いが込められたお守りが迷宮の中に取り残され、長い年月をかけて濃密な魔素を吸収した結果、それは歪んだ形で呪いの指輪へと変質してしまったのだ。

想いが強すぎたゆえの、悲しい成れの果てだ。


「まあ、よくある話ね……。子供の願いだけだったから、この程度の呪いで済んだんでしょうし」


 私は独り言をこぼしながら、その指輪を棚の奥へと片付けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ