6−12 模擬戦 4 (ダゴン視点)
今回は原初の眷属であるダゴンの視点から見た模擬戦の様子です。
※ このお話の中には過激な表現の描写があります。ご注意ください。
「どうしてこうなった?どうしてこうなった?どうして……」
私はさっきから同じ言葉を繰り返していた。
目の前に広がる光景は正に地獄そのものではないか。
我々はなす術無くアリア様の前に倒されるのを待っている状態だ。
最早、勝ち負けなどという次元ではない、こちらの存続すらも危うい状態だ。
私がこの模擬戦の前に想像していた展開など望むことすらできない。
「どうしてこうなった?どうしてこうなった?どうして……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ダゴン、やはりこの模擬戦をやめないか。我々ではアリア様には足元にも及ばない」
「……イタカ、またその話か、もうその結論は出ているだろう。この戦いを回避したら我々は今後神に背くことなど二度と敵わなくなる。そうなれば、我らの主人の復活など夢のまた夢だ」
「……アリア様にうまく誘導されてしまったな。あの場ではああ言うしかなかったとはいえ、こちらの思惑からは大きく外れてしまった」
「ああ、その事は認めよう。流石は幼なくとも神と言ったところか。だとしても、眷属とはいえ三百人を超える神霊術の使い手相手では神と言えどもそう簡単には勝てないはずだ。あの場の言葉を信じるなら我々は負けなければ良いのだ。戦いようはあるだろう」
「……だと良いが。俺は不安でたまらない……」
……イタカ、君のいう通りだったよ。この戦いは避けるべきだった。君は正しかった……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私はクン・ヤン教国で培った用兵術を用いて模擬戦を展開していった。
最初は長距離の攻撃神霊術を使って牽制し、その隙にアリア様にダメージを加えるべく大規模神霊術を使って攻撃する戦法だ。
イタカの助言通りアリア様には神霊術での攻撃が全く通用しなかった。あの不思議な光景を目の当たりにしたのは初めてだったが、イタカの報告通りだったので特に驚きはしなかった。そして土のドームを形成しその中にアリア様を閉じ込めることに成功した後、すかさずドームの中に炎の攻撃を加えアリア様にダメージを負わせる手筈だった。作戦通りに進んでいることに気をよくした私は、空中には眷属達を待機させ地中にはアリア様の神霊力に反応する地雷型の神霊術を設置した。流石に神がこの程度の攻撃で敗北するとは考えてはいない。
しばらくした後、地雷のいくつかが連鎖的に爆発した。どうやらアリア様は炎から逃れる為に地中を掘り進んだようだ。……こちらの作戦通りだな。
そう思っていた矢先、いきなり全ての地雷が一斉に爆発し始めた。これはアリア様の対抗術なのか?一体どの様にして?そんなことを考えている間にも戦場は動いていた。地中から強力なエネルギーが照射されて空中で待機していた眷属の一団が撃ち落とされた。こんな強力な攻撃なのにその予兆すら確認できなかった。そしてアリア様が照射したと思われるエネルギー砲で撃ち落とされた眷属達は肉体が焼き尽くされ消し炭のようにボロボロな状態になっていた。
その後もエネルギー照射が数回立て続けに撃たれ、その度に我々の小隊が壊滅されていった。神相手に一対一にならない様に小隊編成をしたのが裏目に出てしまった。
ようやくエネルギー照射が収まったかと思ったら、アリア様が我々の目の前に出現した。
クン・ヤン教国の建国戦争の際に猛威を振るったファランクス部隊がアリア様の前に立ち塞がるが、アリア様は足元に地割れを起こしファランクス部隊を地割れの中に叩き落とした。ファランクス部隊の中には浮遊術を使って難を逃れた者もいたのだが、すぐ様アリア様によって撃ち落とされていった。
そして我が軍の中でも指折りの強者であるアフーム・ザーとフサッグァがアリア様の前に立ち塞がったが、アリア様は槍とも太刀とも違う変わった武器を創り出しアフーム達に勝負を挑んでいった。
まさかアリア様は武器を持った立ち回りも出来るのか?
アリア様は幼い見た目とは裏腹に素早い動きで我が軍の二人を翻弄している。アフームもフサッグァも善戦してはいるが武術の素人である私が見てもアフーム達はアリア様に弄ばれていて、両者の技量の差は一目瞭然だった。
そして、フサッグァの青の稲妻もアフームの冷気の炎も意も介さずに二人を切り伏せてしまった。
その有り様を見た我が軍の眷属達は明らかに動揺していた。それもそうだろう、あの二人は我ら眷属達の中ではずば抜けた武闘派だった。あの二人もその事を自負していたし、我らもアフーム達があの幼い見た目のアリア様に対して近接戦闘で負ける事など想定していなかったのだ。
アリア様は我らが動揺して攻撃が緩慢になった隙に何かを創造していたみたいだ。強烈な神霊力を感じながらアリア様の目の前に現れたのは獣の人形?それが八体もだと。
私は直接的な戦闘よりも神霊術の方が得意だからわかるが、あのような強力な傀儡を八体も創るにどれだけの神霊力が必要なのだろうか。それをいとも容易くやってのけるアリア様の力に私は戦慄した。あの小さな体の中にはどれ程の神霊力が蓄えられているのか……。
獣の人形が我らの軍勢に襲いかかってきて、次々と眷属達に噛み付いている。その様子は正に地獄絵図の様だった。
「……今は攻撃よりも回復を優先させろ!あの程度の損傷なら治療術で完治できるはずだ」
「申し上げます!アリア様によって付けられた傷は我らの治療術では治療できない模様です」
「なんだとっ!イタカの報告にその様な報告は無かったぞ!」
「イタカが言うには、以前イタカが傷を負った時はアリア様が治療術をかけられたので、自身が治療術を使って治療した事は無かったそうです。アリア様が治療術を使った際にはその様な事例は無かったそうです」
「つまり、我が軍の眷属達の傷は治療できず我々の軍の損耗は回復の見込みは無いという事か……」
「……あの獣に付けられた傷は、アリア様につけられた傷とは違い、かなり速度は遅いですが治療術は効いているみたいです」
「復帰はこの戦闘時間中に間に合うのか?」
「……それは」
「それでは同じことではないか、くそっ!総員、治療を中断!獣の人形を牽制しつつ後退し体制を立て直す!」
「傷ついた者を見捨てるのですか!」
「この模擬戦が終わるまでに復帰出来ないのであれば治療は無駄だ。我ら原初の眷属に死は無い。この模擬戦が終了した後に治療しても差し支えはない」
……くそっ!言いたくもない言葉が次々と口から出ている。
私はこの模擬戦を勝利に導き、枢機卿の中で確固たる地位を築きトゥルー教内の派閥闘争を終結させ、一致団結して原初の精霊様方の復活に邁進するはずだった。
それが、模擬戦の勝利どころかこちら側には何の見せ場もなく、しかも敗色が濃厚だ。先程からの私の言葉によって私を忌避する者も今後出てくることは避けられない。私の思惑はことごとく失敗に終わったのだ。
私が後継の念に苛まれている間にも戦場は動いていた。
アリア様が我々をどん底に突き落とすかのような巨大な火球を創り出した。
……まるであの時を再現しているかの様だ。
私の頭の中に、かつてフーシ様によって破壊されたドリームランドを見た際に呟いた言葉が再び頭の中に蘇ってきた。あの時も屈辱と悲しみで気が狂いそうになりながら呟いていた。
「……神の力はやはり理不尽だ……」
すでに心が折れているダゴンに気が付かないアリアがトドメを刺そうとしています。
次回、模擬戦の決着がつきます。




