6−6 枢機卿達が去った後
枢機卿達との会談を終えたアリア。
彼女の口から模擬戦開催に至った経緯を説明する事になります。
トゥルー教の枢機卿達が退席し、客間には私とクリスとダグザだけになった。そうなった途端、クリスが私に対してお説教を始め出した。
「姫様、先ほどの件のご説明をしていただけませんか」
「先ほどの件って、模擬戦の事?」
「はい、何故模擬戦などと申されたのでしょうか。あの様な無礼な言い草に姫様が付き合う必要はありません。キッパリと拒絶なされればよかったのですよ」
「……恐らく、それではダグザの思う壺です。あの場合どちらを選んでもダグザの思惑通りになっていたはずです」
クリスは理解が出来ていない様な表情で私を見つめていた。
「……仮に彼等の活動を私が認めると発言したとしましょう。そうしたら彼等はその私の発言をプロパガンダとして利用するでしょう。そうなれば私は図らずもお父様と意見が対立することになり精霊界は混乱に陥るかもしれません。そこまでにはならなくても、お父様は私に何らかの処罰をなさるはずです。お父様は子煩悩ですが仕事とプライベートの線引きはきちんとされる方なので、精霊界に混乱の原因を招いた私に対し罰をお与えになるでしょう」
「そうなれば精霊界は確実に動揺しますね。まさに原初の眷属達の思う壺という事ですか」
「……まあ、そうなったとしても多少の時間が稼げるだけです。私が欠けたとしても今の情勢に大きな変化は起こらないでしょう。ですが、彼等はお父様に対抗する手段があると公言しています。彼等に時間を与えたらその対抗手段の準備期間を与えてしまう恐れがあります。現在、どの程度準備が終わっているのかはわかりませんが、彼等に必要以上に時間を与えるのは間違いなく悪手です」
「となれば、奴らを認める訳にはいきませんね。やはり拒絶した方が良かったのではありませんか?」
「私が拒絶した場合、彼等はケルト王国をはじめとした各国に対する破壊工作を活発化させるでしょうね。神との交渉を拒絶されたとなれば、私達への敵対行動もより活発化するはずです。そうした場合、この世界が神と原初の精霊との大戦争に巻き込まれます。元々、彼等が行動した先には同じ結論に辿り着くでしょうが、私が拒絶したらその未来は早まることになります。それは、この世界にとっては最悪な結果でしょうね」
「この世界の行く末など姫様の心を痛める必要などないではありませんか。姫様はフーシ様の娘として精霊界の事だけを考えておられれば良いのではありませんか?」
「……私はそうやって割り切る事が出来ない性分なのでしょうね。お父様の事は大事に思っていますが、私は前世の両親や今の両親の事も同じ位愛おしく思っていますから。だからこの世界には、せめて両親が生きている間くらいは穏やかな世界でいてほしいと思っています」
「……言葉だけ聞くと、まるで母親の様な口振りですね」
「そうですか?前世を含めても、私は母親になったことがないからわかりませんが……」
「姫様はずっと姫様でいいと思います。私は姫様の事を奥様とは呼びたくありませんから」
私は今世では結婚できるのだろうか?
まあ、これでも一応貴族令嬢なのだから政略結婚の一つや二つ位あるかもしれないけど……、いや、結婚は一度でいいな……。……いいよね?
「まあ結婚の事は置いておいて、話を戻すわよ。つまり承知するのも拒絶するのもダゴンにとってはどちらでも良かったのよ。ダゴンは私の言葉を利用してトゥルー教内の意思統一を図りたかったのだから」
「……意思統一ですか?」
「そう、クリスはさっきの枢機卿の連中を見て何かおかしいとは思わなかった?」
「……おかしな点ですか。さあ、特に何も思いませんでしたが」
「我輩も特には……、まあ枢機卿の人数が多いことには驚きましたが」
「そう、それよ!私との交渉をするにしては人数が多すぎるの。普通だったら枢機卿の筆頭を自称しているダゴンと私との面識があるイタカ、それと護衛が数人程度なものでしょ。それが今回の面談には枢機卿だけで十人以上同席していたのよ。あんなに交渉人がいたらまとまるものもまとまらないわよ」
「確かにそうですね、ダゴンと他の枢機卿との発言を比べても温度が違うというか……」
「恐らく、私の出現によってトゥルー教内の意見が分かれているのだと思うけど、それだけではないと思うの。強硬派、穏健派、慎重派の様にトゥルー教の中で派閥が分かれているのでしょうね、今回来たメンバーは各派閥の代表だったのかもしれないわね」
「なるほど、それならばあの人数にも納得出来ますね」
「ダゴンがどの派閥かは知らないけど彼はそのことを憂慮していたのではないかしら。だから私という劇薬を使ってトゥルー教内の意思を統一しようとした」
「……拒絶をすれば神々との戦争という名目で、認めれば神の承認という錦の御旗が与えられたのも同然ですものね」
「そういうこと、だからあの場での明言を避けるために模擬戦を提案したの」
「……明言を避けるという理由は理解しましたが、どうして模擬戦になるのかわかりません、説明をお願いします」
まあ確かに、明言を避けるだけなら結論を先延ばししたり、新たな提案を出したりして有耶無耶にするなりいくらでも別の手段があるもんね。
「模擬戦を提案した理由はいくつかありますが、一つは先程から述べていた通りトゥルー教の意思の統一を阻むためです。それと同時に穏健派や慎重派と思われる枢機卿の援護射撃な様なものですね。私が勝つ又は枢機卿達が善戦した場合、それらの派閥は神との戦争に躊躇するはずです」
「勝つ場合はわかりますが善戦した場合でも躊躇するものでしょうか?」
「先程、枢機卿達を焚き付けた時にも言いましたが、お父様と戦う時はその背後にある巨大な軍勢と戦うのと同義なのです。つまり、原初の精霊が何らかの方法でお父様との力の差が拮抗したとしても神はお父様だけではありません。お母様は戦闘向きな性格ではありませんがお姉様はお父様よりも武闘派ですよ。もちろん私も参戦することになります。そうなった場合、私たちと戦うことになるのは枢機卿の連中です。現時点で私に勝てない様であれば戦いそのものを避ける、若しくはなるべく延期する様に促すのではないでしょうか」
「……そうですね、試合ならともかく戦争となれば、負けた場合は全てを失いかねませんから」
「そしてもう一つは、トゥルー教の戦力分析です。もしケルト王国とクン・ヤン教国との戦争になった場合彼等はクン・ヤン教国の主力です。そうなった場合どの様な術を使うのか、どういった戦術で来るのかがわかります。いわば、威力偵察ですね」
「……ケルト王国の為にそこまでする必要はないのではありませんか?」
「ここは私にとって第三の故郷ですから、そのくらいの苦労は苦じゃありませんよ」
クリスは呆れたように私を見つめていたが、せめて私がこの世界にいる間くらいはケルト王国が平和であってほしいものだ。
「そして、最後に最大にして最強の理由ですが、それは私の憂さ晴らしのためです」
この部屋にいる私以外の二人はドン引きな表情を浮かべている。
「忙しい合間を縫っていざ面談を始めてみれば、この様なくだらない理由で私の睡眠時間を削られたのです。私の堪忍袋はパンパンに膨れ上がっていますよ!少しくらいストレス発散の場があっても良いのではないでしょうか?いや良いはずです!幸いあの枢機卿の連中は原初の精霊の眷属なのですから死というものがありません。いくらでも叩きのめしても良いのです。どんなサンドバッグよりも叩き甲斐があります!」
「……姫様、お戯も程々になさってくださいね」
最後の最後にアリアの我儘が炸裂しました。……イタカにもアリアは子供で我儘だって言われていましたしね。
次回はちょっとした変化球的な日常パートなお話です。




