6−1 帰宅をしたのは良いけれど……
第一章の最終話である第六話の始まりです。
私達はようやくオウルニィに帰る事ができた。
クーパー邸から旅立ってほぼ一ヶ月半。当初は王都に行って帰るだけの予定だったのだが、王都までの全ての行程を馬車での移動と考えていた為、日程事態はそれ程大差がなかった。
「おかえりなさいませ」
クーパー邸の使用人達の顔を見ると最早懐かしさすら感じる。
「ああ、皆、留守の間ご苦労だった。本来ならゆっくりと休んで貰いたいところだが、そうも言っていられない。済まないが、アルウィンとアリアの入学の準備はどこまで進んでいるだろうか?」
伯父さんが代表して帰宅の挨拶をしたのだが、クーパー家並びにニュートン家にはのんびりしてはいられない事情がある。それが、私達の入学問題だ。
貴族学校の入学式は、冬の始まりを告げる立冬の日と定められている。その立冬の日まですでに一月を切ってしまっているのだ。……ちなみに、魔術師学校には入学式は無い。
その為、クーパー家の使用人達が主人に代わってアル兄さんと私の入学準備を進めてくれていた。クーパー家の使用人達は優秀な人達ばかりなので入学準備自体には心配無用なのだが、最終的には伯父さんや父さんの確認が必要な物も多い。
伯父さん達には悪いが、私は自室に戻り、クリスにお茶を淹れて貰って一息つく事にした。
「……ふう、ようやく帰ってこれたけど、慌ただしい日はまだ続きそうね」
「仕方ありません。姫様は魔術師学校に入学してからの方がのんびりできるんじゃないですか?」
「そうかしら?私にとって学校生活というのは殆ど未知の領域よ。それが楽しみでもあり不安でもあるわ」
前世では病弱だったこともあり、学校生活はまともに送れなかった。おそらく生前の出席日数は小中学校全てを加算しても三年を下回るのでは無いだろうか。
当然タカアマハラでは私以外に子供の神様は存在しなかったので学校という組織は存在せず、私の教師役はお姉様かクリスの二人に委ねられていた。
「それよりも、魔術師学校に入学するとなれば本格的に対策をしないといけないかもしれないわね」
「……何の対策ですか?」
「決まっているじゃない!私の神霊術強すぎ問題よ!」
「ああ、確かに以前もそんな事を言っていましたね」
「このまま何の対策も無いままだと、いつか私の神霊術で死人が出てしまうわ」
「日常生活で使う様な神霊術ならともかく、攻撃目的の術だと人間の魔術とは比べものにはなりませんからね」
「魔術の授業中に大量虐殺して退学するなんて前代未聞でしょうね」
自分で言っておいてなんだんだが、これは本当に洒落にならない。
「けれど、姫様にその様な自由になれる時間なんてあるのですか?正直な話、姫様は入学までずっとスケジュールは埋まり切っていますよ」
クリスの言葉通り私にはこれから自由に使える時間は限られている。
明日からは魔術師学校に通う為に入学式用のドレスや普段着の寸法直しや、親戚やお世話になった方々に魔術師学校に入学する旨の挨拶状を書いたり、出発間近になればオウルニィの有力者の方々に挨拶回りに勤しんだりと大忙しなのだ。
「そうなんだけど、無理矢理にでも時間を捻出するしか手はないわね。となると、一番時間を削り取れるのは私の睡眠時間でしょうね」
「……姫様の筆頭侍女として賛同できかねますが」
クリスに言われるまでもなく私だって睡眠時間を削りたくなんてない。子供の睡眠不足は健全な成長の妨げになる。今世ではお子様体型のままで生涯を終えたく無いのだ。
「とりあえず、対策案は頭の中にあるからそれが上手くいけばそれ程時間は取られないはずよ。それに練習場所を闘技場にすれば移動時間の短縮にもなるしね」
「なるほど、イタカを放逐したのはこの為だったのですね」
「…………そう!さすがクリス、よくわかっているじゃないっ!」
そんな事は全く思っていなかったが、適当にクリスの話に合わせてみた。
別に闘技場にイタカがいてもよかったけどね。いや、トゥルー教に余計な情報は与えないほうが良いのか?この辺りの加減は難しいね。
「とりあえず、晩餐後の団欒は早めに切り上げましょう。長旅で疲れたとか言えば無理に引き止められはしないでしょう」
「そうですね。おそらく旦那様達も今日は早めに就寝されると思います」
私は頭の中でスケジュールを確認しながら、この家で過ごせる日数が少ない事に寂しさを感じていたのだった。
相変わらず行き当たりばったりな言動のアリアさん。
果たしてアリアの強すぎる神霊術を弱体化させる事は出来るのでしょうか?




