5−10 お披露目パーティーの裏側で (ギャレット視点)
アリアのお披露目パーティーの裏側で行われていたギャレット視点のお話です。
アリアのお披露目パーティーの会場から少し離れた部屋の中に二十人を超える貴族達が集まっていた。
部屋の半分より奥側はカーテンで遮られ、貴族連中は入り口側に並べられた席に座って苛立ったように体をあちこち揺らしていた。
「お忙しい所、集まっていただき申し訳ない。どうしてもここにいる皆を秘密裏に集める為には今回のパーティーを利用するより方法がなかった。祝いの宴の会場近くでこの様な話を本来ならするべきでは無いのだが……」
「……ウェズリー辺境伯、挨拶などどうでも良い。それよりも本題に入ろうではないか」
この集団の中で一番身分が高いドニゴール侯爵が私を急かしてきた。
「手紙ではこの場でしか内容を明かせないとなっていたが、皆が薄々気がついているのだ。ウェズリー辺境伯、其方、息子達の行方を知っているのだろう」
そう、この場にいる貴族達はあのクン・ヤン派と呼ばれていた若手貴族達の親族達だ。
数日前から、貴族の若者達が王都内で行方不明になっていると王都で噂が広がりつつあった。その若者達は皆貴族で、夜な夜ないかがわしい夜会を開催していたとか、闇賭博場を開催していたとかいう碌でも無い話ばかりで何か犯罪に巻き込まれたのではないかと囁かれていた。
そんな最中、私は行方不明になっている若者達の親族にあてて手紙を出した。「子供の行方に心当たりがある。近々我が家でパーティーを開催するので、その招待客に扮して我が家に来て欲しい」といった内容の手紙を出し、パーティーの招待状を同封した。そして、親達は藁をも縋るような思いで辺境伯邸にやってきたのだった。
「ドニゴール侯爵閣下、確かに私は行方不明とされている貴方の息子の行方を知っています。ですが、私の話の前に見ていただきたい物があります。まずはそれを見てからにしましょう。それを見れば、私の話に信憑性が増すでしょうから」
私は使用人に命じて部屋の中央に掛かっているカーテンを開けてもらった。
カーテンの向こう側には人型の石像が何体も並んでいた。……何度見ても嫌な光景だな。
「ウェズリー辺境伯、この石像はいったい……」
「この石像が貴方達が探していた子供達です。もっと近寄って確認してみてください。ちなみに、この石像の中で若者達は生きております。くれぐれも傷つけない様に気をつけてください」
大人達は恐る恐る石像に近づき、自分の子供を探し始め、やがてあちこちで怒号や悲鳴、そして嗚咽が聞こえてきた。
「一体、どうして……」
その言葉は私も問いかけてみたかった。しかし、私は真相を知る側の人間だ。その言葉を口に出来ない。
「……皆さん、自分の子供や親族は見つけられましたでしょうか」
元々、そう多く無い数の石像しかなかったのだ。比較的、簡単に見つける事はできたであろう。
「辺境伯、なぜこのような事になったのか説明してもらえるのであろうな」
「そうですね……、この者達は決して怒らせてはいけない方を怒らせてしまった……。そう言えば納得されますでしょうか」
「出来るわけがないだろう!きちんと説明しろ!」
「わかりました。まず彼等をこの様な姿にした方は判っていると思いますがいかがですか?」
「人を石像に変えられる様な不思議な魔術を使えるのは精霊様しかいないだろう。しかし、何故息子達が精霊様の怒りを買ったのだ」
「まず、彼等の共通点は全員トゥルー教信者である事、そして彼等がクン・ヤン派を名乗り極秘裏に反政府活動に従事していた事が挙げられます」
「はあっ?息子がトゥルー教の信者だと!そんな話は初耳だぞ!」
「反政府活動とは?具体的に何をしていたのですか!」
次々と疑問を投げかけられる中、私は言葉を続けた。
「若者達はトゥルー教の枢機卿であるイタカと名乗る人物に唆されトゥルー教に入信した様です。これにはイタカ氏が証言をしている所に居合わせましたので間違いはありません。そして、反政府活動についてですが、これは長い期間をかけて実行する予定だったらしく、まだ実行段階には至っていなかった模様です。現在の活動はトゥルー教信者の勧誘が主な活動内容だったそうです」
「トゥルー教の信者を集めてどうするつもりだったのかね?」
「それは、クン・ヤン教国の建国の逸話通りです。まずは十年以上の期間をかけてトゥルー教信者を拡大し、若者達がそれぞれの領地でトゥルー教徒を保護します。クン・ヤン派の若者達は領主や王宮内でそれなりの役職を得ていてもおかしくない家柄のご子息達ですから」
この場にいる貴族の爵位は、上位は侯爵で下位は子爵、それなりの名家揃いだ。
十年後になればこの若者達は国を背負って働いていたに違いないだろう。
「そして、トゥルー教を国の国教として制定するなどと称して、国と対立構造を構築させていきます」
「……そう簡単にトゥルー教と国王が対立するかな?国教にしようと唱える位の勢力に拡大していたのならば、国王もその要求を飲むかも知れぬ」
「いえ、今のは一例に過ぎません。要は国王陛下と対立するという事が重要なのです。彼等の目的はケルト王国で内戦を勃発させる事ですから」
「なるほど、確かにクン・ヤン教国もとい、トゥルー教はその様にして勢力を拡大していったのだったな」
「はい、そしてトゥルー教徒の救援という名目でクン・ヤン教国が内戦に介入してくると考えられます。彼の国はトゥルー教徒を見捨てる事はしないでしょうから」
「内戦が成功すればケルト王国はトゥルー教の国となるし、失敗してもクン・ヤン教国の軍事介入は止められない。内戦で疲弊していればケルト王国の敗北は必至か」
「はい、そこに至るまでにはいくつか問題点はございますが、十年以上の期間を掛ければ解決は可能かと思われます」
「なるほど、息子達の罪は理解したが、それと精霊様の怒りにはつながりを感じないが……」
「それは、今回皆様を招待したパーティーと関係しております」
「……精霊の弟子か」
「はい、精霊の方々は弟子を溺愛しております。そして、その弟子は平穏を望んでおります。内戦は平穏とは真逆な考え方ですから」
「つまり、精霊様は弟子の為に反乱分子であるこの子達に罰を与えたという事か」
本当は精霊ではなく、弟子本人が罰を与えたのだが……。
「精霊様は最早物言わぬ神とは違います。弟子の為なら口も手も出すでしょう。その証拠が我等の子供達なのです」
「……納得は出来ぬが、この石像を見れば納得するしかないのだろうな。神に逆らうなどという愚か者には私はなれぬ。しかし、息子はこの様な姿になってもまだ生きているのであろう?もう元には戻らぬのであろうか?」
「ここにいる彼等は一年後には元に戻るそうです。元に戻った後の処遇は皆様にお任せします。ただし、彼等が精霊様の怒りを受けた事を忘れてはいけません。先ほども述べた通り、精霊様は口も手も出されます」
「……辺境伯、其方の口振りから其方の息子であるリチャードも何らかの罰を受けたのであろう?ここにはリチャードの石像はなかったが、リチャードも一年後には元に戻るのか?」
「……リチャードは主犯として裁かれました。そしてその際、精霊様を侮辱した発言をした為に五百年間元には戻りません。すでにリチャードは次期領主から外れ、石像を領地に移動させる様に手配中です」
「そうか……、それは辛いことを言わせてしまったな、許してくれ」
そんな事全く思っていないだろうに……と心の中で愚痴ってみた。どうせドニゴール侯爵は私がこの場を仕切っていることに不満があるのだろう。そして、リチャードが自分の息子よりも重い罪だと知って溜飲を下げたのだろうな。全く、高位の貴族の相手は面倒なものだ。
そして私はお披露目パーティーの会場に戻り、アリアの魔術に唖然としたり、突然の国王陛下やモリガン様の来訪にあたふたしたが、よくよく考えてみたらモリガン様の来訪があったおかげで、先ほど語った「精霊達は弟子を溺愛している」という言葉に根拠を持たせる事ができた。
今回の出来事で我が家は痛すぎる程の傷を負ったが、損害だけを被っただけではなく、多くの貴族に存在感をアピール出来たし、ドニゴール侯爵を始めとする貴族連中に大きな貸しを与えることも出来た。彼等は精霊からの罰が怖くてもう国王派とは対立する事は避けるはずだ。
それでも、アリアを巡って様々な騒動は起こるだろうな。
今日見た魔術だけでも彼女の才能はこの国どころか、世界中見渡しても飛び抜けて優秀だ。彼女を欲しがる国や貴族は増えていくだろう。
その時、我が家はどう立ち回れば良いのだろうか?頭が痛い問題だ……。
ドニゴール侯爵は門閥貴族派の重鎮で、第二章で彼が後見人となった生徒とアリアは関わり合いを持つ事になります。もう少し先のお話ですが、ご期待ください。




