5−9 大人達のお披露目パーティー (ジョン視点)
アリアの父親のジョン視点から見たお披露目パーティーの様子です。
アリアがゴドフリー先輩の娘のマーガレットと一緒にテラスに移動して行った後、私はそのままゴドフリー先輩と会話を続ける事にした。
「ジョンはもう挨拶まわりをしなくてもいいのか?新しく男爵となったお前に挨拶をしたい貴族は多いだろう」
「先輩に挨拶をする前にあらかた済ませておきましたよ。それに陞爵祝いのパーティーは後日開催する事になるんですから二度手間です」
「相変わらず効率しか考えてないような言い方だな。お前は昔から面倒な事は極力避けていたが、いまだにそうだったとはな」
「私は元来面倒臭がりなんですよ。勉強だって最初に全部覚えてしまった方が後々楽が出来るし、お金だって稼げる時に稼ぎ切った方が効率的じゃないですか。要はオンとオフを使い分けているだけです。とは言え、最近はオフに戻れない日々が続いていますがね……」
「ああ、アリアちゃんが魔力持ちだというのも驚いたが、精霊の弟子だというのには空いた口が塞がらなかったぞ」
「……当事者の前でそれを言いますか。私はアリアから初めて真相を聞いた時からずっとそんな心境ですよ」
アリアがオウルニィに襲撃して来た朱色熊から精霊のダグザ様によって救出されたと聞いた時から私の運命は変わった。いや、もしかしたらアリアが生まれた時から変わっていたのかもしれない。それに、今まで気が付いていなかっただけだ。
「アリアちゃんは貴族学校には入学できるのか?魔術師学校の卒業には相当苦労すると聞いた事があるが、それでは貴族学校の入学には間に合わないだろう?アリアちゃんは貴族として生きる事をを諦めたのか?」
「……魔術師は一応貴族扱いとなっているはずですが」
「確かに、魔術師は国王陛下直属の臣下でもあるし、魔術師の塔のトップともなると伯爵位相当の地位でもある魔術伯を名乗れるが、貴族側から見れば魔術師は平民の成り上がりと見られて蔑まれているのはお前も知っているだろう。自分の娘をそんな立場の所に追いやるつもりか」
「……私も色々と考えましたが、アリアに魔力、いや正確には魔術を隠し通すのは不可能です。アリアは息をするように魔術を使いこなします。なら、下手に隠すよりも公にして誰もが納得する形に持って行った方がアリアの為になると考えました。多分、先輩が想像している魔術師の百倍はアリアの魔術は凄いですよ」
私がアリアの魔術を見たのはそれ程多くはない。
念話術、転移術は頻繁に使っているのでよく見るが、私が一番印象に残っているのは、魔術師塔で見た岩の塊を投擲する魔術だろう。巨大な岩塊を自在に動かすのにも驚いたが、特筆すべきはその破壊力だ。訓練施設の壁は壊れていなかったが、壁に大きな穴が開いていたとしても不思議ではなかった。だがアルウィンの話では、キボリウム山脈で魔物を撃退した魔術の方がもっと凄かったと言っていた。そちらでは鉄の塊を朱色熊にぶつけていたそうだ。兄さんにその鉄の塊の捜索を頼んでみたが、ダグザ様の住処近くという事で未だに発見には至っていない。魔術師の塔からも頼まれているので捜索は継続させてはいるがダグザ様の住処はキボリウム山脈の奥地なのだ。おそらくダグザ様の協力がないと発見は不可能に近いだろう。
「……お前は口が上手い上に嘘も上手だから、その言葉にいまいち信用はできんが、家族に対してはお前ほど真摯な奴はいないからな。家族のことに関してはある程度信用できる」
「……酷いですね。まるで私が先輩を騙した事がある様な言い草じゃあないですか」
「お前は貴族学校時代に俺にやった事をすっかりと忘れている様じゃないか」
「私が色々と先輩の協力をお願いした事は確かですが、ちゃんと報酬を渡した筈です。先輩の記憶違いですよ」
「お前なあ……」
先輩に文句を言われそうになった瞬間、テラスの方から大きな歓声が聞こえてきた。
確かテラスにはアリアとマーガレット嬢が向かったはずだ。何か事故でも起こったのか?私は急いでテラスに急行した。
私は人垣の中心のいるアリアとマーガレット嬢のテーブルの上で、朱色熊のぬいぐるみと思われる物がダンスを踊っている光景を目撃した。
「……ジョン、ぬいぐるみがダンスを踊っている様に見えるが、目の錯覚か?」
「先輩……、あれがアリアの魔術です。言ったでしょう、想像の百倍は凄いって……」
「ああ……、そうだったな……、百倍どころか一万倍は凄いかもしれん……」
先輩も絶句している。それはそうだろう、ぬいぐるみをあんな機敏なダンスを踊れる様にする魔術なんて誰も見た事がないのだ。
魔術というのはその殆どが国家機密であり、軍事目的に利用されるものだ。この様におもちゃのような使い方が出来る魔術など誰も知らないだろう。
そんな事を考えていると、アリアが大人達に囲まれて質問攻めに合っていた。
助けに行こうと歩き出した時、辺境伯家の使用人の一人が国王陛下とモリガン様の到着を知らせてきた。
当然会場は騒然となり、私達は陛下を出迎えるべく会場に移動し始めた。
……精霊の弟子のお披露目という事で陛下が来られるのは想定していたが、モリガン様もだと。
最近は私の想定を超える出来事ばかり遭遇するな。
先行きが見えない事に少しばかり不安は感じるが、心の片隅にこの状況を楽しんでいる気持ちがある事を自覚している自分が存在していた。
貴族達にとって魔術師という存在がどう思われているかというお話でした。
次回はお披露目パーティーの裏で行われていた事のお話になります。




