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アメイジング・グレイス 〜幼き女神は斯く語りき〜  作者: タカトウ ヒデヨシ
第一章 精霊の弟子?  第四話 辺境伯家のお家騒動

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4−18 ウェズリー家の家族会議 2 (ギャレット視点)

前回の続きで、引き続きギャレット視点のお話です。

 私は気を失ったガブリエルを私の部屋のベットに運び込んだ。

 あの場は、限られた人間しか近寄らない様に言いつけていた為に私自身がガブリエルを運ばざるをえなかったのだ。


「……やはり、ガブリエルには酷だったのではないか?」

「確かに酷な事をしてしまいましたが、いつかは向き合わなければならない事は事実ですから。それよりも、これからの事を考えなければなりません。悲しみに暮れる時間はありませんよ……」


 そうは言いながらも、ヒルはガブリエルを悲しそうに見つめていた。

 妻は男の子供しか産まなかったので、ガブリエルが我が家に来た時は娘が出来たと喜んでいた。

 少しばかり自己主張は控えめな娘であったが、リチャードが逆に苛烈な性格だったのでバランスが取れて良いと思っていたのだが。

 確かに妻が言う通り、私には悲しんでいる余裕はない。リチャードの事もそうだが、あの場にいた貴族の若者の処遇や、ガーベラとか言うリチャードの愛人も陛下に報告して引き取ってもらわなければならない。

 ……頭が痛くなる様な事ばかりだ。


「……あの娘の存在が知れてから、厄介ごとばかりだな」


 私はアリアの名前を口にする事を躊躇してしまった。

 高々七歳の女の子を恐れる事になるなんて思いもやらなかったな。


「確かにその通りですが、私達は貴族です。貴族ならば強かにあらゆる事も利用していかなければ……。私達は以前の様な田舎の辺境伯だけでいる事は許されなくなりました。ならば、神すらも利用しなければ王都の門閥貴族派には太刀打ちできませんよ。おそらくその辺りの事もあの子は考えているのではないですか?」

「……とても七歳の子供の発想だとは思えんな」

「神として百年は生きていると仰っていたではないですか。私達よりも、余程歳上ですよ」

「そうだな、見た目で判断してはいけないか。それも、これからの我が家にとって大事な事なのだろうな……」


 ヒルとこんなにゆっくりと話す事が出来たのはいつ以来だろう。

 最近は、本当に怒涛の展開だったからな。

 そんな会話をしているうちにガブリエルが目を覚ましたようだ。


「……ここは?」

「すまないが、私の部屋に運ばせて貰った。其方の部屋では私が入れないからな。もう起き上がっても大丈夫か?」

「……はい、ご心配をおかけしました」

「いや、気にしないでくれ。夫のあの様な姿を見たら誰だって気が動転するものだ。目が覚めたばかりですまないが、話の続きをしても良いだろうか?」

「……はい。リチャード様があの様な姿になったのですもの、尋常ではない出来事が起こったのですね」

「リチャードの姿を見れば、誰がこの様な事をしたかは想像できるのではないか?多分、その想像した通りのお方がこの件に関与している」


 ガブリエルが「精霊様」と呟いた。……本当は精霊ではなく神なのだがな。


「見た通り、リチャードが今後領主になる事は無くなった。そして貴族としても存在できないだろう。ジェラルドはリチャードの子供として既にお披露目を終えている。残念ながらあの子には悪い意味でリチャードの名が付き纏う事になる。幼い孫にそこまで背負わすのはあまりにも不憫だ……」

「……リチャード様の事は隠せないのですか?例えば、流行病に罹って領地で療養中にするとか……。このままでは、ジェラルドの将来は……」

「私も考えたが、おそらく隠し切れないだろう。リチャードと共に石像に変えられた若者達の口からリチャードの事は噂になるだろう。リチャードは五百年間ずっと石像のままだが、若者達は一年で元に戻るそうだ。そして、リチャードの石像はウェズリー領の宮殿の庭に安置する様に命じられたのだ。そしてリチャードの悪行を後世まで語り継げと厳命されている」

「……なぜ、そこまでリチャード様に対して厳しい処罰をされるのですか?」

「リチャードが犯した罪が余りにも重すぎた。本当なら、この国を滅ぼすとまで言われたのだ。たとえ国王だろうとも国と引き換えに減刑を訴えられる訳がない。我らが不満を漏らせば、あのお方は本当に国を滅ぼしかねん。我等は従うしか道は残されていない」

「…………そうですか」


 ガブリエルがそう呟き、そして長い沈黙が訪れた。

 リチャードの事、ジェラルドの事、考えなければいけない事はいっぱいあるのだろう。


「ガブリエル。其方は離婚をしても良いのだ。もし離婚をするのであれば、私が其方の実家に出向いて説明をするし、慰謝料も払うつもりだ。全てこちらの責任だからな」


 ガブリエルは長い沈黙の後、私に向かって微笑んだ。その表情は、どこか悲しそうだった。


「お義父様。私は離婚をしません。いえ、出来ません。私には帰るべき所がないのです」

「どう言う事だ?其方の実家は王都の宮廷貴族で、まだ両親共に健在だと聞いているが?」

「今まで隠してきた事をお話しいたします。私は王宮勤めをしているリーカー男爵の娘である事は間違いありませんが、私は庶子なのです」

「……そうだったのか。しかし、リーカー男爵はその事については何も語っていなかったが、リチャードはその事を知っていたのか?」

「いえ、知らなかったと思います。あの方は、身分や家柄などを殊更大事にしています。もし知っていたのなら、私と結婚なんてしていなかったと思います」


 確かにその通りだ。リチャードは人の上っ面を重要視しすぎる傾向があった。

 私も妻も何度も注意したが、結局一生治らないままだったな。


「実家の奥様も同じでした。私は王都の下町で母親と一緒に暮らしていましたが。八歳の時に母親が亡くなりました。そして、母の遺品を整理していた所にリーカー男爵が現れ、私がリーカー男爵の娘だという事を告白されたのです。それ以降、私は男爵のお宅で過ごす事になりましたが、私はずっと男爵夫人に虐められて過ごしてきました。私の存在が許せなかったのだと思います」


 ガブリエルの話を聞き、私の母と兄の事を思い出した。

 あの時は私は世界一の不幸者だと悲嘆に暮れたが、ガブリエルも同じ様な気持ちだったのだろうか?

 それとも、同じ浮気相手の子供だという事で、兄の気持ちと同じだったのかもしれない。


「リチャード様が私に婚約を申し出て下さった時、私はやっとあの家から出られると思いホッとしました。父親にしても国王陛下の派閥の重鎮であられるお義父様と繋がりができる事を喜んでいた様ですし、男爵夫人も私と離れられる事にとても満足していました」


 ガブリエルは、男爵夫人の事を義母とは呼ばないのだな。その辺りは、根深いものがあるのかもしれない。


「ですから、男爵家の人たちは誰も私を帰ってきて欲しくはないはずです。私も、あの家には帰りたくありません」

「しかし、離婚をしないのであれば、これから陰口を叩く輩が出てくやもしれん。社交の場では居づらくなるのではないか?」

「……あなた、リチャードの廃嫡をやめて準男爵に降格させてはいかがですか。世間的にリチャードが次期領主から外れたと思われますし、あのお方の目にも罰を受けさせた印象に見えなくもないのではないですか」

「……うーむ、だが準男爵か……、あのお方がどう思われるか」


 ヒルの意見には納得でき所があるが、アリアはついこの間まで準男爵令嬢だったのだ。自分と同列にするのは嫌がられるかもしれん。


「リチャード本人はこれから領地に送られる事になります。対外的にリチャードがウェズリー領のロウアー湖にある別荘に病気療養の為に移り住んだという事にすれば、僅かな期間ですがガブリエルを悪意のある言葉から守れるかもしれません。ジェラルドも無理に貴族にする事もありません。平民になる事であの子の心は守られるのではないかしら。あの子には貴族のしがらみや、悪意に晒される事がなくのびのびと育ってほしいのです」


 なるほど、ヒルの意見は尤もだ。場合によってはジェラルドに準男爵を継いでもらってロウアー湖周辺を開拓して村か街を作り代官をしてもらっても良いかもしれない。


「ガブリエル、私も妻の意見に賛成なのだが其方はどうだ?特にジェラルドの将来や自分の地位が下がってしまう事に対して何か言いたい事があるなら、遠慮なく申してほしい」

「私は元々平民として暮らしていました。ですから、今の立場は正直な所とても分不相応だと常々感じていました。リチャード様はあの場所から連れ出してくれた事には感謝をしておりますが、私の本当の出自を知ってしまったらどうなってしまうかいつも不安で堪りませんでした。先日より、メアリー様やご家族が滞在される事になって、リチャード様が田舎者や平民風情がと文句を言っている姿を見てとても恐ろしかったのです。私は貴族に相応しくありません。そして、ジェラルドにはリチャード様の様になって欲しくはないんです」

「……そうか、私は気が付いてなかった。私は其方の義父として失格だな」

「それは私も同じです。ごめんなさいね、ガブリエル。辛い思いをさせてしまっていたのね」

「いえ、謝らないでくださいませ。けど、どうしてこんなにも親切になさってくれるのですか?」

「……私は幼い時に母と兄を同時に失ってしまった。だからなのか、私にとって家族とはとても大切な存在なのだ。だが、そのせいでリチャードの育て方を間違ってしまったのかもしれんな……」

「私は、貴方がこの家に来てくれて本当に嬉しかったのです。私は男の子しか産まれませんでしたから、ずっと娘が欲しかったのです。だから、貴方がこの家に残ると言う選択をしてくれて感謝の気持ちしかありません。ガブリエル、貴方の出自など関係ありません。貴方は私達の娘ですよ。困った事があったら、いつでも相談して頂戴。それが家族というものよ」


 ガブリエルは緊張が解けたのかボロボロと涙を流して泣き出した。そして、しきりに感謝の言葉を繰り返していた。

 リチャード、こんなにも優しくて可愛らしい嫁を貰いながら、どうして浮気などに手を出したのだ。

 私はこれからも、娘と孫を守っていこうと固く心に誓った。

皆さんも、浮気・不倫はダメですよ。


次回はようやく辺境伯家の次男であるアーサーが帰ってきます。

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