4−16 リチャードへの断罪 6
「さて、次は今回の問題の最大の議題になります。リチャードが私達親子をはじめ、ギャレットに刺客を派遣した事についてです。こちらで拘束していた刺客から事情聴取をしたところ、リチャードの依頼内容は私達母娘の誘拐、父さんとギャレットの殺害だそうです」
「出鱈目だ!どこにそんな証拠がある!」
「モリガンに証人を連れて来てもらっても構いませんが、そんな事はどうでも良いのですよ。貴方は神である私に刺客を差し向けました。それだけでも罪を問うのは十分だと思いますが」
リチャードには理解出来ていない様だけど、その傍でギャレットは薄々だが気がついて真っ青になっていた。
「神の不興を買ったのです。この世界の住民ならば、その結果ぐらい想像できませんか」
「……まさか、聖典の一文通りに世界を壊すおつもりですか」
「流石にそこまではしませんよ。けれど、この国くらいは壊しても良いのですよ」
「……カフカースも貴方の手によって壊されたのですか?」
「カフカースは言わば自爆ですね。あの城はイタカというトゥルー教の枢機卿によって破壊されました。きっかけは私だったかもしれませんが」
私はギャレットにカフカースで起こった出来事をかいつまんで説明した。
私が誘拐されかかった事、そしてカフカースの宮殿に行った事、イタカが宮殿を爆破して逃げようとした事、私がイタカを拘束し別の空間に収監している事など。
一応、イタカは原初の精霊の眷属という事は隠し、強力な魔術師という事にしておいた。バラしても良かったが、喋ったところでメリットもないので黙っておく事にした。
「神が人を脅すのか……」
「脅す?人聞きの悪い事を言わないでもらえませんか。私は事実を述べたまでです」
「国を壊すと言うのは脅しじゃないとでも言うつもりなのか!」
「神はこの世界だけではなく、数多の世界を創り出しています。その世界のいずれも神を題材にした物語、いわゆる神話が語られています。その中の多くには、人が犯した過ちのせいで神が神罰を起こし世界や国を壊したり滅ぼしたりする物語がありますが、どれもが自らの愚かさを責めていて、神の所業を非難する言葉は書かれていません。貴方はご存知ないかもしれませんが」
聖典を読んだが、冒頭はお父様が異界を壊す所から書き出されていて、原初の精霊の愚かしさは書かれているけど、お父様を非難する言葉は書かれていなかった。
つまり、神は何をやっても怒られない!怒られるのは神を怒らせた人間のせいなのだ。……ちょっと強引な気がするけど、ここは敢えてスルーだ。
「リチャード、良かったですね。貴方の名前が歴史に残りますよ。悪名かもしれませんが、このまま何も残せぬまま埋もれてしまうよりは良いと思いませんか?」
リチャードが蹲りながらガタガタと震えていた。どんなに強がっていても、国を滅ぼす様な悪名を名乗る度胸はなかったと見える。
「お、お待ちください!このまま国を滅ぼすのはジョン……お父上やお母上にご迷惑をかける事になりますが、よろしいのですか。せっかく陞爵して男爵になられたのですから、ここは穏便に事を済ませてはいかがでしょうか」
「……ギャレット、今、貴方は父さんの名を利用しましたね。愚かな貴方達にもわかる様に説明しましょう。私は、自分の事ならどの様な悪口や、暴言を吐かれようが我慢できますが、両親や伯父さんの家族を愚弄する様な者は決して許しません。私にとって家族とは、この世界、この国よりも遥かに重い存在です。その事を忘れない様にしなさい。それと、貴方達家族は貴族である事を重要視していますが、私は別に貴族とか身分とかに興味はありません。別の国で平民としてやり直してもいいと思っているくらいです。その事をよく考えた上で発言しなさい」
……いかんいかん、ちょとイラっとしてしまった。感情を揺らすと神霊力が漏れ出ちゃうんだよね、気をつけないと……。
負の感情をのせた神霊力って物凄い威圧感があるみたいで、モリガン達も一瞬たじろんでいたみたいだしね。これは、後でクリスにお説教されるかもしれないね。
「決して、お父上の事を利用しようとしていた訳ではありません。我が身可愛さの余りつい口にしてしまいました。申し訳ありません!」
ギャレットが平謝りしている姿に衝撃を受けたのか、それともその愚か過ぎる頭がようやく現在の状況を理解したのかはわからないが、私に向かって両膝をおり土下座をする様な格好で謝り出した。
「……も、申し訳ありません……。許してください……。ほんの出来心だったんです」
「もはや出来心では済まされない事態になっています。このまま貴方を許す事は貴方にとってもウェズリー家にとっても、そしてこの国や社会にとっても良い事ではありません。貴方の行いは、父親や他の貴族を殺しかけ、ウェズリー家や領地を没落させかけ、王国に内戦を勃発させかけ、神の不興により国を滅ぼしかけたのです。いずれも未遂で終わりましたが、この一連の行動は決して許されるものではありません」
自分から言っておいて何だが、リチャードの行動って本当に常軌を逸しているな。マジで酷い、酷過ぎる。
「ですが、いずれも未遂で終わったのも事実です。リチャード、本当に反省しているのであれば命だけは助けてあげましょう」
「姫様!その様な甘い処分で済ませば、また神を軽んじる者が現れます!是非ともお考え直しを!」
「……ルー、貴方が真面目なのはわかりますが、高々人間一人の処分でそう目くじらを立てなくても良いではありませんか。それに、次にこの様な事があれば今度こそ国どころかこの世界ごと壊せば良いだけです。言わば、異界に対する執行猶予みたいなものですよ」
私の言葉にルーはまだ納得していないようだ。……ルーが石頭なのはわかっていたけど、本当にカチンコチンだなぁ。
「……本当に申し訳ありませんでした。心を入れ替えますので、命だけは助けてください……」
……こいつ自分が助かる事に必死だな。全く、最初の勢いはどうなっちゃったのか。
「その言葉は、誰に対しての謝罪ですか?その言葉では主語が伝わりませんよ」
「アリア様とそのご家族、父上、母上、そして領民や国民に対して、心から謝罪致します。本当に申し訳ございませんでした……」
辺境伯夫妻は涙をボロボロと流して悲しんでいた。リチャードの謝罪の言葉が遅すぎた、そして自分達の教育は間違っていたと言う思いが表情として浮かんでいた。
「リチャード、約束の通り、命は奪わないであげましょう。しかし、貴方の罪が消えた訳ではありません。その罰は受けなくてはなりません。貴方も、他の貴族の若者達と同じ様に石像に変えてもらいます。しかし、貴方は他の若者とは違って一年では元に戻しません。モリガン、リチャードが石像から元に戻るまでの期間を五百年とします。その様に霊術をかけなさい」
「……そんな……あんま……」
リチャードの言葉が終わる前に、モリガンがリチャードを石像に変えてしまった。
「ギャレット、この石像を領地の宮殿の庭に設置して五百年後まで語り継がせる様に。ダグザ、その事が実行されているかを貴方が監視しなさい」
「承りました」
「……かしこまりました」
ふう、これでようやく一連の事件は一件落着だね。
まあ、まだちょこちょこと懸案事項は残ってはいるが、取り敢えずはこの位で良しとしよう。
あっ!そうだ、あの事をお願いするのを忘れる所だった!
「ギャレット。貴方に少しお願いがあります」
「……何でしょうか」
「いえ、これは神としてではなくアリア・ニュートンとしてのお願いなのです。なので、そう謙らなくても良いですよ」
「……いえ、そう言う訳には……」
「押し問答になりそうなので話を続けますね。リチャードが愛人に与えた屋敷を譲ってくださいませんか?こちらで調べさせてもらいましたが、あの物件、リチャードは大金貨八十五枚という破格の値段で購入していたみたいなのです。リチャードの借金を相殺する形で屋敷をお譲りくださいませ」
クリスがギャレットに不動産の登記簿と領収書を渡した。あの場所と大きさを考えても大金貨八十五枚は安過ぎる!
ギャレットは頭を抱えながら、「よりにもよってあの物件か」と嘆いていた。余程、有名な事故物件だったみたいだ。
「それは構いませんが、あの物件は私も存じておりますが……、所謂曰く付きな物件ですが、本当によろしいのでしょうか?」
「構いません。私とクリス達とで確認致しましたが、悪霊の類いは感知できませんでした。仮に取り憑いていたとしても、後で苦情を入れる様な事は致しません」
「……わかりました。元々、私が感知していなかった物です。ご自由にお使い下さい」
「出来ればなのですが、貴方の方から伯父さんに譲るという形にしてもらえませんか。子供の私から屋敷を譲るというのは、どう見ても不自然ですから」
「……あの物件を譲るというのは嫌がらせと思われるかもしれませんが……、わかりました。その様に手配しましょう」
「ありがとうございます。本当に助かります」
やれやれ、これでクーパー家の王都のタウンハウスをゲット出来たし、めでたしめでたしなのかな?
リチャードは五百年の間石像になることになり、これにてリチャードへの断罪もおしまいです。
次回はリチャードが石像になってしまった事で生じた、ウェズリー辺境伯家の顛末のお話となります。




