4−10 クン・ヤン派の夜会でのドタバタ劇
「皆さん初めまして、私はアリア・ニュートンと申します。貴方達は自称クン・ヤン派と呼ばれている貴族の若者という事で間違いはないのかしら?」
部屋の中のざわめきはまた大きくなった。
「姫様が質問されている!さっさと答えんかっ!」
クリスさん、私は鬼軍曹では無いのだから、そんな軍隊式な受けごたえは期待していませんよ。
「……アリア、貴様、何故ここに居る?」
「クソ……リチャード様、こんな所で奇遇……でもないのですが、お答えいたしましょう。貴方が私達に差し向けた刺客達ですが全員拘束させてもらいました。残念でしたね、お父様を殺す事が出来なくて」
「んなっ!」
「ご安心下さい。その事を知っているのは今の所、私達だけです。辺境伯閣下は今もぐっすりとお休みになられていますよ」
「どういうつもりだ。俺を脅すつもりか?」
「脅す……?何故……?何の為に……?私にとって貴方程度、何の興味もありません?自惚れがすぎますよ」
興味は無いが、鬱陶しくはある。だけど、ここでは言わないでおく。
「だから、ガーベラとか言うクン・ヤンのハニートラップに引っ掛かるんですよ。貴方程度の男がモテモテなわけがないでしょう。自惚れも、度が過ぎるといっそ哀れですよ……」
「……ハニートラップ?」
あれ?この世界ではハニートラップって言葉は無かったのかな?
それとも、言葉はあっても気が付いていないだけか?
「……何故、私達がクン・ヤン派だと言う事に気が付いた?私達は秘密裏に活動していたはずなのに」
リチャードの近くにいた青年が私に尋ねてきた。
「簡単ですよ。貴方達の黒幕が教えてくれました。貴方達も中々大胆ですね。国家転覆を計るなんて。それも数十年の歳月をかけてだなんて、気が長いのを通り越して正気を疑いましたよ」
「……黒幕?何の話です?妄想を語るのはやめていただきたいですな」
「では、連れて来ましょうか?クリス、イタカを連れて来てちょうだい」
私は、クリスに闘技場にいるイタカを連れて来てもらった。
イタカはこっちに来た早々、私の前に跪きほぼ土下座状態になった。
「イタカ、お久しぶりね。ちょっと聞きたいのだけど、以前、貴方が話していた悪巧みのメンバーってここにいる人達で間違いはない?」
私の質問を聞いたイタカは、周りを見渡した。
直接、イタカに勧誘された人も多かったのか、口々にイタカの名前を呼んでいた。
「……間違いございません。私が勧誘した者達です」
「そう。クリス、元の場所に返して」
「かしこまりました」
「お待ちください!私をクン……」
クリスはイタカに最後までセリフを言わせる事なく強引に転移させた。
その様子をみていた貴族の連中は、もれなく絶句していた。自分達が今まで尊敬していたイタカの変わりようを見て愕然としている様だった。
「……イタカ様に何をしたのだ……」
絞り出すように吐き出したセリフに向かって、私は言葉を返す。
「暇つぶし?遊び相手としては丁度良かったので……」
周りの貴族連中は、私の言葉を信じてないのか、ずっと顔を強張らせている。
「まあまあ皆さん、どうか落ち着いて下さい。本来なら皆さんの事なんてどうでもよかったのですが、そこのクソ馬鹿野郎……リチャード様が刺客なんて送り込んで来たので、少しばかりの報復にお付き合い下さい」
「……誰が馬鹿野郎だ!田舎娘の分際で、上級貴族に対しての口の利き方も知らんのか!」
「馬鹿野郎ではありません、クソ馬鹿野郎です、間違えないように。それに貴方達が貴族とか平民とか、そんなくだらない事なんてどうだっていいのです」
「俺達がくだらないだと!」
「では、貴方達は貴族として何かを成し遂げた事でもありますか?毎日仕事もせず、惰眠を貪り、酒・色・金に溺れ、堕落している貴方達は人間としても出来損ないです。貴方達の事をクソ馬鹿野郎と言う私のどこが間違っていると言うのですか?」
貴族の若者達が、皆、呆気に取られている。
素晴らしい私の論破能力。我ながら惚れてしまいそうで、自分の才能が恐ろしい。
すると、クソ馬鹿野郎の筆頭であるリチャードが顔を真っ赤にして怒り出した。
「言わせておけば、漬け上がりおって!この場で殺してやる!」
クソ馬鹿野郎筆頭は腰に下げた剣を抜き、私に向かって切り掛かってきた。
「……口で勝てないから、今度は実力行使ですか?本当に、貴方の頭は飾りなのですね。私が貴方がよこした刺客をどうしたのか?ここまで来るまでに使用人をどうしたのか?ちょっとくらいは考えたらいかがですか?」
私は筆頭がヒョロヒョロと振っている剣を躱しながら、モリガンに筆頭を除いた全員を石に変化させる様に命じた。
その瞬間、私達を除いた全員の姿が石像に変わった。
その変化を見た筆頭は、腰を抜かしその場にへたり込んでしまった。
「……ひょわぁぁぁ、何が、何が起こったんだ!」
「この程度で尻餅をつくなんて、鍛錬が足りていませんね。こんな見てくれだけの剣を使っているだけはありますね」
そう言って、筆頭が降っていた剣を指先で摘むと、剣が分解したかの様に光の粒になって消えてしまった。
その様子を見た筆頭は、また悲鳴をあげて固まり、挙げ句の果てに漏らしてしまったようだ。……どこまでも、残念なやつだなぁ。
「私が蒔いた餌に簡単に喰らいつくなんて、本当に貴方は愚かですね……」
「……お……お前は一体何なんだ!」
「答え合わせは、明日のお楽しみにとっておきましょう。大丈夫、明日は貴方がもっと楽しめる趣向を用意しておきますので、期待しておいてください」
私はモリガンに、筆頭を石に変化させてもらって、石像達をモリガンの住処に全て送ってもらった。
「……今日はこんなところかな。ついでだし、この家を見学しましょう」
私はクリスとモリガンを引き連れて、屋敷のあちこちを見て回った。
……うん、悪霊は取り憑いていないみたいだ、ちょっと残念……。
この世界での悪霊とは、死後、魂の精霊が世界を管理する精霊の所に帰らず、世界に留まっている状態の事を指します。
アリアはこの屋敷に魂の精霊がいたら、精霊の所に連れて行くつもりでいました。




